94年並の猛暑到来で7-9月期の家計消費を+9400億円押し上げ

要旨

● 世界的に異常気象を招く可能性のあるラニーニャ現象が発生している。ラニーニャ現象が発生すると、日本では経験則的に猛暑や厳冬等になりやすく、今年5月の景気ウォッチャー調査(内閣府)のコメントでも既に効果を期待する声が聞かれている。

● 1990年代以降のラニーニャ現象が発生していた時期に景気回復局面にある確率は極端に高い。実際、2010年の7-9月期の経済成長率がラニーニャ現象による猛暑で年率+6.0%成長に加速した経緯があることからすれば、今夏のラニーニャ現象による猛暑も日本経済に思わぬ効果をもたらす可能性がある。

● 一般的な猛暑効果としては、飲料関連需要の高まりやビアガーデン等の盛況がある。コンビニをはじめ小売業界の売上高も、猛暑効果で季節商材の動きが活発化することが期待される。外食売上高以外にも、飲料や家電向けを中心にダンボールの販売量も増加が予想され、ドリンク剤やスキンケアの売上好調により製薬関連でも猛暑は追い風となろう。乳製品やアイスクリームの好調推移が期待される乳業関連も猛暑効果は大きく、化粧品関連でも季節商材の好調が目立つ。一方、ガス関連は猛暑で需要が減り、医療用医薬品はお年寄りの通院が遠のくこと等により、猛暑がマイナスに作用する可能性がある。

● 気温も含めた家計消費関数を推計すると、7-9月期の日照時間が+10%増加すると、同時期の家計消費支出が+0.45%程度押し上げられることになる。気温に換算すれば、7-9月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約+5,100億円(+0.8%)押し上げることになる。

● 仮に今年7-9月期の日照時間がラニーニャで猛暑となった2010年並となれば、家計消費+7,000億円(+1.1%)押し上げを通じて、同時期の実質GDPが+5,300億円(+0.4%)押し上げられることになる。更に、過去最も日照時間が多かった94年並となれば、家計消費+9,400億円(+1.5%)押し上げを通じて、同時期の実質GDPを+7,200億円(+0.6%)押し上げると推計される。

● しかし、ラニーニャで記録的猛暑となった94、10年とも7~9月期は大幅プラス成長を記録した後、翌10~12月期は個人消費主導で大幅マイナス成長に転じていることには注意が必要。

猛暑、厳冬をもたらすラニーニャ

 世界的に異常気象を招く恐れのあるラニーニャ現象が発生している。気象庁が6月25日に発表した7-9月の3か月予報によると、ペルー沖の海面水温が低くなるラニーニャ現象の影響等で猛暑となる見込みとされており、内閣府が公表する景気ウォッチャー調査でも効果を期待するコメントが出ている。

 ラニーニャ現象とは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5度低くなる状況が1年から1年半続く現象である。ラニーニャ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。最近では2014年夏から冬にかけて発生し、スリランカで大雨となった。日本では西日本〜北日本の日本海側で10月を中心に暖秋となり、12月から翌年の2月上旬までを中心に寒波と長期的な降雪となった。最も影響が拡大したのは94年と2010年の夏である。94年は日本で過去最高・観測史上1位の猛暑・暖秋となり、2010年は21世紀日本で観測史上1位の猛暑となった。気象庁の過去の事例からの分析では、ラニーニャ現象の日本への影響として、梅雨入りと梅雨明けが早まることで夏の気温は平年並みから高めとなり、冬の気温は平年並みから低めとなる傾向がある、ということ等が指摘されている。

ラニーニャ発生時期の9割近くが景気回復

 実際、ラニーニャ現象の発生時期と我が国の景気局面の関係を見るべく、過去のラニーニャ現象発生時期と景気回復局面を図にまとめてみた。すると、90年代以降全期間で景気回復期だった割合は72.4%となる。しかし驚くべき事に、ラニーニャ発生期間に限れば88.2%の割合で景気回復局面に重なる事がわかる。

景気を左右するラニーニャ現象
(画像=第一生命経済研究所)

 実際、2010年のラニーニャ発生局面では記録的な猛暑に見舞われた。気象庁の発表によると、6~8月の全国の平均気温は平年より1.64度高くなり、1898年の統計開始以来最高の暑さとなった。この猛暑効果で7月のビール系飲料の課税数量は前年比2カ月連続プラスとなった。コンビニ売上高も麺類や飲料など夏の主力商品が好調に推移したことから、既存店前年比で7月以降2ヶ月連続プラスとなった。

 また、小売業界全体を見ても猛暑効果は明確に現れた。7月の小売業界の既存店売上高伸び率は猛暑の影響で季節商材の動きが活発化し、百貨店・スーパーとも盛夏商材が伸長したことで回復が進んだ。家電量販店の販売動向もエアコンが牽引し、全体として好調に推移した。

 小売業界以外でも、猛暑の恩恵が及んだ。外食産業市場全店売上高は7月以降の前年比で2ヶ月連続のプラスとなり、飲料向けを中心にダンボールの販売数量も大幅に増加した。また、ドリンク剤やスキンケアの売上好調により製薬関連でも猛暑が追い風となった。さらに、乳製品やアイスクリームが好調に推移した乳業関連も、円高進行による輸入原材料の調達コスト減も相俟って好調に推移した。

 化粧品関連でも、ボディペーパーなど好調な季節商材が目立った。一方、ガス関連は猛暑で需要が減り、医療用医薬品はお年寄りの通院が遠のいたこと等により、猛暑がマイナスに作用したようだ。

 以上の事実を勘案すれば、仮にラニーニャ現象により今年の夏も猛暑となれば、各業界に恩恵が及ぶ可能性がある。

幅広い猛暑効果

 事実、過去の経験によれば、猛暑で業績が左右される代表的な業界としてはエアコン関連や飲料関連がある。また、目薬や日焼け止め関連のほか、旅行や水不足関連も過去の猛暑では業績が大きく左右された。そのほか、冷菓関連や日傘・虫除け関連といった業界も猛暑の年には業績が好調になりがちとなる。更に、飲料の販売比率の高いコンビニや猛暑による消費拡大効果で広告代理店の受注も増加しやすい。缶・ペットボトルやそれらに貼るラベルを製造するメーカーや原材料となるアルミニウム圧延メーカー、それを包装するダンボールメーカーなどへの影響も目立つ。更には、ファミレスなどの外食、消費拡大効果で荷動きが活発になる運輸、猛暑で外出しにくくなることにより販売が増える宅配関連なども猛暑で業績が上がったことがある。一方、食料品関連やガス関連、テーマパーク関連、衣類関連などの業績には、過去に猛暑がマイナスに作用した経験が観測される。

景気を左右するラニーニャ現象
(画像=第一生命経済研究所)

7-9 月期気温+1℃上昇で家計消費+5,100 億円増加

 そこで、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見るべく、国民経済計算を用いて7-9月期の実質家計消費の前年比と東京・大阪平均の気温や日照時間の前年差の関係を見た。すると、両者の関係は驚くほど連動性があり、7-9月期は気温上昇や日照時間が増加した時に実質家計消費が増加するケースが多いことがわかる。従って、単純に家計消費と気温や日照時間の関係だけを見れば、猛暑は家計消費全体にとっては押し上げ要因として作用することが示唆される。

 ただ、家計消費は所得や過去の消費などの要因にも大きく左右される。そこで、国民経済計算のデータを用いて気象要因も含んだ7-9月期の家計消費関数を推計すると、7-9月期の気温や日照時間が同時期の実質家計消費に統計的に有意な影響を及ぼす関係が認められる(補論参照)。そして、過去の関係からすれば、7-9月期の日照時間が+10%増加すると、同時期の家計消費支出が+0.45%程度押し上げられることになる。これを気温に換算すれば、7-9 月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約+5,100 億円(+0.8%)押し上げることになる。

 従って、この関係を用いて今年7-9月期の日照時間が94 年および2010 年と同程度となった場合の影響を試算すれば、日照時間が前年比でそれぞれ++33.5%、+25.0%増加することにより、今年7-9月期の家計消費はそれぞれ前年に比べて+9,400 億円(+1.5%)、+7,000 億円(+1.1%)程度押し上げられることになる。

景気を左右するラニーニャ現象
(画像=第一生命経済研究所)

 ただし、家計消費が増加すれば、同時に輸入の増加等ももたらす。このため、こうした影響も考慮し、最終的に猛暑が実質GDPに及ぼす影響を試算すれば、94 年並となった場合は+7,200 億円(+0.6%)、2010 年並となった場合は+5300 億円(+0.4%)ほど実質GDPを押し上げることになる。このように、猛暑の影響は経済全体で見ても無視できないものといえる。

景気を左右するラニーニャ現象
(画像=第一生命経済研究所)
景気を左右するラニーニャ現象
(画像=第一生命経済研究所)

猛暑後のマイナス成長ジンクス

 しかし、10~12 月期は反動が予想されることには注意が必要だ。過去の例では、記録的猛暑となった94、10 年とも7~9月期は大幅プラス成長を記録した後、翌10~12 月期は個人消費主導でマイナス成長に転じているという事実がある。

 つまり、猛暑特需は一時的に個人消費を実力以上に押し上げるが、むしろその後の反動減を大きくする姿が窺える。猛暑効果により売上を伸ばす財・サービスは暑さを凌ぐ為に止む無く出費するものが多い。従って、今年も猛暑効果で夏に過剰な出費がされれば、秋口以降は家計が節約モードに入ることが予想されるため、秋以降は注意が必要だろう。(提供:第一生命経済研究所

景気を左右するラニーニャ現象
(画像=第一生命経済研究所)
景気を左右するラニーニャ現象
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣