〔株〕壽屋代表取締役社長 清水一行
プラモデルやフィギュアの製造・販売などを手がける〔株〕壽屋は、昨年9月、JASDAQに上場した。今年8月の決算発表によると、18年6月期は大幅な増収増益となり、さらに19年6月期には過去最高益を更新する見込みだ。父親が創業した同社を継いで、86年から経営トップを務める清水一行氏に、業績好調の理由を聞いた。
アジア・北米での展開をさらに加速
――18年6月期は、対前期比で、売上高10.0%増、営業利益43.9%増となりました。19年6月期は、さらに、売上高4.4%増、営業利益10.2%増という見通しを発表されています。業績が伸びている要因はなんでしょうか?
清水 その時々のブームの影響もありますが、長期的に見れば、着実に商品のラインナップを増やしてきたことが大きいと思います。
また、今期に関しては、海外、特に北米や中国を中心としたアジアでの販売強化に動いているので、その成果が出てくることを見込んでいます。
――商品のラインナップを増やしてきたというのは、具体的には?
清水 もとは模型の小売りだけをしていたのですが、その後、オリジナルの商品を作るようになりました。お客様が組み立てて色を塗る、ガレージキットと呼ばれる模型を、月に1点くらい出していたのです。それから、塗装済みの完成品にシフトしていき、点数も増やしてきました。
中でも、当社が大きく成長するきっかけとなった商品は、15年ほど前に発売した、ブラインドボックスに入れた500円程度のフィギュアです。他の商品よりも低価格で、コアなお客様以外にも客層が広がり、『コトブキヤ』の名前を多くの方に知っていただくきっかけになりました。これによって、会社のステージが一つ上がったと思います。
――低価格の商品を出すことにした経緯は?
清水 他社が先に出していて、お客様の支持を得ていたから、というのが本当のところですが、実際に出してみると、予想をはるかに超えるオーダーがありました。
――他社と同じ市場に参入すると競争が生じると思います。御社の商品の強みはどこにあるのでしょうか?
清水 もともとマニア向けのガレージキットを作っていて、商品のクオリティに対する要求水準が高いお客様を相手にしていましたから、500円の商品といえども、かなり手の込んだものに仕上げました。それがお客様に受け入れられた理由の一つだと思います。
――どの商品についても、クオリティに対するこだわりが強い?
清水 そうですね。検品も厳しくしています。クオリティにこだわると、どうしてもコストが高くなってしまうのですが(笑)。
――製造現場でクオリティを高める工夫をしているということでしょうか?
清水 製造は中国で行なっていますが、最も大きくクオリティを左右するのはマスターモデル(原型)ですから、その製作は自社の原型課で行なっています。
中国の工場では、経験と、培ってきた技術で、マスターモデルに可能な限り近いものを製造しています。
――先ほど挙げられたもう1点、海外展開についてはいかがでしょうか?市場が伸びている?
清水 特に中国については、日本のアニメ関連の商品への関心が高いですし、富裕層も多いですから、商品によっては、日本よりも中国での販売数のほうが多いものもありますね。
――売れ筋の商品に違いはありますか?
清水 アジアは日本と同じですが、北米は少し違っていて、可愛いものよりも、リアル系のものが好まれる傾向があります。
ただ、当社では色々とアイデアを出していて、映画『エルム街の悪夢』に登場する殺人鬼フレディ・クルーガーや映画『13日の金曜日』のジェイソンといった男性のキャラクターを女性の姿に変えたフィギュアを販売し、フィギュアファンのみならず、映画ファンからも高い評価をいただくことができました。このフィギュアシリーズのラインナップは、さらに増やしています。
――米国企業が版権を持っているキャラクターの商品化もされているわけですが、中国企業のIP(キャラクターなどの知的財産)の商品化についてはいかがでしょう?
清水 現状では、日本で人気のある商品を中国でも売っているのですが、そういう話も少しずつ出てきています。
中国国内では、自分たちでアニメを作って広げていこうという動きがすごく加速しているので、将来的には、中国企業からキャラクターライセンスを買って、中国向けに商品化するというのは、あり得ることだと思います。
――事業展開をするうえで日本と違うところは、他にもありますか?
清水 中国ではコピー商品の問題があって、ホームページ上で警告を出したりしているものの、イタチごっこになっている面もあります。とはいえ、最近は、偽物は買わないという人が増えてきていますね。
米国では、一つのキャラクターのフィギュアを色々なメーカーが作っているので、差別化が重要です。先ほどお話した、男性キャラクターを女性に変えることも、他社との差別化のためのアイデアです。
また、ホビー商品の場合、日本では、クオリティを高めるために価格が高くなってしまっても、お客様に納得していただける面がありますが、米国ではそうはいきません。相場があって、その価格で売るのがメーカーの責任だという考え方です。
当社の商品については、クオリティを認めていただき、少し価格が高くても買っていただけていますが、やはり高くなりすぎるといけないので、『コトブキヤ』というブランドを傷つけないクオリティを維持しながら、いかにコストを抑えるか、いろんなやりくりをしているところです。
――海外での販売は自社で行なっているのでしょうか?
清水 現地のディストリビューターに委託していますが、今期から、米国と中国に自社の営業活動拠点を設けて、さらに積極的に展開することにしています。
――海外事業の目標は?
清水 今、海外比率は2割ちょっとですが、将来的には5割にまで引き上げたいと思っています。
当社の経営理念には「感動と驚きを提供する」というフレーズがあります。これは日本国内に限ったことではなく、海外に対しても同じ。海外にコトブキヤのファンを増やし、商品を通して、感動と驚きを提供する。それがどれだけ実現できているかの指標として、売上げがあるのだと思います。