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(画像=小田原市の『まねき屋』店主が運営する動画ちゃんねる「無駄なし!まかない道場」のレシピ動画)

YouTubeにはたくさんの「レシピ動画」が存在する。飲食店の料理人が動画をアップすることもあり、これらは“プロの技”として人気を集め、多くの視聴回数を稼いでいる。

なかでも、神奈川県小田原市『まねき屋』の店主が配信する動画チャンネル「無駄なし!まかない道場」は、チャンネル登録者数159,783人(2019年2月18日現在)を誇り、“飲食店ユーチューバー”の中でも抜群の人気を誇る。動画での顔出しは一切なし。調理する手元を映しながらレシピの解説を行っていくのだが、そのリズミカルなトークが心地よく、観ている人を惹きこむ魅力がある。

果たして、料理人がYouTuberとして活動することは店の営業に好影響を与えるのか!? 匿名&顔出しNGという条件で『まねき屋』店主に話を聞いた。

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(画像=無駄なし!まかない道場」のチャンネルトップページ(YouTubeのキャプチャ画像))

実弟の死が、YouTubeで動画を配信しようとしたきっかけ

まず、レシピ動画を配信するようになったきっかけを聞いた。

「昔、店で雇っていた唯一の弟子と言える、自分の実弟がいたんですね。でも、突然の事故で亡くなってしまって……。それから1年ほどボーッとしていたのですが、ブログを放置していたことを思い出して、何か弟に伝えることはないかと思い、始めたんです」

楽しい動画の印象とは裏腹の事情ではあったが、店主は歯切れのいい口調で答えた。動画を作成するにあたり、初期投資はどれぐらいかかったのだろうか。

「動画制作に使っている機材はパソコンとiPhoneだけ。それもすでに所有していたものなので、かかったとしたらその購入費にあたる数万円程度ですね。動画はiPhoneで撮っていて、編集もパソコンにもともと入っていたMedia Playerというソフトを使っているだけなので、そんなもんですよ」

「動画制作」と聞くと、ビデオカメラの用意など少しハードルが高いイメージを持ってしまうが、意外と安い初期投資で始められるようだ。ちなみに、撮影は誰が担当しているのだろうか?

「え? 自分ですよ。片手で料理しながら、片手で撮ったり、時にはiPhoneを適当に固定してその辺に置いたりしながら撮ってます。だから、人件費も一切かかっていません(笑)」

誰でもやろうと思えば、撮れるし、作れると言い放つ氏の言葉は、動画制作を躊躇している同業者の励みになるのではないだろうか。

独特なノリの話口調は普段から? 「さあ、イカさんの口ばしをサックン、サックン切っていきましょうねぇ」などといった口調・擬音は、普段から使用しているのかと問うと、「いやいや、普段は今話している通り、普通です。ただ、動画を撮りながらしゃべっていると、自然とああいう話し方が出てきてしまったので、そのままアップしたら、ありがたいことに好評でして(笑)」。

その活舌のよさ、話口調のリズムのよさは、ナレーションなどの“話す”仕事をしていたのではないかと思えるレベルだ。

「もともと話すのは好きですが、学生の頃にギター&ヴォーカルでバンドをやっていたのは、ちょっと影響しているかもしれませんね」 

ちなみに動画は台本を書いているわけではなく、すべてアドリブだという。では、視聴者を飽きさせないようにしている工夫はあるのだろうか。

「やっぱりわかりやすくすることですね。例えば『大さじ一杯、小さじ一杯』と言われても、料理に慣れていない人からすると、何が大さじなのかわからない人も多いわけですよ。だから僕は、一人前に何が必要かを“割り”と呼んでいる比率で説明しています。例えば、『醤油2×味噌1×塩1』といった説明で。そうすると、なんとなくのイメージで味付けができるんですよね」

氏は動画の中で「味付けの少ない料理なら、初心者でもできる」と発言している。調理中、調味料を“足す”ことはできても“引く”ことはできない。氏がノリで語っているような動画には、軽快なリズムとともに、シンプルなようで奥深い「料理の秘訣」がしっかりと散りばめられている。

ただ、一つ気になることがある。氏が手掛ける動画は「まかない飯」をテーマにしており、ある種裏技的な手法を公開しているわけだが、店の手の内を明かして営業に支障はないのだろうか?

「いや、支障どころか、客足は増えていますよ。動画を観て、真似してやってみたら料理にハマッたって方もいらっしゃいますし、日本旅行の際に立ち寄ったという海外の方もいるくらいで。同業者もお店に来ていただいたりして。結構な名店の方も中にはいます(笑)。ネットワークがどんどん広がって、嬉しい限りです」

昨年増えたフォロアー数は350人ほどだったが、今年はすでにその数値を突破。さらなる増加が見込めているのだとか。

「本当にありがたい話で、動画で顔を晒していない僕に会いたいと、わざわざ来てくれる方も増えています。顔を晒さないのも、結果的に集客につながっているのではと、後で気付きました」

YouTuberとしての収入はどれぐらい?

最後にYouTuberとしての収入を聞いてみた。動画によっては70万回を超える再生回数を数えるものもあるが……。

「そこは、まあまあですね。ただ、よっぽどのアクセス数がない限り、儲かりはしませんよ。まあ、僕みたいに動画制作をやりたい人は、楽しくやれればいいのではと」

特に人気のあった動画を聞いてみると、「“塩辛の作り方”です。旦那がお酒のアテに作って、奥さんと晩酌するのでしょうかねぇ。家庭が円満になることに役立っているなら、嬉しいです(笑)」との答え。飲食店経営者としても、YouTuberとしても、店主自身が楽しんでいるスタイルは、これからも人々の心を躍らせてくれそうだ。

『まねき屋』
住所/神奈川県小田原市寿町2-10-16
電話番号/0465-32-0707
営業時間/16:00〜L.O.23:00
定休日/日曜、月曜
YouTubeチャンネル「無駄なし!まかない道場

執筆者:山崎光尚

(提供:Foodist Media