最近、「成人した子どもへの親の援助」をテーマに立て続けに取材を受けた。

子どもの結婚費用や住宅購入費用の頭金、孫の教育資金など、以前から慣習的に行われているものも多い。それぞれのご家庭の資産状況や考え方、価値観によって人それぞれだろう。しかし、際限のない安易な援助は、子ども世代の経済的自立や精神的自立を阻害する。さらには、親自身の老後生活を脅かしかねない。親として成人した子どもに対してどの程度まで援助すれば良いのだろうか?

20代後半の娘へ毎月「5万円」の仕送りを続ける60代夫婦

先日、60歳の定年退職を迎えるAさん夫婦が、老後の生活についてご相談にみえたときのこと。カルテシートの毎月の家計支出をチェックすると、「仕送り5万円」という明細がある。Aさん夫婦には子どもが3人(長男、長女、次女)いるが、すでに20代後半~30代前半で別に暮らしているはず。Aさん夫婦に「これは?」とお尋ねすると以下のような返事がきた。

「長男と長女は、自宅から大学へ通ったのですが、次女だけは他府県に進学しました。大学卒業後、正社員として就職できず、契約社員として働いています。一人だけ親元から離れて住んでおり、そばで面倒を見てやれないという不憫な気持ちもありましたし、お給料が安くて、生活できないというので、社会人になってからも、そのまま仕送りを続ける形になって。次女の収入が安定するしばらくの間のつもりだったのですが、ついズルズルと続いている状態です」

Aさん夫婦は、定年退職後、3年くらいは働くつもりだが、これまでよりも収入は減るので、次女への仕送りは正直厳しい。しかし、次女の収入は、ここ数年、ほとんどアップしておらず、結婚するまでは、仕送りを続けるしかないかと半ばあきらめてもいるのだという。といっても、結婚する気配など、まったく感じられないそうだ。

子や孫への支出が大きな割合を占めているシニアが約2割

内閣府の「平成28年 高齢者の経済・生活環境に関する調査」で、全国60歳以上のシニアに過去1年間の消費等支出の中で大きな割合を占める支出について質問したところ、全体で最も高かったのが「食費、光熱水費」(75.6%)だった。

次いで、「保健・医療関係の費用」(45.0%)、「住居費、住宅の新築・増改築・修繕の費用」(26.4%)、「交通費、自動車等関係の費用」(22.5%)など、何となく予想できそうな支出が続くのだが、実は「子や孫のための支出」(19.8%)も上位に挙がっている。これは、シニア自身の「趣味やレジャーの費用」(12.4%)や「友人等との交際費」(10.1%)よりも多い。さらに、別居子の有無別でみてみると、「別居子あり」は、「別居の子はいない」に比べて、「子や孫のための支出」(21.9%)が高い傾向にある。

長年働いて、これから悠々自適な生活を楽しめるはずなのに、いまだ子どもや孫への援助が優先されるとは……。いくつになっても子どもが可愛いという親心は察せられるものの、このAさん夫婦のように、自分たちの老後を考えると、「いつまで子どもへの援助を続ければ良いのやら」と悩む親も少なくないだろう。

親子間の扶養義務は子どもが未成熟子かどうかで異なる

そもそも「扶養」とは、障害や病気、ケガ、失業などの理由によって、自身で働くことができない、あるいは資産が十分でないため独立して生計を営むことができない者の生活を他者が援助することを言う。

民法には「扶養」についていくつか規定が設けられており、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」(民法877条1項)と定められているように、親子間では扶養の義務があるとされている。

ただ、子どもについては、その子が「未成熟子」(成人年齢に達しているかいないかに関係なく、まだ経済的に自立できていない子)か否かによって扶養義務に差が生じる。この未成熟子という考え方は、離婚時などに子どもの養育費の負担をどこまでするかを決める際によく出てくるもの。

何歳までが未成熟子と一律に定められるものではなく、親の収入や学歴、家庭環境、子どもの健康状態、就学状況、収入を得られる能力を踏まえて総合的に判断される。とはいえ、おおむね高校卒業程度の18 歳まで、あるいは成人年齢に達する時期と考えるのが一般的だろう。

そして、親子間の扶養義務について、未成熟子に対しては、親の生活に余裕があろうとなかろうと、得られる収入の中から子の生活を維持するために必ず果たさなければならないもの(生活保持義務)、未成熟子以外に対しては、自分の生活に余裕がある範囲で行えば良いもの(生活扶助義務)となっている。

生活費を援助している高齢親の子どもや孫の半数近くが正社員

法律的な解釈からすると、何らかの事情があって、子どもが自力では生計を維持できなければ、親が何らかの援助を行うのは、助け合いの精神から至極当然となる。

問題は、子どもが働いて、ある程度生計を維持できている場合だろう。前掲の調査でも、学生を除く18歳以上の子や孫がいる人のうち、生活費を出している人が2割以上おり、その子や孫の就業状況といえば、半数近くが正社員だ。

このような場合、本来なら、親の扶養義務はあくまで親の余力の範囲内に限定される。しかし実際には、援助する費用は、子どもや孫の結婚資金や住宅購入資金、教育資金などのまとまったお金はもちろん、家族旅行やレジャーに行くときの費用や保険料、スマホ代など、日常的なものまで幅広い。

これだけ成人した子どもに対する親の援助が広がってきた背景には、子ども・孫世代で経済力の脆弱な家庭が増えてきたこと、子育てや教育にお金がかかる時代になってきたことが挙げられる。

まず親自身にかかる老後資金を試算してみることが肝心

とはいっても、親世代も、長生きリスクを考慮すると、際限ない援助は、親子共倒れという事態も招きかねない。そうならないためには、まず親自身が、これからの老後に必要な生活をきちんと試算し、子どもや孫に援助する金額の上限を決めることが重要だ。

これを考えず、イザという時は、子どもが面倒をみてくれるだろうと過信し過ぎないこと。子どもといえども、家庭を持ては、優先順位は、親から自分の家族へと変わるのは当然のことなのだ。

では、親にどれだけの資産があれば援助可能なのだろうか?老後にかかるお金は、①使うお金(毎月の生活費など)、②備えるお金(病気、介護、自宅のリフォームなど)、③残すお金(お葬式代)の3つに分けられる。

例えば、65歳夫婦二人人世帯(平均余命男性19年 女性24年)の場合、上記①の費用を2,400万円~3,000万円(生活費30万円―年金収入20万円=10万円×12ヵ月×20年~25年)、上記②の費用を200~300万円、上記③の費用を100~200万円と見積もると、合計で2,700~3,500万円になる。

なお、要介護状態になった場合、有料老人ホームなど施設に入所したいとお考えの方は、これに500~1,500万円は上乗せしておいた方が良いだろう。ということは、子どもに援助できる人は、これ以上の資産を持っている人となる。とくに、退職金で数千万円のお金が入ると、気持ちが大きくなり、見栄を張って、まとまったお金を渡す人も少なくないという。

一方の子ども世代としては、何かとお金がかかることは間違いないし、もらえるものはもらいたいというのは正直なホンネなのだろうが、「子どもに援助してきたらかお金がなくなった。面倒をみてくれ」と急に言われても困るだろう。つかず離れずの距離感を保ちながら、お互いが自立した生活を営むのがベストなのではないだろうか?

黒田尚子
黒田尚子FPオフィス代表 CFP®資格、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CNJ認定乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。立命館大学卒業後、日本総合研究所に入社。1996年FP資格取得後、同社を退社し、1998年FPとして独立。新聞・雑誌・サイト等の執筆、講演、個人向けコンサルティング等を幅広く行う。2009年末に乳がん告知を受け、「がんとお金の本」(Bkc)を上梓。自らの体験から、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。著書に「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)など。