「値決めは経営」という言葉があるが、飲食店経営においても「値決め」は重要なテーマである。特に値上げをすることは、飲食店にとってチャンスにもピンチにもなるだろう。今回は飲食店が値上げをする際のポイントを紹介する。

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消費税増税に際し、約6割の飲食店が「値上げ」を検討

今年は10月に消費税増税が予定されており、値上げを考えている飲食店は多い。弊社のアンケート調査でも約6割の飲食店が値上げを検討していることがわかった。値上げをすると客数減少を心配する意見もあるが、2014年の消費税増税の際も約6割の飲食店が値上げを実施しており、そのうち2/3の店舗が悪影響を感じなかったと回答している。

影響を感じた店舗も、そのうち約7割が半年以内の影響と答えており、増税時の値上げの悪影響は限定的と考えていいだろう。値上げをしても、それ以上の価値を提供すればお客は利用してくれるので、業態や商品を磨くこと、そしてその価値を伝えることをしっかり考えることが大切だ。

人件費や食材費の高騰も値上げの原因に

消費税増税に加え、最近の悩ましい問題といえば人件費や食材価格の高騰があげられるだろう。これを理由に値上げを検討している飲食店も多いはずだ。最低賃金は東京都を例に見てみると、2013年の869円から2018年は985円と約13%も上がっている。また、食材を提供する業者や農家も人件費や輸送費高騰の影響をうけており、食材価格が上がるのも必然である。このような環境下において、飲食店の値上げというのは、消費者の納得も比較的得やすい状況にあると言えるだろう。

しかし、実際にどれくらい値上げするのかは慎重に考える必要がある。例えば、客単価1000円の店舗が100円上げるのと、客単価5000円の店舗が500円上げるのとでは、同じ値上げ率でも消費者にとっては感じ方が異なる。金額が大きい分、後者のほうが値上げのインパクトが大きいと言えるだろう。自店舗の客単価や商品単価を見ながら、値上げ率または値上げ額を検討していきたい。

また、値上げと合わせて考えていきたいのが「生産性向上」についてである。仕込みや調理の簡略化、オーダーシステムや予約システムといったテクノロジーの力を利用することで、従業員の生産性は少しずつ向上していくはずだ。人件費の高騰や人手不足は今後も続くと予想されるので、生産性向上についても真剣に検討すべきである。

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値上げする際の工夫

消費者の理解が得やすい状況とはいえ、単純な値上げでは足が遠のく消費者も出てくるだろう。値上げの影響を最小限に止めるために、役立つ施策をいくつか紹介する。

1、値上げのタイミングでメニューをリニューアルする

値上げを目立たなくする方法としてメニューを一部リニューアルする方法がある。お客からすると以前のメニューとの単純な比較が難しく、またメニューが変わったから少し値段が上がったのだと判断してくれる。旬の食材、流行りの食材などを取り入れつつ、お客にとっても納得感のあるリニューアルを目指したいものだ。

2、メニューの付加価値を上げる

同じメニューでも、付加価値を上げることで値上げの納得感を得ることができる。たとえば量を増やす、旬の食材を使用するといった工夫をすれば、値上げに対しての納得感を得られやすくなるだろう。

3、スタッフのセールストークを磨く

新メニューにしても、付加価値を上げたメニューにしても、その価値がお客に伝わらなければ値上げの納得感は得られない。メニューに記載するだけでなく、スタッフから必ず説明するようセールストークを磨くといいだろう。

4、一部のメニューのみ値上げする

お客に与える印象を考慮するのであれば、全てのメニューの値上げをするよりも、一部のメニューの値上げを考えよう。出数の多い目玉メニューを値上げするか、それ以外のメニューの値上げをするかは考え方にもよるが、値上げ対象を出数の多いメニューの数種類に絞ったほうが、お客さんに与える影響は小さく、店の利益へのインパクトは大きいだろう。

さて今回は、飲食店が値上げする際の注意点についてまとめた。多くの飲食店が値上げを検討していると思うが、戦略的な値上げをして、引き続きお客さんに選ばれる飲食店を目指してほしい。(提供:Foodist Media

執筆者:若林和哉