あなたは株か?債券か?
ところで、前掲書の原題は「Are You a Stock or a Bond ?」なのである。本欄の読者にこのタイトルの和訳は不要だろうが、「あなたは株式ですか、債券ですか?」と尋ねている。
この本で挙げられていた印象的な例を簡単に紹介しよう(以下139ページ)。例えば、共に、年収が10万ドルで年齢が45歳の証券会社社員と終身資格を持っている大学教授がいるとすると、証券マンは「株式」で、大学教授は「債券」なのだという。なぜなら、証券マンの仕事は株式市況が好調な時に収入が増えるし概して不安定であるから「株式的」であり、大学教授の方は将来の収入が安定しているから「債券的」なのだ。収入は同じでも、証券マンよりも大学教授の方が、将来収入のリスクが小さいので、割引率が小さく、人的資本の価値は大きい。
さらに面白いのはこの先で、例えば、一定の仮定の下、共に25万ドルの退職資産(確定拠出年金など)を持っているとした場合、著者のモデルの計算によると証券マンは退職資産の60%を株式で運用し、40%は債券と安全な固定利付き資産で運用することが推奨される一方で、大学教授には全体が70万ドルになるように45万ドルを借りて全て株式で運用する、退職資産の実に280%のリスク資産投資が推奨される。
ちなみに、生命保険は「人的資本のヘッジ」として扱われており、上記のケースで適正とされる生命保険の額は45歳時点で大学教授が190万ドル、証券マンが130万ドルであり、55歳時点ではそれぞれ80万ドルと40万ドルだという。証券業界に身を置く者としては、少々切ない思いになる例だが、考え方にはおおむね納得できる。
細かな計算過程は明らかにされていないが、著者は、さまざまな仮定を置いてモンテカルロ・シミュレーション(※)を行って計算したものと思われる。