60代の人々の就労状況

 人生100年時代を迎え、年金支給開始年齢の引き上げ、年金給付水準の抑制が必至と言われている中、できるだけ長く働くことで生活を維持することが必要とされている。実際、「定年」という概念も変わりつつあり、60歳を超えても働き続ける人が増えている。

 こうした中、現在60代の人々はどのような働き方をしているのだろうか。当研究所が2016年10月にインターネット調査により実施した「定年に関するアンケート調査」において、60代男女(60歳時点で正社員であった600人)の就労状況を分析したところ、60代の人々の就労パターンは大きく3つに分けられる。1つ目は60歳を過ぎても同じ会社で継続雇用されている人(以下「勤務継続」)である。この中には、定年退職後も同じ会社で働き続けている人の他、定年に達していないために働き続けている人や、定年はなく同じ会社で働き続けている人もいる。2つ目は定年前後に再就職した人(以下「再就職」)であり、3つ目は定年前後に退職した人(以下「退職」)である。

 この3つのパターンの内訳は、「勤務継続」が男女ともに最も多く、男性52.7%、女性66.7%である(図表1)。次いで「再就職」が男性26.0%、女性16.0%である。そして「退職」が男性11.3%、女性8.3%である。その他、自営業や自由業などがあり、男性10.0%、女性9.0%である。60歳時点で正社員であった人のうち、「退職」した人は男女ともに1割前後であり、「勤務継続」という形で就労している人が半数以上を占めている。

60代の定年退職経験者の働き方の変化
(画像=第一生命経済研究所)

定年退職前後の働き方の変化

 次に、定年退職を経験して働いている60代の人々の、定年退職前後の働き方の変化をみる。

 まず、勤務時間の変化をみると、男女ともに「勤務継続」では「フルタイムのまま変わらない」が7割前後である(図表2)。他方、「再就職」では「1日の勤務時間が短くなった」「1週間あたりの勤務日数が少なくなった」「勤務時間も勤務日数も少なくなった」をあわせた回答割合が男女ともに半数以上を占めており、勤務時間や勤務日数が少なくなった人が多い。

60代の定年退職経験者の働き方の変化
(画像=第一生命経済研究所)
60代の定年退職経験者の働き方の変化
(画像=第一生命経済研究所)

 賃金については、男女並びに「勤務継続」「再就職」ともに、ほとんどの人が「減少した」と回答している(図表3)。サンプル数が少ないので参考値であるが、女性の「再就職」では全員が「減少した」と答えている。「再就職」の人の場合、働く時間・日数に連動して賃金も減少している人が多いようであるが、「勤務継続」の人の場合、フルタイムのまま変わらずに働いている人が多くても賃金が減少したとの回答が多い。実際、「フルタイムのまま変わらない」と回答した「継続勤務」の人で、賃金が「減少した」と回答した人は男性92.9%、女性83.9%を占めている(図表省略)。

 さらに、仕事内容の変化をみると、男女ともに「再就職」では「まったく別の業務内容に変わった」人が多数を占めているが、「勤務継続」は「業務内容も責任の重さも変わりがない」と回答している人が半数以上を占める(図表4)。先ほどのように、賃金との関係をみると、「業務内容も責任の重さも変わりがない」と回答した「継続勤務」の人で、賃金が「減少した」と回答した人は男性88.1%、女性79.3%を占めており(図表省略)、仕事内容は変わらなくても賃金が減少している人が多い。

60代の定年退職経験者の働き方の変化
(画像=第一生命経済研究所)

定年退職後の働き方の選択肢の多様化を

 年金制度の改正に合わせて65歳まで雇用を確保するために、高年齢者雇用安定法の改正法(2013年4月施行)により、企業に「定年の廃止」「定年の引き上げ」「継続雇用制度の導入」のいずれかの措置を義務付けた。こうした取組により、「勤務継続」の道が開かれるようになり、実際、多くの人がその選択をして働いている。

 現行の、定年までの年功型賃金制度の下では、定年後の賃金低下はやむを得ないとの見方もあり、賃金は減っても、働く場所が確保されているということで、自分の給料に満足している人も少なくない(図表5)。一方、「あまり満足していない」や「満足していない」という人も一定の割合でおり、勤務時間も仕事内容も責任も変わらずに、賃金が抑えられている状況で働くことに不公平感を感じる人もいる。定年後もスキルや経験を活かして意欲的に働くことができるよう、継続雇用制度のみでなく、「再就職」を含め定年後の働き方の選択肢を幅広く捉えることが必要であろう。(提供:第一生命経済研究所

60代の定年退職経験者の働き方の変化
(画像=第一生命経済研究所)

主席研究員 的場 康子
(ライフデザイン研究部 まとば やすこ)