要旨
2018年6月、WHO(世界保健機関)が国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)を公表した。1990年の改訂(ICD-10)以来の大改訂である。
日本では、「ゲーム障害(Gaming disorder)」が正式な病気として搭載されたことで注目されたが、それ以外に東アジアの伝統医学が追加されたほか、詳細な病態を把握するためのコードの追加などの大きな変更がある。
本稿では、改訂の概要と、日本での利用について紹介する。
ICDとは
●ICDは、様々な国や地域の死因や疾病を把握するためのもの
ICD(1)(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)とは、様々な国や地域から、異なる時点で集計された死亡や疾病のデータの体系的な記録、分析、解釈及び比較を行うため、1900年以降、WHOが定期的に改訂している分類である。
WHO加盟国は、死因分類については、死因統計を報告する必要があるため、導入時期は区々であるものの、おおむね最新のICDを使う。一方、疾病分類については、自国で医療費政策に使う診断群分類をもつ国が多いため、自国の事情にあわせてアレンジして使っているようだ。
日本では、ICDに準拠した「疾病、傷害及び死因の統計分類」を統計法に基づく統計基準として定めており、
- 国が定期的に公表している公的統計(人口動態統計、患者調査、社会医療診療行為別調査等)
- 医療機関等のレセプト(診療報酬明細書)、電子カルテ、DPC(診断群分類・包括評価)等
で利用している。
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(1)正式名称は、”International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems”。
ICD-11の特徴
今回の改訂は、医学・公衆衛生の新しい知見を導入してのアップデートだけでなく、
- 疾病・死亡統計、プライマリケア、臨床、研究等、様々な場面での使用を想定し、より多様な病態を表現できるよう、種類だけでなく内容を含めてコード体系を整備していること
- 臨床現場や研究など様々な場面での使用を想定し、ウェブサイトでの分類の提供等、電子的環境での活用を想定した様々なツールを提供していること
が特徴となっている。
ICD-11の構成は図表1のとおりである。
新たに「第4章 免疫系の疾患」「第7章 睡眠・覚醒障害」「第17章 性保健健康関連の病態」「第26章 伝統医学の病態─モジュールI」が設けられた。さらに、健康に関連する生活機能のレベルを評価するための「第V章 生活機能評価に関する補助セクション」と、各専門科の観点からより詳細な情報を示すための「第X章 エクステンションコード」が追加された。
●章立ての組み直しによる追加・変更
「第4章 免疫系の疾患」「第7章 睡眠・覚醒障害」「第17章 性保健健康関連の病態」は、主に章立てを組み直したことによる追加である。
たとえば、「免疫系の疾患」は、これまで「血液及び造血器の疾患」と同じ章に分類されていたが今回分離された上で、アレルギー等の該当疾病が他の章から移設された。「睡眠・覚醒障害」についてみると、これまで睡眠に関する疾病は、「精神及び行動の障害」と「神経系の疾患」に分かれていたほか、多くの睡眠・覚醒障害に病名コードがついていなかったが、今回統一され、病名コードが細分化された。新たに病名コードがついたことで、実態把握も進むと考えられる。また、「性同一性障害」は、これまで「精神及び行動の障害」に分類されていたが、今回「性別不合」と名称変更されたうえで「精神、行動又は神経発達の障害」から外れた。
その他、「脳血管疾患」が、これまで「循環器系の疾患」に分類されていたが、「神経系の疾患」に移設される等の変更があった。
●疾病分類の新設
「伝統医学の病態─モジュールⅠ」は、東アジアの伝統医学がコード化されるようになったことによる追加である。伝統医学(主に、漢方・鍼灸)は、それぞれ特定地域で発展してきたが、グローバル化が進む中で、国際的に用語や診療コードの標準化が求められるようになっていた。今回、東アジアの伝統医学が組み込まれることになり、日中韓を中心に討議が重ねられてきた。
「伝統医学疾病(特定の症状、徴候等とともに発現する身体系の機能不全)」、および「伝統医学証(脈診、舌診、腹部診察等による所見)」にコードが振られている。
従来の疾病分類とは異なる位置づけであり、死因分類には使われないほか、症候が同じであれば西洋医学のコードが優先される。
今回、伝統医学が組み込まれたことにより、伝統医学のデータ蓄積と、従来の疾病分類と伝統医学の疾病分類を組み合わせた病状の把握や治療が期待される。
●生活機能評価の導入
WHOにはICDのほか、健康状態に関連する生活機能と障害を評価するための国際生活機能分類(ICF)がある。今回、ICD-11の「第V章 生活機能評価に関する補助セクション」には、その一部が組み込まれた(図表2)。このコードによって、健康に関連する生活機能のレベルを記述し定量化するのに適した、個人の生活機能の概略とスコアを作成することができる。
ただし、現状では、臨床現場においては、必ずしもICFが使われているわけではないことから、今後の普及に向けての検討が行われる予定である。
●詳細な病態を把握するための仕組み
疾病の細分類については、分類軸が変わったり(部位に注目した分類から種類に注目した分類等)や、より細かく分化されるなどの変更があった(2)。さらに、「第X章 エクステンションコード」で、より詳細で多様な病態を把握することが可能になった(図表3)。
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(2)冒頭で紹介した「ゲーム障害(Gaming disorder)」は、「精神、行動又は神経発達の障害」に組み込まれた。
データの蓄積と活用の視点から
昨今、医療費適正化、および、個々のQOL向上を目的として、健康・医療・介護関連データを活用する動きが活発となっている。疾病分類には、ICDが基本となるコードが使われる。今回の改訂で、より詳細な病態を把握できるようになると思われる。
また、医療と介護の連携は、現在進められている地域包括ケアの中心となる。新しくICFを取り入れた「生活機能評価に関する補助セクション」は、医療と介護の連携に使える項目だと思われる。しかし、現在、ICFの概念は使われているものの、必ずしも今回導入された分類と同一ではないため、普及に向けては既存の基準や統計との整合性の確認等が必要だろう。
村松容子(むらまつ ようこ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任
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