9月30日(日本時間10月1日)にトランプ米政権が北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しでカナダと合意したと発表すると、10月1日の日経平均は1月23日に付けた年初来高値をようやく更新した。さらに、翌2日の日経平均は終値で2万4270円を付け、連日で年初来高値を更新した。また、同日のNYダウは9月21日に付けた過去最高値を塗り替え、翌3日も連日で過去最高値を更新した。

一方、同日発表された米9月の全米雇用リポートで非農業部門雇用者数が市場予想を上回り、ISM非製造業景況感指数が予想外に上昇して1997年8月以降で最も高くなると、翌4日の米10年国債利回りは一時3.23%と約7年4カ月ぶりの高水準を付けた。その後、5日に発表された米9月の雇用統計では賃金上昇率が減速したが、失業率が約48年ぶりの水準まで低下したことから10月以降の賃金上昇率が加速するとの警戒感が高まった。すると、9日の米10年国債利回りが一時3.26%と約7年5カ月ぶりの高水準を付け、翌10日のNYダウは831ドル安と急落した。また、翌11日の日経平均も915円安と急落、その後は一旦反発したものの、今週25日には2万2000円台を大きく割り込んでいる。

10月の日米株安は「2月」と似ている

日経平均株価,見通し
(画像=PIXTA)

今回の日米株安は、NYダウが1月26日に過去最高値を付けた直後に発表された米1月の雇用統計で、賃金上昇率が市場予想を大幅に上回ったことを受けて米長期金利が上昇し、NYダウや日経平均などが急落した状況と似ている。

2月の世界同時株安は、米VIX 指数の上昇が同指数をリスク測定の指標としているファンドの株売りを加速させたとして「VIXショック」と名付けられたが、今回もVIX指数が急上昇した。2月の日米株安は1~2週間で収束したが、今回は米国の賃金上昇率が改めて加速する可能性に加えて、対中制裁関税や原油高の影響で米国の物価上昇率も加速する可能性には注意が必要だろう。また、IMF が10月9日に改定した世界経済見通しで、2018年と2019年の世界の成長率予測を7月時点の予測から0.2ポイント下方修正したことに加えて、トランプ大統領が仕掛ける貿易戦争が激しくなれば、2019年以降の成長率が最大0.8ポイント下振れすると警告したことにも注意が必要だろう。

海外投資家の日本株買いは仕切り直しとなった可能性

東京証券取引所と大阪取引所が発表した10月第2週(10月9~12日)の投資部門別株式売買状況によると、海外投資家は日本株の現物を4週ぶりに売り越し、先物は3週連続で売り越した。その結果、現物と先物の合計では5週ぶりに売り越し、売越額は「人民元ショック」が発生した2015年8月下旬以来、約3年1カ月ぶりの大きさとなった。10月10日のNYダウが831ドル安と急落したことから、日経平均が915円安と急落した翌11日の東京市場ではヘッジファンドなどが先物を大幅に売り越したとみられる。一方、海外投資家の先物売買と連動する東証の裁定買い残株数は9月中旬以降増加して一時10億株を越えたが、10月16日時点では9月11日以来の7 億株割れとなった。9月中旬以降先物を中心に大幅に増加した海外投資家の日本株買いは一旦手仕舞われ、仕切り直しとなった可能性が高い。

目先の日本株は反発のタイミングをうかがう展開

日本政府観光局が発表した9 月の訪日外国人客数は前年同月比5.3%減と5年8カ月ぶりに減少した。台風21号による関西国際空港の閉鎖や大規模停電があった北海道地震の影響が大きかったが、足元では回復基調になっているという。一方、財務省が発表した9月の貿易統計では、輸出金額が前年同月比1.2%減と1年10カ月ぶりに減少した。財務省は「台風21号による関西国際空港の閉鎖で貨物輸送に影響が出た」と説明するが、株式市場では米中貿易戦争の影響も大きいのではないかとの見方が強まっている。また、日銀が支店長会議でまとめた10 月の地域経済報告(さくらリポート)によると、7月以降米国と中国が互いに追加関税を課した影響が製造業の盛んな地域で表れ始め、先行きにも懸念の声が相次いだ。

目先の東京市場では、10月下旬からスタートする日本企業の4〜9月期決算で業績計画が保守的になり、通期予想が据え置かれたり上方修正の幅が期待ほど大きくならない可能性に注意が必要となろう。また、日本株を取り巻く外部環境としては、11月6日の米中間選挙、米国とサウジアラビアの関係悪化、中国の景気減速懸念、イタリアの財政問題に対する懸念、英国のEU離脱交渉の難航など不透明要因も目立つ。日経平均は年内に再び2万4000円台を回復する可能性もあると見ているが、目先は内外の景気や企業業績及び外部環境などを見極めながら、反発のタイミングをうかがう展開と想定する。

野間口毅(のまぐち・つよし)
1988年東京大学大学院工学系研究科修了後、大和証券に入社。アナリスト業務を5年間経験した後、株式ストラテジストに転向。大和総研などを経て現在は大和証券投資情報部に所属。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定証券アナリスト。