(本記事は、野口吉昭氏の著書『人生を変える自分の磨き方 思考・言葉・行動・習慣・人格・運命の法則』かんき出版、2018年9月10日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

人格を下げるのに時間はかからない。人格を上げるのには長い時間がかかる

人生を変える自分の磨き方 思考・言葉・行動・習慣・人格・運命の法則
(画像=Rebius / Shutterstock.com)

稲盛和夫氏は、1997年9月に京都の八幡にある臨済宗妙心寺派の円福寺で得度した。得度とは、仏の世界に入り悟りを開くこと。簡単に言うとお坊さんになり、出家することだ。

人生80年として、最初の20年は社会に出るための準備、次の40年は社会に出て懸命に働く時期、そして、残りの20年は死への準備、という考え方がある。

稲盛氏は、65歳で得度した。

65歳の6月に、京セラとDDIの名誉会長になって一線を退いた。その6月に得度する予定だったが、直前に胃にがんが見つかった。得度しようとしたその日に、胃がんの手術を受けたという。巡り合わせだろう。

師である西片擔雪老師に相談したら、こう言われて仕事を続けた。

「得度されたらいい。しかし、その後は実社会に戻り、社会に貢献することがあなたにとっての仏の道です」

経営破綻したJALの再建を任された稲盛氏にとっては、再生への努力こそが得度したあとの修行でもあったのだ。

稲盛氏は、得度することで人格をさらに上げることになった。

そして老師からの言葉のように、その後、稲盛氏が主宰する中小企業の経営者のための経営塾である「盛和塾」はより活発化し、JALの再建も見事なものだった。

稲盛氏の話からもわかるように、人が自分の人格を上げるためには、自分のため、人のため、人々のために生きるステップアップをすればいい。

まずは、家族から。次に、会社の同僚のため、お客様のため、取引先のため、そして広く社会の人々のために生きる覚悟を決めて行動すれば、人格は自然に上がっていく。

ただし、これには長い時間がかかることを理解する必要がある。人格は長い時間をかけて磨かれ、しかも自分の気づかぬうちに上がっていくものなのだ。

逆に、人格を下げるのは簡単だ。

2017年秋の衆院選は不倫の露払い選挙でもあった。男性議員だけでなく、女性議員も週刊誌報道が飛び交った結果、議員辞職、離党などのバツを喰らった。

結果、疑惑の議員は世論の鉄槌を喰らい、そのほとんどが落選した。

人格を落とし、さらに票まで落として職を失う。

ほかにも、薬物や暴力、賭博など、さまざまな不祥事で逮捕されるタレントやスポーツ選手は多い。

彼らは、たった一度の過ちで人格を下げ、人気も下げ、仕事も失う。地に落ちた有名人の末路は惨めだ。

「罪を憎んで人を憎まず」という言葉があるが、たとえちょっとした心の揺らぎで罪を働いたとしても、人格を落とすのは一瞬なのだ。しかも、一度格を落とした人は、いくらまわりの人が、人を憎まず罪を憎んだとしても、挽回するのに長い時間がかかる。

人格を下げるのは一瞬でも、それを上げるには何年、何十年もかかるのが世の常である。

社会起業家という生き方

FMヨコハマで「Yokohama social Cafe」という番組のDJを4年間、担当させていただいた。

毎回、社会起業家をお呼びして、「なぜ、社会起業家になったのか?」「なぜ、その活動をはじめたのか?」「これからどのような活動をしていきたいのか?」といったことを伺った。

この経験から、社会起業家とは、自分の意志で社会の課題を解決する仕組みをつくり行動する人々であり、「思考→言葉→行動→習慣→人格→運命」のサイクルを具現化している人々であると確信できた。

まわりの反対を押しきり、カンボジアに渡った認定NPO法人「かものはしプロジェクト」の村田早耶香共同代表は、大学生のときにカンボジアで児童買春が頻繁に行われている実態に驚愕して、動いた。

その後彼女は、自身の考えに共感を覚えたメンバーたちと一緒に、児童買春の撲滅活動を、警察からのアプローチ、真因でもある貧困を減らすためのアプローチという二重構造で広めていった。

ノーベル平和賞を受賞したバングラディッシュのムハマド・ユヌス氏が創設したグラミン銀行のような、マイクロクレジット・ネットワークを世界中につくりたいと思った慎泰俊氏。

当時、ファンドマネージャーをしながら児童養護施設などを立ち上げる社会起業家でもあった。

世界70ヵ国、1億人以上の経済活動支援のための世界最大の金融サービス・ネットワークを構築しようと、2014年に「五常・アンド・カンパニー株式会社」を立ち上げた。

五常とは、二宮尊徳がつくった復興ファンド「五常講」からきている。

村田氏、慎氏に共通しているのが、常に、過去・現在・未来を見つめ、社会課題を意識、認識し、自らの見識のもとで考え抜き、そして、課題解決のために自分の考えを言葉にして仲間を集め、自分たちができることに向けて行動していることだ。

社会起業家は、思考・言葉・行動・習慣・人格・運命の法則を実践している人々である。

番組に出演していただいたお二人は、自分に降りかかる課題や困難などを気にすることなく、常に前を向いて進んできた。小欲ではなく、大欲で生きている。

社会起業家は、常に、生きながら格を上げ続ける人々であると言える。

彼ら、彼女らの生き方は、人格を上げることを通じ、人生を豊かにする生き方という点で素晴らしいロールモデルとなっている。

人生を変える自分の磨き方 思考・言葉・行動・習慣・人格・運命の法則
野口吉昭(のぐち・よしあき)
横浜国立大学工学部大学院工学研究科建築学課程修了。建築設計事務所、ビジネスコンサルティング会社を経て、1993年に人財開発コンサルティング会社の株式会社HRインスティテュートを創業。現在、同社のフェロー/エグゼクティブ・コンサルタント。また、医療機器メーカーのアルケア株式会社、中目黒のイタリアンレストラン「onda.tokyo」の取締役を務める。

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