(本記事は、野口吉昭氏の著書『人生を変える自分の磨き方 思考・言葉・行動・習慣・人格・運命の法則』かんき出版、2018年9月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
アドラーはなぜ、もてはやされるのか
フロイト(1856?1939)、ユング(1875?1961)と若干の時代の違いはあるものの、同じ時期に心理学者として活躍していたアルフレッド・アドラー(1870?1937)が、なぜかここ数年ブームになっている。
アドラー心理学は、一般に「個人心理学」と言われている。
フロイトのもとにいたアドラーは、最初はフロイトの理論?原因探求アプローチの心理学に傾倒していたが、しだいに距離を置くようになった。多くの原因を性欲に置くフロイトのアプローチを嫌ったと言われている。
アドラーは、原因探求アプローチではなく、目的設定アプローチの立場をとった。
たとえば、引きこもりで悩んでいる人がいたとする。
フロイトは、「なぜ、引きこもっているのか」という原因を、過去の経験などから探求する。「外に出るのが怖いから」「人とコミュニケーションをはかることが怖いから」……、といった原因を探っていくということだ。
一方、アドラーは「外にいきたくないから引きこもっている」という、行動の目的を設定するアプローチをとる。
どんな行動にも目的があり、それを見つめる必要があるというアプローチだ。
ベストセラーにもなった『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健著・ダイヤモンド社)にあるように、「人は人からの承認をもらい、人の期待を受けるために生きる必要はない」つまり、「承認欲求を捨てなさい」というメッセージが、今の日本社会(韓国でも同様に共感を得られた)にマッチしたようだ。
SNSやLINEでのクイックレスポンスに疲れ、人の目、人への気配りに疲弊している現代人にうってつけのものだった。
「自分の問題と他人の問題を完全に分離して考えればいい」という考え方が反響を呼んだのだ。
人の多くの悩みは、他人との関係性にこそある。だから、「嫌われたっていいじゃないか!」という勇気づけが、多くの人間関係に疲れた人たちに受けたようだ。
さらに、子育てにも上司部下にも、はたまた心の整理をすることで部屋の片づけにも役立つということで、広く市井の人々に認知されていった。
トラウマを捨てなさい。
自分の意識も行動も、あなた自身で十分変えられるのだから勇気を持って挑戦していこう。
あくまで自己責任なんだから、自分に自信を持ち、行動の目的性をより強めて生きていこう!
こういったことが、「アドラー心理学」というわかりやすい形で浸透していった。
過去と他人は変えられないが、自分は自分自身の責任のもとで変えられるのだ。
自己責任のなかでの行動ができることこそ、本来の「自由」の定義と言える。思考と言葉を自由に行動に移せるのは、常に「自分」なのだ。
行動を科学して自分を変える
優れた行動を継続するためには、「そもそも、優れた行動とは何か?」ということから考える必要がある。
そのために必要なのは、行動を科学すること。いわゆる「行動分析」である。
たとえば、トップセールスマンの行動パターンと、ダメなセールスマンの行動パターンはどこがどう違うのか?1日、1週間、1ヵ月、半年、1年の行動パターンを比較すると、その差は歴然とするはずだ。
アポイントの取り方、顧客へのアプローチの仕方、その準備、面談数と時間、その際に用意する質問集と回答集など、客観的に分析すれば自ずと違いは浮き彫りになる。
その前提は、目的・目標に合わせた行動分析は、その目的・目標をクリアにするための行動につながるということだ。
営業にかかわらず、あらゆる仕事、もちろん趣味にも同じことが言えるが、できる人と自分の行動パターンの彼我比較(自分の強みと相手の強みを比較)することで、目的・目標に近づくことができる。
私は、趣味でゴルフとテニスをやっているが、とくに、ゴルフは自分のスイングを分析するための動画撮影の道具が進んでいる。
レッスンプロから「もっとテイクバックを小さくして、頭を動かさずできるだけ残し、右の壁そして左の壁を……」などと言葉で指摘されてもなかなか実践できるものではない。そのうちレッスンが嫌になる。
しかし、動画を撮影して、ポイントポイントで具体的に、画面に線を引きながら説明を受けると、修正点への指摘に納得感が生まれる。同じ動作をプロの動きと比較することもできるので、その差は歴然だ。練習の方法は自分でも見つけることができる。
同じように、行動を科学するとその目的・目標を達成するための方法が、自分でも納得感があるレベルで見つけることができる。
トップセールスマンになりたい!トップマーケッターになりたい!トップ開発者になりたい!トップ会計士になりたい!トップ経営者になりたい!など、テーマはいろいろあっても、まずは、目的と目標を明確にしてベンチマークする対象を決めることだ。
ただし、ベンチマークの対象が著名人だと行動パターンがわからないので、できるだけ身近にいる人物にベンチマークの対象を設定したほうがいい。
その際、重要になるのは、どんな軸で分析するかだ。
営業の種類も業種別で異なる。B2C、B2Bの違いをはじめ、商品単価、専門性、購買決定までの期間など、さまざまな違いがあり複雑だ。そのセールスマンが、トップの業績を上げているいちばんの原因は何か?変数としての軸は、どういう優先順位になっているか?を把握する必要があるのだ。
ある人は、有効面談の回数や時間だったりするし、別の人は、自分で動くよりもどうまわりの部下やスタッフ、代理店を動かすかの仕組みづくりだったりする。またある人は、面談時の経験からくる仮説提案力だったりするわけだ。
このように、行動分析は、分析の軸の設定が重要になってくる。
その際、ポイントになるのが、その分析の軸をどうやって導き出すかだ。
もちろん、トップセールスマンに直接聞くこともいいが、意外に本人は、その真の要因を把握していないことも多い。だから、目標とする人の直属の上司や部下に聞いたほうが真の要因がわかることが多い。分析の軸は、まわりから聞き出したほうがいい。
トップ〇〇の真の要因を探求する分析軸は、普通の〇〇、ダメな〇〇の3人を分析することでより明瞭になる。ひょっとすると有効面談の回数は、全員同レベルだったりする。
行動分析の軸設定が上手にできる人は、成果を出すことができる人でもある。
分析軸の善し悪しは、観察力の広さと高さと深さによる。そのためには、しっかりと人の話を聞くことと、トップ〇〇にかぎらず、普通〇〇、ダメ〇〇の行動をしっかりと観察することが求められる。
人に興味を持ち、人の行動に興味がなければ行動分析は上辺だけのものになってしまう。まわりの人を幸せにできる人は、しっかりとした準備を忘れない人だ。