年末年始の日米株式相場は文字通りジェットコースターのような乱高下を繰り返した。昨年12月24日のNYダウが約1年3カ月ぶりの安値を付けると、翌25日の日経平均は1010円安と昨年最大の下落率かつ2番目の下落幅で急落し、1万9155円と1年3カ月ぶりの安値をつけた。しかし、翌26日にクレジットカードの米マスターカードが年末商戦期の小売売上高が過去6年で最も高い伸びだったと発表すると、同日のNYダウが1086ドル高と過去最大の上げ幅で急反発し、翌27日の日経平均は750円高と昨年最大の上げ幅で2万円台を回復した。

ところが、1月2日に米アップルが中国販売の低迷などを理由に昨年10〜12月期の売上高予想の下方修正を発表し、東京時間3日朝の外国為替市場で円相場が一時1ドル=104円台まで急騰すると、3日のNYダウが660ドル安と急落し、大発会を迎えた翌4日の日経平均も452円安と急落して再び2万円台を割り込んだ。しかし、FRBのパウエル議長が4日の講演で「市場は世界景気を不安視しており、金融政策も柔軟に見直す用意がある」と述べ、今年想定している2回の利上げを一時停止する可能性を示すと、同日のNYダウは746ドル高と大幅に反発し、7日の日経平均も477円高と大幅に反発して2万円台を回復した。

目先の日米市場では米中貿易協議の進展期待が続く可能性

日本株,見通し
(画像=PIXTA)

米中は1月7日から北京で開いた次官級の貿易協議を9日に終え、USTR(米通商代表部)は「中国による米国の農産物やエネルギー、工業製品、サービスなどを大量に購入するとの約束」を中心に議論したとの声明を発表した。同声明は具体的な合意の有無などには触れなかったが、トランプ大統領は「交渉は極めて順調だ」と表明した。

また、中国商務省は「お互いに関心ある問題の解決に向けた基礎を築いた」とする声明を発表し、「米中双方は密接なやり取りを続けることで合意した」とも強調した。すると、日米市場では米中貿易協議の進展期待が株高要因となり、10日のNYダウは約1カ月ぶりに2万4000ドル台を回復し、15日の日経平均は2万500円台を回復した。

さらに、中国商務省の報道官は17日の定例記者会見で、劉鶴副首相が30~31日に訪米し、ライトハイザーUSTR代表やムニューシン米財務長官らとの貿易協議に臨むと発表した。世界銀行が8日に改定した世界経済見通しで、米中貿易戦争などの影響で世界の輸出入が急減速する可能性があると警告したことには注意が必要だが、目先の日米市場では米中貿易協議の進展期待が続く可能性があろう。

中国の景気減速懸念が続く可能性に要注意

1月14日に中国税関総署が発表した昨年12月の貿易統計ではドル建ての輸出額が前年同月比4%減と市場予想に反して大幅に減少し、輸入額も8%減とこちらも市場予想に反して大幅に減少した。米中貿易摩擦に伴う追加関税の影響で米国との貿易が低迷したほか、景気減速で内需も弱含んでおり、輸出・輸入とも前年同月比で減少するのは2016年10月以来2年2カ月ぶりだ。

また、同日発表された昨年12月の新車販売台数は前年同月比13%減と、6カ月連続減少した。発表元の中国汽車工業協会の幹部は「自動車取得税の減税が一昨年末で打ち切りになったことに加えて、景気減速や米中貿易戦争が消費者の購買心理に影響を与えた」と分析した。

さらに中国国家統計局が昨年末に発表した12月のPMI(購買担当者景気指数)が好不調の目安となる50を2年5カ月ぶりに下回ったこともあり、目先の日米市場では中国の景気減速懸念が続く可能性に注意が必要だろう。

目先の日本株に過度な下値不安は少ない

日本電産 <6594> は1月17日に、中国事業での想定を越える逆風を背景に2019年3月期の業績予想を従来の最高益予想から一転減益予想に下方修正し、同社は「米中貿易摩擦に端を発した経済の不確実性が、中国経済を中心とした世界の実体経済に深刻な影響を及ぼしてきている」と指摘した。したがって、今後発表される米国企業の決算でも下振れや冴えない見通しの発表が目立つ可能性や、今月末から本格化する日本企業の決算発表でも業績予想を下方修正する企業が目立つ可能性に注意が必要だろう。

なお、英国のEU離脱問題は今後もしばらく迷走する可能性が高いが、最も懸念される「EUとの合意なきEU離脱」に至る可能性は低く、日本株にとって深刻なリスク要因になることはないとみている。

一方、東京証券取引所と大阪取引所が発表した1月第2週(7~11日)の投資部門別株式売買動向によると、海外投資家は日本株の現物を9週連続で売り越したが、先物は2週連続で買い越した。海外投資家の現物売りが続いても日銀のETF(上場投資信託)買いで一定程度吸収されるとすれば、海外投資家の先物買いが続けば日本株の下支え要因となり得る。目先の日本株は様々な懸念材料を背景に上値の重い展開が続く可能性もあるが、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)からみた割安感が強いこともあり、過度な下値不安は少ないと考えられる。

野間口毅(のまぐち・つよし)
1988年東京大学大学院工学系研究科修了後、大和証券に入社。アナリスト業務を5年間経験した後、株式ストラテジストに転向。大和総研などを経て現在は大和証券投資情報部に所属。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定証券アナリスト。