思考停止に陥らない!

思考力,細谷 功
(画像=The 21 online)

AIの台頭やグローバル化の加速など、現代社会は猛スピードで複雑に変化している。こうした世界では、知識だけではなく、自分の頭で深く考えることが欠かせない。しかし、「考えることが苦手」だと思考停止に陥ってしまう人は多いもの。そこで、問題解決や思考に関する講演やセミナーで講師を務める細谷功氏に、思考力を高めるための習慣と、その方法をうかがった。

あなたは、どれだけ自分の頭を使っているか

今まで、日本社会で高く評価されてきたのは「知識」でした。学生時代には知識の多寡を試験で問われ、偏差値という物差しで序列をつける。そして会社に入れば、上司や顧客に頼まれたことに疑問も持たず、それを効率的にこなす人間が評価されてきました。

しかし、人工知能の飛躍的な進歩によって、その前提が崩れつつあります。定型的な仕事は徐々に人間からAIに置き換えられつつあります。そして、かつては知識や経験の量で勝負できた分野にも、その波がひたひたと迫りつつあります。

では、こうした時代に求められる能力とは何でしょうか。それは、「問題そのものの意味」や、「答えのない問題」について、「自分の頭を使って考える」ことです。「いきなりそんなこと言われても……」と思う人は多いでしょう。ですが、日々の思考習慣を少し変えるだけで、自分の思考力を鍛えていくことは可能です。ここではそんな方法を7つ、ご紹介したいと思います。

Lesson 1 「無知の知」を意識する

●どうやって? あえて「自責の念」を持ってみる

知らず知らずのうちに「視野が狭くなっている」ことは多いもの。そんなときは、「他人に気づかせてもらう」のが一番です。周りの人に積極的にアドバイスを求めましょう。より広い視点を得るには、自分は何も知らないという謙虚な姿勢、いわゆる「無知の知」を持って問題と向き合うのがその第一歩だからです。実際には、誰かから意見されるとつい感情的になってしまう人がいますが、「逆ギレ」は思考停止の証。そんな人はまず、「原因は自分にあるのではないか?」という自責の念を持つ習慣をつけてみましょう。きっと、以前よりも広い視野を持つことができるはずです。

Lesson 2「疑う力」を養う

●どうやって? 自分なりの見解をアウトプットする

現代は、ビジネスに有用な情報が簡単に手に入るようになった半面、真偽不明の情報も多数出回っています。目の前の情報をむやみに信じ込むことはとても危険です。今後はますます「疑う力」が求められてくるでしょう。では、疑う力を鍛えるためには、どうすれば良いのか。1つは、物事の「正しい」「間違い」といった意見は絶対的なものではなく、状況によるものだと認識すること。情報発信者の立場により、何が正しくて何が間違っているかは変わるものだからです。そして、得た情報を自分なりに解釈し、アウトプットする習慣をつけることです。情報を自分で解釈するためには、自然と「その情報は本当に正しいのか」と深く考える必要が出てくるからです。

Lesson 3 相手目線を意識する

●どうやって? 自分が「お客様」になって体験する

「相手の立場で考える」習慣はビジネスの基本であり、思考力を高めるためにも重要な視点。ただし、相手目線になって物事を考えるのは、言うほど簡単なことではありません。そこで私がお勧めしたいのが、何らかのサービスを受ける際、「自分がどのように感じたか」を深く考えること。たとえば私はコンサルタントなので、タイプの似た医師のサービスを参考にします。病気で病院に行った際、どんな言葉をかけてもらったら安心するか、あるいは嫌な気分になるか。その感覚を自分の仕事にも応用するのです。こうした視点でサービスを受けてみれば、顧客の意図をよりリアルに感じ取ることができ、予測の精度も上がっていくはずです。

Lesson 4 論理的に考える

●どうやって? 「脈絡がない人」の話し方から学ぶ

論理的思考力を鍛える方法はいろいろですが、簡単かつ効果的な方法があります。それは、「論理的でない人の話し方に注目する」こと。具体的には、「話に脈絡がない人」の話し方を観察するのです。論理的でない人は「自分では気づいていない」ことが多く、逆にそれは他者からはよく見えるからです。それを我が身に置き換えてみることです。たとえば、「今日は大雨だったので、昼ご飯はカレーだった」と言われたとします。こういう人の話は一見つながっていないようで、多くの場合、そこに「隠れた前提」があるもの。たとえば「大雨のせいで外食できなかったから、ビル内で販売されているカレーを食べた」のではないか、などと推測してみるのです。こういうクセをつけておけば、論理的思考力を高めるトレーニングになるとともに、人に伝える際にもよりわかりやすい表現で伝えることができるはずです。

Lesson 5「why」を意識する

●どうやって? 上司になったつもりで考えてみる

「なぜ」は自分の頭で考える重要なキーワード。あらゆる物事に対して「なぜ」と自問することで、思考を深められます。その際のコツは、「上位目的」を考えること。たとえば上司に、「この資料をもっと薄く」と指示されたが、翌日には「もっと厚く」と言われたとします。そんなときは、「なぜあえて矛盾した指示をしたのか」と「上位の目的」を考えてみます。すると、上司の意図はあくまで「わかりやすい資料」を作ることであり、文章の要点を絞ることで「薄く」するとともに、わかりやすい図解を増やして「厚く」してほしいという指示ではないのか、という仮説が成り立ちます。実際に上司に確認することで、指示の方向性がより明確になるでしょう。

Lesson 6 抽象化して考える

●どうやって? 出来事同士の「共通点」を見つけ出す

具体的な事例から何らかの法則を取り出す、いわゆる「抽象化」は、ビジネスマンにとって非常に重要な能力です。抽象化とはすなわち、別々の物事の共通点を見つけ出すということ。この能力を伸ばすには、日頃からあらゆる物事の「共通点」を意識することです。たとえば、よく飲食店厨房で、若手の店員が店主にお客に聞こえるような声で怒られているところを目にします。店主は「そんな態度ではお客様が不愉快だ」とでも言っているんでしょうが、お客にとっては店主の態度のほうがよほど不愉快です。そういう経験が、先日に見た、街中で親が子供を「そんなに騒いだら他の人に迷惑でしょ」と大声で0 0 0 叱りつけ、よほどその声のほうがうるさかったと感じた記憶と結びつきました。このように、さまざまな事象から共通点や似た構図を見つけ出す練習をしておきましょう。

Lesson 7 具体化を意識する

●どうやって? 似た構図をストックしておく

さて、別々の事例から共通する要素を見つけ出すことができたら、今度はそれを具体化して、別の場面に応用することが求められます。まずは、先ほどのような例を数多くストックしておくこと。すると、日常で同じような事象が起きたときに、「あの時の出来事と共通している」と気づくことができます。そして、その事例を挙げながら「注意する際は人前から離れてそっと注意すればいい」という解決策を提案すればいいのです。このように、抽象と具体は2つで1つの思考法。抽象的思考と具体的思考を往復することで、思考力はどんどん深まっていき、解決できる課題はどんどん増えていくでしょう。

細谷 功(ほそや・いさお)ビジネスコンサルタント
1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部を卒業後、東芝を経て日本アーンスト&ヤングコンサルティング(現、㈱クニエ)入社。2012年より同社コンサルティングフェローに。ビジネスコンサルティングの傍ら、講演やセミナーを多数実施。『「Why型思考」が仕事を変える』『メタ思考トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)など著書多数。《取材構成:吉川ゆこ》(『The 21 online』2018年2月号より)

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