目次

1.はじめに
2.有給休暇の取得状況
3.有給休暇を取得することへの「ためらい」意識
4.有給休暇の取得促進のメリット
5.まとめ ·

要旨

①当研究所では女性の活躍推進のために必要な職場環境の整備の一つとして、年次有給休暇を取得しやすい職場づくりに注目し、子育て世代の休暇に対する意識を探るためにアンケート調査を実施した。

②年次有給休暇の取得率は男性43.6%、女性54.3%であった。女性の方が高いとはいえ、付与されている有給休暇の半分程度しか取得していない。末子の学齢別に取得率をみると女性は末子が「幼稚園・保育園」から「中学生」までが取得率が高い。男性は末子が「中学生」で最も低いが、これ以外はほぼ横ばいで末子の学齢による変化は大きくない。

③子どもの看病や学校行事など、子どもを理由とした休暇は、男性よりも女性の方が多く取得している。特に末子が「中学生」くらいまでの女性は、自分のリフレッシュのためよりも、子どもを理由とした休暇を優先して取得している。

④女性活躍推進のためには、女性が継続して働ける環境を整えることが重要である。現状、育児のために年次有給休暇を活用している人は女性の方が多いことを踏まえると、まずは男女ともに有給休暇を取得しやすい環境づくりが求められる。そのためには有給休暇を取得しても仕事がまわるよう、仕事の分担を明確化し自分のペースで仕事ができるような職場づくりや、一人ひとりの仕事の仕方について、さらなる工夫が求められる。

⑤育児参加に対する男性の意識を高めることも必要である。女性よりも男性の方が子どもの学校行事への参加に消極的であるなど、男性の意識が女性の育児による休暇取得に負担感を生じさせているところもある。仕事と育児の分担について家庭内でよく話し合うことも必要ではないだろうか。

キーワード:年次有給休暇、女性活躍推進、休暇取得意識

1.はじめに

(1)女性活躍推進のための年次有給休暇取得促進の取組

 わが国では今、仕事に対する意欲と能力を発揮しながらワークライフバランスのとれた働き方を実現するため、労働時間制度の改革が行なわれている。その一環として、年次有給休暇の取得促進のための取組も進められている。

 また今年4月には、女性が希望に応じて十分に能力を発揮し活躍できる職場環境を整備するため、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」が施行された。同法では労働者301人以上の企業に、女性の活躍推進に向けた行動計画の策定などを義務づけている。公表されている各社の行動計画をみると、女性管理職を増やす目標を掲げている企業が多いが、中には働きやすい環境整備のために年次有給休暇の取得率向上を目指している企業もある。男女ともに柔軟な働き方、休み方の実現が女性活躍推進のためにも重要であることを多くの企業が認識している。

 こうしたことを背景に、当研究所では女性の活躍推進のために必要な職場環境の整備の一つとして、年次有給休暇を取得しやすい職場づくりに注目し、民間企業で正社員として働く子育て世代を対象にアンケート調査を実施した。特に子育て世代は子どもの病気や学校行事などのために休まざるを得ない場合があり、必要なときに休めるということも、両立生活のためには重要なポイントであるからである。これを踏まえ、子育て世代の年次有給休暇の取得実態と取得することに対する「ためらい」意識等を明らかにして、有給休暇取得促進のための課題について考える。

(2)アンケート調査の概要

 アンケート調査の概要は図表1の通りである。

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 このうち本稿では、正社員の配偶者をもち、自分も正社員として働いている男女980人について分析をおこなった(図表2)。今後、女性の活躍推進の取組が進む中、子育てをしながら正社員として働く女性が増えるとともに、そのような女性を妻に持つ男性も増えることが見込まれる。夫婦ともに正社員である人々がどのように有給休暇を取得しているかをみる。

 回答者の属性について、年代別にみると、全体では40代が50.5%と最も多く、約半数を占める。性・年代別では女性より男性の方が50代の割合が高い。性・役職別では、女性は94.5%が一般社員であるが、男性の一般社員は66.1%であり、管理職(課長以上)が33.6%を占める。性・企業規模別では、女性よりも男性の方が企業規模が大きい企業に勤務している人が多い。

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

2.有給休暇の取得状況

(1)年次有給休暇の取得率

 本稿の分析対象者における年次有給休暇の取得率(2014年度に付与された日数に占める取得日数の割合)は全体平均で50.5%であった(図表省略)。性別では男性43.6%、女性54.3%であり、女性の方が高いが、付与されている休暇日数の半分程度しか取得されていない(図表3)。性・企業規模別にみると、いずれも女性の方が取得率が高い。また男女ともに30人以上企業からは企業規模が大きいほど取得率が高い傾向がある。

 ちなみに厚生労働省「平成27年就労条件総合調査」によれば、2015年調査(2014年または2013年会計年度の状況)の年次有給休暇の取得率は47.6%(男性44.7%、女性53.3%)である。本稿の分析対象者の取得率(50.5%)は、対象者に女性が多く、女性の高い取得率に影響を受けた結果であると思われる。ただし、性別の取得率の水準は厚生労働省調査と比べても大差がない。また取得率が女性の方が高い、企業規模が大きいほど高い(厚生労働省調査の対象は30人以上企業である)という傾向も厚生労働省調査とほぼ同様の動きである。

 性・役職別にみると、男女ともに一般社員よりも管理職(課長以上)の方が取得率が低い。女性も管理職になると一般社員のときよりも取得率が低くなるようだ。

 性・職種別にみると、技術系専門職(設計、研究開発、プログラマーなど)と事務(総務、経理、企画、編集など)が男女とも取得率が比較的高い(図表4)。製造・生産現場の作業は男女差が大きい。相対的に営業・販売・接客と介護・医療は取得率が低く、特に営業・販売・接客の男性と介護・医療の女性の取得率は30%台と低い水準である。

 性・末子の学齢別にみると、取得率が最も高い時期が男女で異なり、女性は末子が「幼稚園・保育園」、男性は「大学生」である。女性は末子が「幼稚園・保育園」から「中学生」までが取得率が高く、「高校生」になると低下する。男性は末子が「中学生」で最も低いが、これ以外は「大学生」までほぼ横ばいであり末子の学齢による変化は余り大きくない。

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)
子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=男性)

(2)年次有給休暇の取得理由

 年次有給休暇を取得した人に、取得した理由をたずねた結果をみると、全体では「家族との旅行・レジャー」が最も多く、次いで「子どもの学校行事(授業参観やPTA 活動など)」(以下「学校行事」)、「自分の病気・けがの療養、通院」(以下「自分の病気」)などが続いている(図表5)。子育て世代を対象とした調査であるためか、「学校行事」が上位に挙がっている。

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 性別にみると、男性は「家族との旅行・レジャー」が最も多く、次いで「自分の病気」「学校行事」の順である。女性は「学校行事」が最も多く、「家族との旅行・レジャー」や「自分の病気」を上回っている。子育て世代の女性は特に、年次有給休暇を子どもの学校行事のために利用している人が多いことがわかる。また「子どもの病気・けがの看病、通院」(以下「子どもの病気」)のために休む男性の割合は15.3%であり、女性の35.9%を大幅に下回っている。本調査の分析対象は配偶者も正社員として働いている人である。配偶者が正社員として働いていても、子どもの病気のために休むのは女性に多いことがうかがえる。

 性・末子の学齢別にみると、男性では末子が「高校生」以外いずれの学齢も「家族との旅行・レジャー」のための休暇取得が最も多いが、末子が小学生では「学校行事」、大学生では「自分の休養・リフレッシュ」(以下「自分のリフレッシュ」)も半数近くを占めている。女性では、末子が幼稚園・保育園から高校生までは、「学校行事」を理由とした休暇取得が最も多いが、末子が幼稚園・保育園では「子どもの病気」も同率で1位である。末子が小学生でも45.7%が「子どもの病気」を挙げている。末子が幼稚園・保育園から小学生の女性では、「子どもの病気」が「自分の病気」や「自分のリ フレッシュ」を上回っている。この時期の女性は、自分の病気療養やリフレッシュのためというよりは、子どもの学校行事や看病のために有給休暇を取得する人が多いことがわかる。

(3)年次有給休暇の希望する用途

 他方、子育て世代は何のために有給休暇を利用したいと思っているのだろうか。年次有給休暇を取得した人に希望する用途を2つまで回答してもらった結果が図表6である。全体では、実際の取得理由と同様「家族との旅行・レジャー」が最も多い。しかし、「自分のリフレッシュ」が「学校行事」や「自分の病気」を上回っているなど、2位以下は実際の取得理由の順位とは異なっている。

 性別にみると、男女とも「家族との旅行・レジャー」が1位であるが、2位は男女で異なっている。男性は「自分のリフレッシュ」、女性は「学校行事」が僅差で「自分のリフレッシュ」を上回って2位である。女性の約4人に1人は、自分の希望としても、子どもの学校行事のために休暇を取得したいと思っている。

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 性・末子の学齢別にみると、男性で「学校行事」のために休みたいと思っている人の割合は、末子が中学生までは1~2割であり、「自分のリフレッシュ」と同率もしくは若干高い。女性は末子が小中学生では「学校行事」が4割前後であるが、幼稚園・保育園までは「自分のリフレッシュ」の方が上回っている。未就学児を育てている時期は、子どもに手がかかることもあり、自分の休養のために休みたい人が多いようだ。

 ちなみに、学校行事への参加意識をたずねた結果をみると、「会社の休日の場合には参加するが、休暇を取得してまで参加したいと思わない」は男性14.3%、女性6.4%、「会社の休日であっても、参加したいと思わない」は男性10.4%、女性3.7%であり、女性よりも男性の方が学校行事への参加に消極的である(図表7)。仕事と育児に関する夫婦間での分担が公平になっていないことが、「自分のリフレッシュ」のための休暇取得を望む女性の意識に影響を与えていることがうかがえる。

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

3.有給休暇を取得することへの「ためらい」意識

(1)年次有給休暇を取得することへのためらい

 年次有給休暇の取得を望んでいても、実際には取得することをためらう人も多い。そこで次に「ためらい」意識に注目し、この「ためらい」が有給休暇の取得行動にどのように関係しているかをみる。

 有給休暇を取得することにためらいを感じるかをたずねた結果をみたものが図表8である。全体の約6割の人が「ためらいを感じる」(「ためらいを感じる」と「ややためらいを感じる」の合計、以下同じ)と回答している。以下、属性別にみると、性別では男性よりも女性の方が「ためらいを感じる」の回答者が多い。女性の方が男性よりも取得率は高いが、ためらいを感じながら取得しているようだ。企業規模別では、取得率が低い傾向にあった小規模企業ほど「ためらいを感じる」人の割合が高い。性・役職別では、男女とも管理職よりも一般社員の方が「ためらいを感じる」割合が高い。取得率との関連をみると、「ためらいを感じる」割合が高い一般社員の方が有給休暇の取得率は男女とも高く、管理職では、「ためらい」意識は低いが有給休暇の取得率も低い。職種別にみると、取得率が低かった介護・医療は「ためらいを感じる」割合が高い一方で、事務などのように、取得率が比較的高くても、「ためらいを感じる」割合も高いものもある。

 女性や一般社員など、「ためらい」意識にかかわらず休暇取得行動がなされる場合もあるものの、小規模企業や介護・医療職など、「ためらい」意識の強さと取得率には関係があることがうかがえる。したがって有給休暇を取得する壁を低くするためには、少なくとも、「ためらい」意識の発生を弱めることも必要と思われる。そこで次に、有給休暇を取得するにあたり、なぜためらいを感じるのか、あるいは感じないのか、「ためらい」意識が発生する背景を探る。

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

(2)年次有給休暇を取得することにためらいを感じる理由

 「ためらいを感じる」と回答した人に、ためらいを感じる理由をたずねた結果が図表9である。全体では「休むと職場の他の人に迷惑がかかるから」が最も多く、54.2%が回答した。以下「休むと後で忙しくなるから」(30.8%)、「職場の周囲の人の目が気になるから」(30.2%)などが続いている。職場の人への気遣いから、有給休暇を取得することにためらいを感じる人が多いことがわかる。

 実際、年次有給休暇の取得率との関係をみると、「休むと職場の他の人に迷惑がかかるから」と回答した人の取得率は41.5%、「休むと後で忙しくなるから」の取得率は39.5%、「職場の周囲の人の目が気になるから」の取得率は42.8%であり、全体平均の取得率50.5%を下回っている(図表省略)。概ね、こうした理由で年次有給休暇を取得することにためらいを感じている人たちは、有給休暇の取得率が低いことがわかる。

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 属性別にみると、性別では、上位3位までは男女とも同じ理由であるが、4位の理由が男女で異なる。男性は「職場の周囲の人がほとんど有給休暇をとらないから」であり、職場への気兼ねを示す項目が挙がっている。女性は「家族の病気や急な用事のために残しておく必要があるから」であり、男性の回答割合より10ポイント近く高い。本調査の分析対象は配偶者も正社員として働いている人である。同じ正社員として働きながらも、家族の病気などに備えて有給休暇を残しておきたいとの思いは、男性よりも女性に強いようだ。

 企業規模別では、企業規模が大きい方が「休むと職場の他の人に迷惑がかかるから」や「職場の周囲の人の目が気になるから」など、職場の人への気遣いを理由としている割合が高い。企業規模が小さい企業でも、周囲への気遣いから休暇を取得することをためらう人の割合は低くはないが、「休むと後で忙しくなるから」のように、自分の仕事量の関係で休むことにためらいを持つ人が相対的に高い。

 性・役職別では、男性では管理職よりも一般社員の方が周囲や上司への気兼ねを理由としてあげている人の割合が高いが、女性では管理職でも周囲や上司の目を気にしている人が多い。

 職種別では、技術系専門職以外は「休むと職場の他の人に迷惑がかかるから」への回答が1位であり、半数を超えている。

(3)年次有給休暇を取得することにためらいを感じない理由

 一方、図表8では、有給休暇を取得することに「ためらいを感じない」(「あまりためらいを感じない」と「まったくためらいを感じない」の合計)という人も約4割いる。ためらいを感じずに有給休暇を取得できるのはなぜだろうか。

 有給休暇を取得することに「ためらいを感じない」と回答した人に、その理由をたずねたところ、「自分のペースで仕事を進めることができるから」が最も多く43.7%、次いで「職場の他の人と仕事の調整・分担ができているから」が41.8%で続いている(図表10)。「職場内で計画的に休暇のスケジュールを決めているから」や「有給休暇を取得する時期及び日数を会社から決められているから」は約1割に過ぎない。有給休暇の取得を職場や会社が決めることよりも、日ごろの仕事の仕方が休みやすさにつながることが示されている。

 年次有給休暇の取得率との関連をみると、「自分のペースで仕事を進めることができるから」と回答した人の取得率は63.5%、「職場の他の人と仕事の調整・分担ができているから」の取得率は70.8%、「自分が休んでも他の人の仕事に影響が生じないから」の取得率は67.7%、「職場の周囲の人も休暇を取得しているから」の取得率は69.8%、「休むことは当然の権利だと思っているから」の取得率は66.3%であり、全体平均の取得率50.5%を大きく上回っている(図表省略)。

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 属性別にみると、性別では、「職場の他の人と仕事の調整・分担ができているから」などが男性より女性の回答割合が高く、反対に「休むことは当然の権利だと思っているから」などは女性より男性の回答割合が高い。女性の場合は、仕事の分担が明確であり、自分が休んでもあまり人に影響を与えないと思っていることが、躊躇なく休め ることに関連していると思われる。

 企業規模別では、99人以下の企業では「自分のペースで仕事を進めることができるから」が最も高い。企業規模が小さい企業では取得率が低い傾向があるが、自分のペースで仕事ができることがためらいの軽減につながることがわかる。企業規模が大きい企業では、上司や周囲の人が取得できることを、ためらいを感じずに取得できる理由として挙げている人が多い。

 性・役職別にみると、男女ともに管理職では自分のペースで仕事ができること、一般社員では周囲の人に影響を及ぼさないことを挙げている人が多い。

 職種別では、いずれの職種も「職場の他の人と仕事の調整・分担ができているから」への回答割合が高い。回答数が少ないので参考値ではあるが、比較的取得率が低い介護・医療職であっても仕事の分担ができていればためらいなく休みやすいものと思われる。

4.有給休暇の取得促進のメリット

 最後に、有給休暇を取得しやすくすることのメリットをたずねた結果を示す。  有給休暇を取得しやすくすることの「メリットは特にない」と回答した人は全体の15.9%であり、8割以上の人は有給休暇を取得しやすくすることが従業員や会社にメリットがあることを認識している(図表11)。

子育て世代の年次有給休暇の取得意識
(画像=第一生命経済研究所)

 具体的内容をみると、「従業員の心身の健康を高める」(以下「従業員の健康」)が最も多いが、「従業員の生産性が向上する」(以下「生産性の向上」)や「従業員が仕事と家庭の両立がしやすくなる」(以下「両立のしやすさ」)も僅差で続いている。有給休暇の取得促進の取組は、従業員の健康、生産性向上、両立支援に寄与することを約4割の人が認めている。

 性別にみると、「両立のしやすさ」と「女性の継続就業につながる」(以下「女性の継続就業」)の回答が男性よりも女性で高い。 企業規模別にみると、100 人以上の1位は「従業員の健康」であるが、99 人以下の1位は「両立のしやすさ」である。

 性・役職別にみると、特に女性管理職で「両立のしやすさ」を挙げた割合が高い。

 職種別にみると、多くの職種が「従業員の健康」や「生産性の向上」を上位に挙げているが、介護・医療職では「人材の確保につながる」と「女性の継続就業」がそれぞれ1位と2位である。特に介護・医療分野は人材不足が問題となっている。有給休暇を取得しやすくすることが、女性の就労を促進し人材確保につながると期待されている。

5.まとめ

(1)役職や職種によって異なる年次有給休暇の取得率

 以上、子育て世代の有給休暇取得の実態と有給休暇を取得することへの「ためらい」意識をみてきた。年次有給休暇の取得率は男性よりも女性の方が高い。また男女ともに企業規模が小さい企業よりも大きい企業の方が高い。役職別では、男女ともに管理職よりも一般社員の方が取得率が高い。女性活躍推進の一環として、女性の管理職登用が進められている中、管理職になっても有給休暇を取得しやすい職場環境づくりが望まれる。有給休暇の取得率は職種によっても異なることも明らかとなった。技術系専門職は男女とも取得率が高いが、男性では営業・販売・接客、女性では介護・医療の仕事に従事している人の取得率が低い。こうした職種では人材不足が課題になっているところが多い。有給休暇の取得促進によって人材確保につながるというメリットも認識されており、人材不足への解決のためにも取得率向上のための取組が必要である。

(2)子どもを理由とした有給休暇の取得は女性に多い

 子どもの年齢とともに子育ての内容が変化することから、有給休暇の取得状況も変わってくることも明らかとなった。しかもその傾向は特に女性に強く表れており、末子が幼稚園・保育園から中学生の女性の取得率は6割前後と高いが、高校生以上になると5割を下回る。子育てをする中で、子どもは突発的に病気になるし、授業参観や保護者会、PTA 活動など親の参加が求められる学校行事もあり、女性はこうした子どもを理由とした休暇を取得しているからである。特に末子が中学生くらいまでの女性は、限りある年次有給休暇日数の中で、自分のリフレッシュのためよりも、子どもを理由とした休暇を優先して取得している実態が浮かび上がった。

 また、男性よりも女性の方が年次有給休暇の取得率は高いが、それでも54.3%と付与されている有給休暇の半分程度しか取得していない。しかも女性の方が休むことにためらいを感じながら働いている人の割合も高く、子どものためにやむを得ず休暇を取得している女性も少なくないことがうかがえる。ためらいを感じる最大の理由は「休むと周りの人に迷惑がかかる」というものである。周りの人を気遣いながら働くことは業務を円滑に遂行する上で重要なことであるが、これが強すぎると休暇取得に抑制的になり、中には両立を諦めて離職を余儀なくされる場合もあると思われる。

(3)年次有給休暇の取得促進に向けて

 女性活躍推進のためには、女性が継続して働ける環境を整えることが重要である。現状、育児のために年次有給休暇を活用している人が女性の方が多いことを踏まえると、まずは男女ともに年次有給休暇を取得しやすい環境づくりが求められる。そのために一つには、有給休暇を取得しても仕事がまわるよう仕事の分担を明確化することで、できる限り自分のペースで仕事ができるような職場づくりや、一人ひとりの仕事の仕方について、さらなる工夫が求められる。会社が強制的に取得時期や日数を決めるよりも、日常の仕事の仕方を見直すことの方が休みやすさにつながるようである。また、「休むことは当然の権利」と認識している人の取得率が全体平均を上回っていることから、そのような認識を職場で改めて共有することが、休暇取得に対するためらいを減らすことにつながるのではないかと思われる。

 加えて、育児参加に対する男性の意識を高める必要がある。男性の場合、4人に1人が子どもの学校行事への参加に消極的である。この男性の意識が、女性の育児による休暇取得に負担感を生じさせているところもある。まずは仕事と育児の分担について家庭内でよく話し合うことが必要ではないだろうか。

 子育て世代にとって、女性の活躍推進の前提には子育てとの両立支援が欠かせない。育児休業制度などの社内制度や保育所の整備のみならず、年次有給休暇の活用による働き方の見直しをすることで、女性の活躍につなげていくことも必要と思われる。(提供:第一生命経済研究所


上席主任研究員 的場 康子
(研究開発室 まとば やすこ)