「人的資本」とは?概念とその価値について考える

個人の経済生活を考える上で「人的資本」は有用な概念だ。人的資本は、将来の稼ぎ(将来受け取ることが期待される収入)を割り引き、現在価値にして合計したものだ。正確に計測や計算することはできないが、個人の稼ぐ力を株価のように評価したものだと考えるといい。

例えば、健康で安定した職に就いている若いサラリーマンなら、貯金をほとんど持っておらず、金(カネ)の運用を考える上で人的資本の重要性を強調することがある。人的資本について、今回あらためてこの概念について考えてみるきっかけになったのは、モシェ・ミレブスキー著「人生100年時代の資産管理術」(鳥海智絵監訳、野村證券ゴールベース研究会訳、日本経済新聞出版社刊)を読んだことだ。個々人の人的資本の大きさとリスクの性質を考慮した上で、資産運用を中心に金融に関する意思決定について書かれた本で、米国の制度や金融商品と、日本のそれらが異なるので直接応用できない話題もあるが、人的資本についてあれこれ考えてみる上で良い本だった。また、邦訳のサブタイトルに「リタイア後のリスクに備える」とある通り、人的資本の価値が消滅するリタイア後の金融資産の管理についても、かなり詳しく書かれている。

人的資本という概念自体は、ノーベル経済学賞を受賞したゲーリー・S・ベッカーが最初に考案した。例えば、教育投資に人的資本の価値を向上させる効果があることなどを説明し実証した。

<人的資本の価値について主な性質>

1. より収入の高い職業に就くと人的資本は増大する

2. 当面および将来予想される収入が同じでも、収入の安定性が高い方が人的資本の価値は高い(将来の収入を現在価値に引き直す割引率は将来収入の変動リスクが小さい方が小さくなるから、現在価値が高くなる)

3. 教育投資(特に若い頃)によって、人的資本の価値は向上する傾向がある

4. 健康への投資によって将来働ける期間や労働の強度を大きくすることで、人的資本の価値を向上させたり、低下を抑えたりできる可能性があるといったことが大まかに言える

なお、人の個性や人生はさまざまなので、教育や健康以外にも、人間関係だとか美容だとか、場合によってはある種の休息に対する投資も「人的資本の価値を向上させる有効な投資だ」と言える可能性もある。