1-3月期のマイナス成長は一時的であり、緩やかな景気回復シナリオに変化なし

要旨

○民間調査機関23 社の経済見通しが出揃った。実質GDP成長率の平均値は、2018 年度が前年度比+1.1%(2月時点見通し:同+1.3%)、2019 年度が同+0.8%(2月時点見通し:同+0.8%)となった。18 年1-3月期のGDPを受けて、住宅や個人消費等の予測が引き下げられたことから、18 年度の予測は2月予測時点から小幅に下方修正された。もっとも、企業部門を牽引役に緩やかな景気回復を続 けるという先行きシナリオに変化は無かった。

○2018 年度入り後も、世界経済の拡大を背景とした堅調な輸出や、外需や企業収益の好調さを受けた設備投資の持ち直しが続くことで、景気回復が続くとみられている。住宅については、鈍化傾向で推移する とみられている。

○2019 年度についても、消費増税によって駆け込み需要・反動減は見込まれているが、14 年の消費増税時よりも家計への負担が小さいことから、景気回復は続くことが期待されている。

○消費者物価指数(生鮮食品を除く)の見通しは、18 年度は同+1.0%(2月時点見通し:同+1.1%)、19 年度(消費増税の影響除く)は同+0.9%(2月時点見通し:同+0.9%)と前回からほぼ変わらなかった。18 年度以降は、エネルギー価格や賃金の上昇による価格転嫁から物価は上昇を続けるとみられている。もっとも、消費の持ち直しが緩やかなものに留まる中で、日銀が目指す2%の物価上昇の達成は困難との見方が依然としてコンセンサスだ。

コンセンサスは2018 年度:+1.1%、2019 年度:+0.8%

 民間調査機関による経済見通しが出揃った。本稿では、5 月24 日までに集計した民間調査機関23 社の見通しの動向を概観する。民間調査機関の実質GDP成長率予測の平均値は、2018 年度は前年度比+1.1%(2月時点見通し:同+1.3%)、2019 年度は同+0.8%(2月時点見通し:同+0.8%)である。後述の通り、18 年1-3月期の結果が下振れたことを受けて、住宅や個人消費を中心に予測が引き下げられ、18 年度の成長率予測は2月予測時点から下方修正された。

民間調査機関の経済見通し(2018年5月)
(画像=第一生命経済研究所)

18年1-3月期はマイナス成長となるも回復基調を維持する見通し

 5月16日に発表された2018年1-3月期実質GDP成長率(1次速報)は、前期比年率▲0.6%(前期比▲0.2%)と9四半期ぶりのマイナス成長となり、市場予想(ブルームバーグ調査:前期比年率▲0.1%、前期比0.0%)を小幅に下振れる結果となった。個人消費や住宅投資、設備投資といった項目が弱含んだが、「これまで高めの成長ペースが続いた反動という面があるほか、悪天候要因で昨年末以降に生鮮野菜の価格が高騰したことによる家計購買力減少、大雪等の天候不順などの一時的要因が影響した可能性が高い」(東レ経営研究所)との見方が多い。野菜価格の高騰や天候不順は既に解消されていることや、世界経済の回復が続いていることを受けて、「景気後退局面入りを示唆するものではなく、景気回復が維持される中での一時的な現象である」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)との見方がコンセンサスとなっている。

民間調査機関の経済見通し(2018年5月)
(画像=第一生命経済研究所)

18年度は1-3月期の下振れにより下方修正

 2018年度成長率予想は前年度比+1.1%(2月見通し:同+1.3%)となった。1-3月期の結果で、住宅や個人消費の動きが弱いことが示され、前回から下方修正された。住宅投資は、「住宅価格の高止まりや空室率の上昇が下押し圧力となり、鈍化傾向で推移する」(明治安田生命)とみられているものの、日本経済全体の成長率については、「底堅い民需や輸出に支えられて回復基調が続く」(浜銀総合研究所)とのシナリオに大きな変化は無かった。予想よりも弱い動きがみられた設備投資については、これまで高い伸びを続けてきたことによる一時的な調整であり、「企業収益の大幅増加に伴う潤沢なキャッシュフローを背景に、設備投資は先行きも底堅い動きが続く可能性が高い」(ニッセイ基礎研究所)との見方が多い。家計部門については、「賃金の緩やかな上昇、消費マインドの改善などを背景として、全体としては緩やかなペースで回復していく」(三菱総合研究所)とみられている。

 2019年度成長率予想は同+0.8%(2月見通し:同+0.8%)と前回から変わらない結果となった。10月には予定通り10%への消費増税が行われることが多くの機関で想定されているが、「2014年4月の引き上げ時よりは引き上げ幅が小さく、かつ軽減税率が適用されることもあり、悪影響は小さい」(富士通総研)とみられている。良好な雇用環境が消費者マインドを支え、19年度も回復基調を維持するとの見方が多い。消費増税は日本経済の成長に対して強い下押し圧力となるものの、19年度の実質GDP成長率はプラスを維持するとの見方がコンセンサスだ。

 2018年1-3月期のGDPは9四半期ぶりのマイナス成長となったものの、18年度、19年度について、世界経済の拡大が続く中で輸出や設備投資が増加し、景気回復基調が続くという先行きシナリオに大きな変化はなかった。しかし、米国が保護主義的な貿易政策を打ち出していることで、多くの機関が米中貿易戦争を不確実要因に挙げていた。「トランプ大統領としても、貿易戦争への懸念が株価の重しとなる状況が中間選挙の直前まで続く事態は避けたいはず」(明治安田生命)とみられており、現時点での影響は限定的と考えられているが、リスクが深刻化した場合の世界経済の減速が、景気回復シナリオ実現の妨げとなることが懸念されている。

以下では需要項目別に、エコノミストの見方を概観していく。

① 個人消費

 18 年1-3月期の個人消費は前期比▲0.0%となった。雇用面・所得面において着実な増加が続いているものの、大雪等の天候不順によって外出が手控えられたことや野菜価格の高騰によって家計の実質購買力が低下したことを受けて、個人消費は微減となった。

民間調査機関の経済見通し(2018年5月)
(画像=第一生命経済研究所)

 先行きについては、大雪等の天候不順や生鮮食品の価格高騰といった個人消費を押し下げていた要因が剥落していることや「所定内給与の伸びが高まっているほか、正社員の増加などを背景に中低所得者の所得増が明確化するなど、雇用環境は着実に改善」(日本総合研究所)していることから、足元の弱い動きは一時的なものであり、個人消費は回復に転じるとの見方がコンセンサスだ。ただし、「エネルギー価格を中心とする物価の上昇が実質所得を下押しする構図は当面続く」(みずほ総合研究所)ことから、回復ペースは緩やかなペースにとどまるとみられている。

② 設備投資

 18 年1-3月期の設備投資は前期比▲0.1%と小幅ながら6四半期ぶりに減少したものの、「16 年半ば以降の高い伸びの中での一服であり、均してみれば回復基調を維持している」(三菱総合研究所)との見方がコンセンサスとなっている。

民間調査機関の経済見通し(2018年5月)
(画像=第一生命経済研究所)

 先行きについては、日銀短観3月調査における設備投資計画では2007 年以来の高い計画となっており、「高水準の企業収益や良好な資金借入環境などを背景に企業の設備投資意欲は前向き」(富国生命)であることから、設備投資は増加基調で推移すると見込まれる。「五輪関連・省力化投資等の進捗により、設備投資は堅調な増加を見込む」(みずほ総合研究所)との見方がコンセンサスだ。

③ 輸出

 18 年1-3月期の輸出は前期比+0.6%となり、プラスではあるものの、伸び率は鈍化した。「スマートフォンの販売が世界的に伸び悩んでいることで、日本企業が供給する半導体や電子部品の需要が減速」(信金中央金庫)したことで、これまで牽引役となっていたIT 部門が減速することとなった。

民間調査機関の経済見通し(2018年5月)
(画像=第一生命経済研究所)

 先行きについては、「海外経済の拡大を背景に堅調な推移が続くことが予想される」(ニッセイ基礎研究所)との見方がコンセンサスだ。税制改革などによって景気が押し上げられる米国を筆頭に、海外経済は堅調な景気拡大を続けることが想定されており、世界的な需要増が見込まれている。「データセンターや車載向けの半導体需要や、海外の設備投資回復による資本財への需要が増加すること」(日本経済研究センター)から輸出は今後も増加を続けるとみられている。今回伸び悩んだIT関連需要についても、世界的なスマートフォンの販売不振による一時的な動きとみられている。

○消費者物価は緩やかに上昇するが、2%達成には遠い

 消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の予測の平均値は、2018年度が同+1.0%(2月見通し:同+1.1%)、2019年度が同+0.9%(2月見通し:同+0.9%)と、前回予測時からほぼ変わらなかった。先行きについては、足元の原油価格の高騰を受けて、エネルギー価格の押し上げ圧力は強まるとみられている。もっとも、消費の持ち直しが緩やかなものにとどまる中で、強気の価格設定は困難とみる機関が多く、「2019年度中に日本銀行が物価安定の目標としている2%に達することは難しい」(ニッセイ基礎研究所)との見方がコンセンサスである。予測期間を通じて、消費者物価上昇率は前年比+1%程度の伸びに留まり、引き続き日本銀行の目指す2%の物価上昇の達成は遠いとの見方が多かった。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所の見通しについては、Economic Trends「2018~2019年度日本経済見通し」(5月16日発表)をご参照ください。

第一生命経済研究所 経済調査部
担当 副主任エコノミスト 小池 理人