相続対策として、財産を生前に贈与する方法があります。しかし、贈与した場合も財産の金額に応じて贈与税がかかります。財産を生前に贈与すべきか、一括して相続すべきか、贈与税や相続税の仕組み・税率の違いを踏まえて詳しく解説します。

相続税と贈与税の税率の違い

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(写真=Billion Photos/Shutterstock.com)

財産のある方にとって脅威となるのは相続税です。所得税は収入に応じてかかるため、納税資金が手元にないということはほとんど起こりません。しかし、相続税は違います。財産を移転するだけで相続税が発生するため、財産の構成によっては相続税を納めるために資金を調達しなければならないこともあり得ます。

財産のある方は早めに相続税の対象となる財産を洗い出し、相続対策をすることをおすすめします。相続対策の方法にはさまざまなものがありますが、その一つに生前に財産を少しずつ贈与しておくという方法があります。相続税は財産総額が多いほど高い税率が適用されるため、事前に相続時の財産総額を少なくしておくというものです。

しかし、財産を贈与した場合は贈与税が発生します。贈与税の税率については後で詳しく解説しますが、財産と税率の関係だけで見ると相続税よりはるかに高い税率が設定されています。

ここで気になるのは、贈与せず相続時に一括で財産を移転した方がいいのか、財産を生前に贈与し贈与税を納めてでも相続時の財産総額を減らしておくべきなのか、という点です。贈与税と相続税の仕組みを理解し、正しい相続対策を行いましょう。

贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額に対してかかります。贈与税には年間110万円の基礎控除があり、この範囲内であれば、贈与を受けても贈与税はかかりません。

贈与税の税率は財産が多くなるほど高くなります。例えば親から子や孫に財産を贈与した場合、310万円以下であれば贈与税率は10%ですが、4,610万円を超えると贈与税率は55%にもなります。

相続税は、相続や遺言で財産を受け取った時に発生する税金です。相続税にも基礎控除と呼ばれる税金のかからない範囲があり、相続税の基礎控除は法定相続人の人数によって変わります。

相続税の基礎控除は、3,000万円を基礎として、法定相続人の人数に応じて600万円を加算して計算します。例えば、夫が死亡し妻と子2人が法定相続人となる場合、法定相続人は3人です。この時、基礎控除は4,800万円です。つまり、4,800万円までであれば、財産を相続しても相続税は発生しません。

相続税の税率も財産が多くなるほど高くなります。基礎控除を超える金額が1,000万円以下であれば相続税率は10%ですが、6億円を超えると55%になります。相続財産には現預金だけでなく土地建物や株式、宝石類や美術品なども含まれます。相続財産が高額になり遺された方たちが納税資金の準備に苦労することがないよう、早めに相続対策をしておきましょう。

贈与で相続対策をする方法

贈与で相続対策をすべきかどうかの判断においては、まず財産総額が基礎控除を超えるかどうかを確認することが大切です。もし財産総額が基礎控除の範囲内であれば、贈与税を納めてまで相続対策をする必要はありません。念のため贈与する場合も、110万円の贈与税の基礎控除の範囲内で贈与するようにしましょう。

贈与税を負担してでも相続対策をしたほうがいいのは、財産総額が基礎控除を大幅に上回る場合です。贈与税と相続税の税率を比較し、贈与税の税率のほうが低いのであれば、積極的に贈与を活用するようにしましょう。

例えば、基礎控除後の財産総額が2億円であれば、相続税率は40%です。それなら、贈与税率が30%の範囲内で毎年贈与することで、納税の総額を減らすことができます。贈与することで財産総額も変動するため、金額を確認しながら最適な金額を贈与していくようにしましょう。

贈与では税金以外の配慮も大切

相続や贈与というのは、時として家族関係や子供の教育に大きな影響を及ぼします。税金対策はもちろん大切ですが、配慮を忘れず総合的な観点で相続対策を進めることが何より大切です。

例えば、孫に一人110万円ずつ贈与する場合も、孫がいない家庭と孫の多い家庭で差が出てしまうことがあります。人数で考えるべきなのか世帯で考えるべきなのか、家族間の不和が生じないよう話し合いをしながら相続対策を行いましょう。

贈与の要件として、贈与された側が贈与の事実を認識し、自由に贈与された財産を使える必要があります。子供名義の通帳を作り資金移動しただけでは、贈与とみなされません。そのため、子供に説明する時は財産を管理する責任や、贈与の目的などを十分説明するようにしましょう。(木崎 涼、医療機関専門のファイナンシャル・プランナー/M&Aシニアエキスパート / d.folio