(本記事は、髙橋恭介氏の著書『給与2.0 10年後も給与が上がり続ける新しい働き方』アスコム、2018年7月6日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

専門性×顕在化が人材の評価を決める

給与2.0 10年後も給与が上がり続ける新しい働き方
(画像=milatas/Shutterstock.com)

新卒入社の社員を子会社の社長に据える「新卒社長」や、年功序列ではない実力主義型の終身雇用制度など、他の企業にはない革新的な取り組みで知られる株式会社サイバーエージェント。

2018年4月には、新卒入社のエンジニアを対象とする、一律の初任給制度撤廃をスタートするなど、今なお新たなチャレンジを続けています。

実力主義を徹底する同社では、どのような人材が高い給与を得たり、幹部に抜擢されているのでしょうか?

同社の人事統括の曽山哲人取締役は、評価される社員には、「専門性」が必要と話します。

「私にとって専門性とは、ただ知識を蓄えるものではなく、『成果をあげる力』を指します。一定の評価を得るためには、どうしても専門性が欠かせない点は、エンジニアでも営業職でも変わらないでしょう。

専門性を発揮し成果を顕在化できる人は、自らの価値をどんどん押し上げることができますから、社内外で高く評価されるのは当然です」

肩書きやポジションありきの評価ではなく、あくまでも成果をベースとする考えは、「技術者を対象とした一律初任給制度の撤廃」にも表れています。もはや、新入社員であっても、横並びが当然ではないのです。

「エンジニアであれば、たとえば学生時代に開発したアプリケーションのソースコードや研究論文を評価することで、採用時点でも、ある程度実力を把握することができますよね。

特に近年、エンジニアは即戦力になる新卒人材が増えており、そこはきちんと評価すべきだと考え、給与に反映させるようにしました。

今はまだ、技術職以外は、一律の初任給制度を残していますが、営業職でもインターンシップでの実績で評価することはできるでしょう。

ですから、今後、技術者に限らず、すべての新卒者を能力別の給与体系にしたとしても、決しておかしいことではないと考えています」

働く社員の立場から考えると、顕在化された成果に基づく評価が行われることで、給与査定への納得感が高まることが期待されます。もし、事務職や間接部門も含め、あらゆる職種において実力を反映した給与体系が採用されれば、自身の価値を上げるために努力する動機づけになり得るのではないでしょうか。

ただし、まだ成果を発揮できていない人は、実力主義により初任給を決められることに不安感を抱くかもしれません。サイバーエージェントでは、この問題に対しても配慮がなされています。

「学生時代からアプリを開発したり、会社で仕事をしたりと一定の成果を出している人もいますが、やはり会社に入って初めて仕事をする方が圧倒的多数ですから、エンジニアであっても初任給450万円は最低額として保証しています。

こうした給与の金額は、採用市場の情勢を参考にして決めていますが、金銭的報酬に加えて、サイバーエージェントだからこそアピールできる、『仕事の裁量の大きさ』や、『新規事業に携われる可能性』など、いわゆる無形資産もきちんと伝えて就活生に魅力を訴えています。

エンジニアの方であれば、チャレンジをして技術レベルを向上させられるというのも大きいでしょうね」

「決断経験」こそが、個人の成長の糧となる

実力主義型の給与体系を採用すると、どうしても経験が少ない若い人ほど成果を出しにくくなります。つまり、意図せずに、年功序列に近づいてしまうというジレンマが生じがちなのです。

ところが、サイバーエージェントの場合、新卒入社の社員をグループ子会社の社長に抜擢するなど、社内経験年数を度外視した人事配置も行っています。

これは、「決断経験」を重視する同社の方向性によるものだと、曽山取締役は言います。

「人材の価値は、決断経験の多さによって高まると私は考えています。たとえば、取引先にAとBのどちらの商品を提案するのかという選択や、新規事業の計画提案など、普段の仕事の中でも決断が問われる場面は少なくありません。組織の問題を、上司にどうやって伝えるのかという決断もあるでしょう。

こうした決断の機会が増えれば、それは自分自身の知的資産として蓄積され、やがて行動や発言としてアウトプットされます。

アウトプットすれば、周囲のフィードバックを受けてまた新たな決断をする時の材料が増えるため、決断経験を軸としたアウトとインのサイクルが回ることになります。

このサイクルは、人材の成長に直結します。

学生時代にはそれほど差がなくとも、社会に出てからは決断経験の多寡による差は顕著に現れ、たとえ同じ社歴であってもパフォーマンスに大きな違いが生まれるはずです。

サイバーエージェントで新卒社長に選ばれる人は、やはり明らかに決断経験を多く積んでいる人材です。そうした人材を社長にすると、さらに加速度的に成長していきますよね」

決断経験を重視する同社の姿勢は、社員に対する意識付けにも表れています。たとえ入社1年目であっても、「新人」として一括りにするのではなく、一人ひとりに明確に役割を与え、「主役感」を持たせることが意識されています。

自らが主役になることで毎日の仕事に意義や意味を見出し、努力や決断を促す風土をつくっているのです。

サイバーエージェントの藤田晋社長は、同社を24歳のときに設立しましたが、この歴史も、若くして経営マインドを生む組織文化の醸成に寄与していると考えられます。

それは、毎年約10社もの新たなグループ子会社が生まれ、新卒や入社2年目といった若手が経営を担っていることからもうかがえます。

「社長の藤田をはじめ、自分の先輩たちが若手の時代にどんな決断経験をしていたのかを聞くことで、若手社員はプレッシャーを感じるかもしれません。

でも、そのプレッシャーに負けずに挑戦し続ければ、藤田よりも大きな成果を出せるかもしれない。そうしたマインドを持たせることは、きっと個人の成長につながり、それは金銭的報酬にもつながるはずです」

ワクワクする目標で、モチベーションを高める

評価の結果がもっとも明確になるのは、給与査定のタイミングでしょう。

サイバーエージェントでは、半年に1回、給与査定が行われ、「目標をクリアすれば給与が上がる」という考えが定着しています。

曽山取締役は、「一般社会において、目標設定は非常にないがしろにされている」と語り、人事評価に当たって目標設定がいかに重要であるかを指摘しました。

「『いい目標ができたら、達成できたも同じ』というのが私たちの考え方です。いい目標の定義については様々な考えがあると思いますが、私は、社員が『ワクワクするような目標』こそが、いい目標だと考えています。

たとえば、新規事業コンテストの担当になったと仮定して、『事業プランの申し込みを最低100件集める』という目標と、『1社でもいいから、新会社につながるビジネスを生み出そう』という目標とでは、ワクワク度が全く違います。

ワクワクできるかどうかは、自分自身や会社の成長に貢献できるイメージが持てる目標を立てられるかにかかっています。そのためには、上司による目標の意味付けが欠かせません」

このように、金銭的な報酬だけでなく、感情も報酬と考えて社員のモチベーション向上や成長を促すのが、サイバーエージェントの特徴です。

「もちろん、金銭的なインセンティブも重視していますが、感情の報酬も同様に欠かせないと考えています。他の企業でも、金銭と感情の両面が必要だということは認識されているのではないでしょうか。

ただ、実際に人事評価制度に感情的な報酬をきちんと取り入れている企業は多くないと感じています。

それはおそらく、金銭的報酬と異なり、感情の報酬において求める要素は人によって違うため、何が心に響くかを知るためには、一人ひとりに寄り添う必要があり、その分、手間もかかってしまうからでしょう。

たとえば、褒められることをモチベーションとする人もいれば、褒めることでかえって意欲が下がる人もいますよね。このあたりの判断は、個別に考えるよりほかありません」

サイバーエージェントでは、2005年から月に1度の上司と部下の面談を推奨しています。

面談の目的は、上司と部下の信頼関係を育て、社員のモチベーションを上げること。

この面談で、各社員にとってどのようなアプローチが有効かを見極めていくのです。給与査定や部署配置についても、各事業部に設置するエンジニアリーダーと事業責任者で決定しており、そこでもやはり対話を重視しています。

「人事評価をするときには、どうしても人間の感情が入り、すべてを合理性だけで決められるものでもないため、部下として不本意な評価を受ける可能性はあります。

しかし、そこは上司と部下の対話の量を増やすなどして、給与の納得感を高める努力をしていきます」

給与2.0 10年後も給与が上がり続ける新しい働き方
髙橋恭介(たかはしきょうすけ)
一般社団法人スマートワーク推進機構代表理事。株式会社あしたのチーム代表取締役。東洋大学経営学部卒業後、興銀リース株式会社に入社。2002年、プリモ・ジャパン株式会社に入社。2008年、リーマンショックの直後に株式会社あしたのチームを設立、代表取締役に就任する。2018年2月には、人事評価制度の啓蒙と浸透を目的に「一般社団法人人事評価推進協議会」を設立。

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