飲食店の従業員は休日が少なく、長時間勤務が当たり前というイメージが強い。実際、ランチ営業が始まる午前中から、ディナー営業が終わる深夜まで、休憩を挟みながらも「通し勤務」をさせている店舗は多い。また、定休日を設けず、従業員は週に1度しか休めない店舗もある。以前ならそれが「飲食店の常識」としてまかり通っていたが、時代は変わった。年中無休で営業していた大手チェーン店が一斉休業するほど、「従業員の働き方」に対する考え方は大きく変わりつつあるのだ。
『スシロー』約500店舗が一斉休業
大手チェーン店などでは、定休日を設けていない「年中無休」の飲食店がまだまだ多い。そうした場合、スタッフは交代制で休みを取ることになるが、人手不足に悩む店舗などでは休みをうまく取れないこともある。また、店長など責任ある立場の従業員は、休日に店から連絡があったりしてなかなか休まらない……なんてことも少なくない。
そんな中、大手回転寿司チェーンの『スシロー』が今月、一斉休業したことが話題になった。ショッピングモールなどに出店している一部店舗を除く、約500店舗が2日間休業。売上としては10億円ほどダウンしたといわれている。それでも一斉休業という選択をしたということは、従業員にしっかりと休みを取ってもらう方がメリットがあると考えたからに違いない。
もちろん、営業日数を増やせば売上は伸びるだろう。しかし最近は生産性や効率性、働き甲斐を重視する時代になってきた。離職率が下がれば採用や研修のコストも下がる。利用客の理解を得ながら、うまく休日をとることが今後の飲食店経営のポイントになりそうだ。
実際、飲食店はどのように休日を取るべきか?
『スシロー』のようなチェーン店の一斉休業は珍しいが、もし実現すれば店舗スタッフだけでなく、マネージャー職や本部スタッフも同時に休業できるというメリットがある。一部の部署やスタッフだけが休むよりも、より効率的でリラックスした休日になるだろう。
ちなみに、スシローが休業したのは2月5日、6日の平日2日間。閑散期に合わせて計画的に休日を設定したことがうかがえる。チェーン店や長年経営をしている店舗であれば、前年までの売上データを参考にして休日の設定をしやすいはず。早めに告知をするなどして、計画的に進めたいところだ。
■個人店の場合は週休2日もアリ
個人経営の店であれば、オーナー自身が調理や接客をしているケースも多いはず。そのような場合には、定休日を多めに設定しておくといい。できれば週休2日、もしくは隔週で週休2日を設け、その営業日数に合わせて売上計画を立ててみよう。実際、個人店の場合は、週1度の休みの場合でも急用や体調不良などで臨時休業することも珍しくない。であれば、あらかじめ週休2日のゆったりとしたペースで計画を立てた方が賢明ともいえる。週休2日でしっかりとリフレッシュして、1年間予定通りに営業することが大切だ。
■オフィス街に出店して週末に休業する
オフィス街の飲食店では多くの場合、平日の月〜金が忙しく、土日には売上が下がる傾向にある。しかし仮に平日の間で目標売上が達成できれば、土日は休業日にあてられるということだ。ここに着目すれば、完全土日休業の飲食店をつくることもできる。実際、土日を休むことを目的にオフィス街に絞って出店場所を探していた居酒屋オーナーもいる。小さなお子さんがいるような個人店オーナーであれば、このようなスタイルもいいだろう。
■営業時間を工夫して休む時間を増やす
とはいえ、休日を増やすということはなかなか勇気がいるもの。難しい場合は、営業時間の工夫をしてみるのも手だ。例えば、深夜営業をしている店の場合、24時まで営業するのは金土のみ、日・祝は20時までなど、1週間の中でメリハリをつけて営業しよう。生産性が高まり、スタッフのモチベーションも保ちやすくなる。また、月に1度程度の定休日しかない店の場合は、定休日前日はランチタイムのみの営業、定休日明けは夜からの営業とすることで、実質2日の休みを取ることができる。このように、段階的に休日を増やす方法も試してみるといいだろう。
■通常営業ではなくイベントで売上をつくる
飲食店は立ち仕事なので体力的に辛い部分もある。そこでおすすめなのが料理教室などのイベント開催だ。実際、レストランやバルで「シェフのパスタ教室」などを開催している例も多く見られる。厨房での立ちっぱなしの業務ではなく、体力の消耗も抑えられ、精神的にもリフレッシュ効果が期待できる。ランチタイムなどを使って開催するといいだろう。
休みをとる際の注意点と対策
飲食店が休みを取るということに対しては、消費者も一定の理解を示しているが、多少の批判もあるだろう。とにかく一番気をつけなくてはいけないのは、せっかく来店したのに営業していなかった……というようなケースだ。告知が不十分で、お客をがっかりさせてしまうということは避けなければならない。
それでも、多少はお店に来てしまう客もいる。そのような場合に備えて、店頭に特別チケットを設置しておくといいだろう。通常のクーポンでは希少価値が感じられないため、「定休日ご来店感謝クーポン」などとして、普段とは違うものを特典にしてみよう。特別なクーポンだと感じられれば利用率も上がるので、集客にはそれほどダメージにはならないはずだ。
いずれは、大手チェーンも定休日を増やしはじめるだろう。売上としてはデメリットがあるが、従業員満足度は上がるはずだ。同時に、顧客満足度も下げない仕組みをつくることができればベスト。利用者、従業員、経営者と三方よしの形を目指して、新しい「休み」の形を構築してもらいたい。
執筆者:大槻洋次郎
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