実は「役員の写真」がカギになる

とはいえ、「社長の写真が載っていない会社の株価が低迷しがち」というのは、肌感覚的にもしっくりくる話だ。むしろ興味深いのは「役員個別写真の有無」のほうかもしれない。

同調査では、社長の写真だけでなく、役員の個別写真が自社ウェブサイトに掲載されているかを調べ、同様に株価パフォーマンスを追っている。役員の個別写真を掲載している企業は上場企業の約1割と少数ではあったが、これらの企業の株価パフォーマンスは、そうでない企業に比べ高くなる傾向がみられたのだ。

特に時価総額100億~1000億円の中小型の企業でウェブサイトに役員の写真がある企業とない企業で株価の推移を見たところ、「写真がある」企業群は2012年末から2017年3月末までの累積で74%も平均を上回っている。

役員の写真
出所:アマナ・SMBC日興証券協力、レオス・キャピタルワークス作成。全上場企業のうち、時価総額100億~10000億円の企業をユニバースとし、社長の写真が掲載されている企業とそうでない企業にグルーピング、その株価を指数化したものの単純平均を比較。2012年末~2017年3月末までの株価パフォーマンスをユニバースと比較した。写真の調査は2017年1月時点(アマナ調べ)。

これも、「より会社を身近に感じることができる」「優秀な役員が多いことをアピールしたい」などいろいろな理由が考えられるだろう。レオス・キャピタルワークス代表取締役の藤野英人氏は「役員の写真の有無は、企業文化を推し量るひとつの物差しになる」と語る。役員全員の写真となるとときには十数名にも及ぶため、作業的にも楽ではないはずだ。それでも掲載するところに、その企業の強いポリシーが感じられる。

上記の調査はあくまで上場企業の株価だけを見たものであり、役員の写真に関してはサンプル数も十分とは言えないかもしれない。だが、少なくとも、「サイトに経営陣の写真を載せるかどうか」には企業文化が表れており、それが株価になんらかの影響を与えている可能性があるということだ。

カッコよさよりも「イメージに合った」写真を

では、「写真が載っていればどんな写真でもいい」のだろうか。掲載写真が証明写真のような適当なものだったり、カッコよくてもテイストがその企業のイメージとかけ離れていたりすると、その企業の伝えたい意図がうまく伝わらない可能性があるのだという。

たとえば、黒をバックにブランド物のスーツを着込み、きりっとした表情で腕組みをする写真。若手経営者などを中心によく見かける構図だ。

だが、いくらカッコいい写真でも、この会社が一般消費者向けにオーガニック食品を販売するような会社だったとしたら、顧客のイメージとのギャップが生まれてしまうだろう。

「ハードorソフト」「クールorウォーム」に分類

アマナは、前述の調査とは別に、時価総額100億円~1,000億円の上場企業約1,500社を調査し、アマナ独自の写真のモノサシ「エモーショナルスケール」を用いて企業のHPに掲載されている社長の写真をそれぞれ「ハードかソフトか」「クールかウォームか」の2軸に分けて分類した。

平たく言えば「ハードかソフトか」は「笑顔か、そうではないか」によって決まり、「クールかウォームか」は、背景の色に影響を受ける。4分類のうち、最も多く使われているのは、ソフトな背景に笑顔で映る「ソフト&ウォーム」な写真だという。このタイプの写真からは「やわらかな」「やさしい」「穏やかな」「自然な」といったイメージが喚起されるため、BtoC商品やエコロジー、オーガニックなどの特徴を強調したい企業にはぴったりと言える。

次に多い「ソフト&クール」の写真からは「クリーンな」「シンプルな」「若々しい」などのイメージが、「ハード&ウォーム」からは「伝統的な」「格調高い」「重厚な」といったイメージが喚起されるという。

前述した「きりっとした表情で腕組みした社長」「黒の背景」は、「ハード&クール」となる。「ハード&クール」タイプの写真は「モダンな、シャープな、先進的な」といったイメージになるため、最先端のテクノロジーを扱うIT企業の若手社長なら、このタイプの写真はぴったりマッチする。

ちなみに「ハード&クール」タイプに該当する企業は4分類のうち最も少なかったが、グループごとの株価推移を比べたところ、「ハード&クール」の企業群が最も株価パフォーマンスが良い、という結果が出た。藤野氏は「ハード&クールを選ぶ企業は少数派だが、株価は上がっている。つまり、無難なテイストを避けて、経営のビジョンを明快にしてコミュニケーションの一環として写真を撮影していることの表れではないか」と分析している。

エモーショナルスケールとそれぞれのイメージ写真は以下の通り。実はこちらのサンプル写真は、藤野氏がモデルになりアマナで撮影したもの。同じ人でもテイストによってこれだけ印象が変わるということがわかるのではないだろうか。

役員の写真
(画像=THE21オンライン)

また、エモーショナルスケールの「ハードorソフト」「クールorウォーム」は、経営の軸の「技術力or営業力」「革新性or安定性」と対応するという。

役員の写真
(画像=THE21オンライン)

上記の視点から、ぜひあなたの会社のウェブサイトを見直してみてほしい。トップ、あるいは役員の写真がそもそも掲載されているかはもちろん、それが自社の伝えたいメッセージと一致しているか、ぜひ検討してみてほしい。

ひょっとすると、それを改善することが、業績向上への第一歩となるかもしれない。

THE21編集部(『THE21オンライン』2018年09月21日 公開)

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