アジアとヨーロッパにまたがり、東西の文明が混ざり合うエキゾチックな国、トルコ。そんなトルコの文化・経済の中心であるイスタンブールが、近年海外の投資家や料理家から注目を集めているのをご存知だろうか。トルコの外食市場は、ここ10年で大きな変化を遂げた。人気の高いイタリア料理をはじめ、フランス料理、和食など各国のレストランが参入し、その規模は500億ドル以上にもなるという。
そこで今回は、“食の都”イスタンブールの外食産業について、現地でフードコンサルタントとして活躍しながら、自身のレストランも経営しているイギリス人のMark Mourad Hammami(以下マーク)さんに話を聞いた。
外食に対する潜在的な需要が高い
イスタンブールで最も賑やかな大通り・イスティクラル通りでアイリッシュレストランを営みながら、フードコンサルタントとしても働くマークさん。彼がトルコを訪れたのは20年程前。昔のトルコ人は、経済的な理由と、その美味しさからトルコ料理一筋だったそうだが、近年は大きな変化が見られるという。
「ここ10年でトルコの外食産業は大きく変わったね。もともと、様々な国籍の人々が暮らしていたイスタンブールでは、経済成長や、SNSなどの普及に伴って、どんどん新しい料理が入ってきたんだ」
トルコの経済成長に従い順調に成長を続ける外食市場。一時期、テロの影響などで観光客が減ることもあったものの、その規模は500億ドル以上と言われている。そして、その約半分が集中するのがイスタンブールだ。なぜそこまでたくさんの飲食店がイスタンブールに集中するのか聞いてみた。
「一番の理由は、イスタンブールが“人種のるつぼ”だということが大きいね。街を歩けば、トルコ人はもちろん、アジア、ヨーロッパ各国からの観光客やビジネスマン、富裕層から難民まで、様々な人達が暮らしているんだ。だから、レストランもリーズナブルなケバブから、美味しくてボリュームもある大衆食堂、高級なフレンチや日本食まで様々ある。外食の選択肢の多さは、イスタンブールの魅力の一つだね」
イスタンブールの人口は約1500万人(世界6位の都市人口)、東京の930万人を大きく上回る。そこに、世界各国から集まる観光客が加わる。2018年にこの街を訪れた観光客は1250万人にもおよぶそうだ。また、イスタンブールの平均外食頻度は週2回と、内食中心の他の地域に比べると高め。それには人口構成が消費に大きく影響しているという。
「トルコは専業主婦の割合が多い国だけど、イスタンブールは共働きの割合が大きいんだ。夫婦両方とも忙しいからその分収入も大きいし、外で食事をする機会が多いと思うよ」
安価で手に入る野菜と、安い賃料・人件費
ヨーロッパとアジアにまたがるイスタンブール。地理的理由も外食産業の成長を大きく後押ししている要因の一つだ。一番大きな利点と言えるのが、比較的安価で手に入る、良質な食材である。
「トルコの野菜は本当に美味しい。イギリスのトマトは、ただの水っぽい野菜でしかなかったけど、ここでは本当にジューシーでトマトらしい味わいがするね。じゃがいも、ぶどうなども同じ。地方にいくほど、安く、美味しくなるんだ。でも、そういった野菜は輸出にまわされてしまうことが多いから、地方で野菜を買い付けてくれる人を見つけることをおすすめするよ」
人件費や賃料の安さも魅力の一つ。基本的な物価は、日本3分の1といったところだ。レストランの家賃や人件費はどれくらいなのだろうか。
「イスタンブールの家賃は、場所にもよりけりとしか言いようがないね。いい場所はそれなりに高くなるけど、お客さんも集客しやすい。あとは、トルコ人は他のソーシャルメディアに比べて、インスタグラムを見ることが多いから、いかにうまくSNSを使って集客するかがポイントになってくるね。人件費については、スタッフの経験によるところが多いけど、シェフに払う金額としては、4000から7000リラが相場かな(約8~14万円※2019年1月14日現在、1リラ=20円)。イギリスでは、その十倍くらいだから全然安いよ!」
イスタンブールで成功するためには?
これまでたくさんのクライアントを手がけてきたマークさん。最後にイスタンブールの外食市場で成功するためのポイントを聞いた。
「イスタンブールの外食産業はとても発展している代わりに、入れ替わりがものすごく激しいんだ。イスタンブールの中間層や富裕層は、結構飽きっぽくて、一度食べた料理は食べないことが多い。だから、自店の強みをしっかりと持って、2回目につなげることが大事になってくる。コンサルティングをしている中で、それが見えていない経営者が多いと感じたね」
具体的にマークさんの店では、どんなことをしているのか聞いてみた。
「僕の店では、五ツ星ホテルで出されるクオリティの料理を、比較的安価で音楽と一緒に提供している。それができるのは、地元のバイヤーから高いクオリティの食材をリーズナブルに購入できているところも大きいね。あとは、店にきたお客さんに我々が提供するアイリッシュ料理とは何か、トルコ人の英語が喋れるスタッフにしっかり伝えてもらっているところもうまくいっている理由の一つだと思うよ」
これらの工夫に加えて、お客さんに“また来たい”と思わせる努力も怠らない。
「ジャズやロックなど曜日によって違うライブをしたり、季節メニューや今週のおすすめ料理を用意したりしているよ。あとは、トルコ人に人気が高いインスタグラムを使ってしっかり宣伝しているところも集客につながっているかな」
観光客やトルコ人、新たな土地に挑戦するシェフたち、美食を求める食通たちが入り混じり、日々進化を遂げるイスタンブールの外食業界。マークさんに話を聞くと、日本流の繁盛店づくりが十分に通用するような印象も受ける。海外進出の候補地として、十分に検討の価値がある都市だと言えるだろう。
執筆者:『Foodist Media』編集部
(提供:Foodist Media)