根強いファンはいるものの、なかなか“大ブーム到来”とはいかない「ジビエ」。しかし近年、ジビエを扱う店舗はじわじわと増えており、さらに今年は「イノシシ年」とあって、これにちなんだメニュー開発やキャンペーンを行う店舗も増えてきた。また、政府でもジビエ肉の普及を後押しする動きが進められており、飲食業界としては仕掛けがしやすい環境が整いつつあると言えるだろう。そこでここでは、日本のジビエの現状について改めて考えていきたい。
ジビエは伝統的な高級食材
まずは「ジビエ」についてのおさらいから。一般社団法人日本ジビエ振興協会のホームページによると、「狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉を意味する言葉(フランス語)」で、「ヨーロッパでは貴族の伝統料理として古くから発展してきた食文化」とある。昔、フランスなどでは、自分の領地を持ちそこで狩りができる上流階級の人間しかジビエを手に入れることができなかった。また、野山を駆け巡って育まれたその肉質は、脂肪が少なく、栄養価も高い。そのためジビエは高級食材として愛されてきたという。現在、フランス料理でジビエを使った料理が多いのはこの伝統があるからだろう。
日本では鳥獣被害対策の一つとしても注目
日本でも、ジビエを食べる習慣は古くから存在する。日本は国土の約70%が森林に覆われた国だ。ジビエは日本では「獣肉」と呼ばれ、貴重なたんぱく源とされてきた。しかし、仏教が殺生を良しとしないことや牛・豚・鶏の家畜肉が広く受け入れられたことから、ジビエは衰退していった。
近年、日本で再びジビエに注目が集まるようになった背景にあるのは鳥獣被害だ。農地や農作物を荒らしたり、家畜に害を与えたりと、鳥獣被害は深刻。農林水産省の発表によると、シカとイノシシだけでもその被害額は100億円を超えるという。この5年間は減少傾向が続いているものの、平成23年前後の被害額は150億円に迫る。被害対策をしようにも費用は大きい。そこで、捕獲した鳥獣を食材に変えることが、被害対策からも、命を無駄にしないという点からも求められるようになったのだ。
政府は鳥獣被害対策を進めるべく、ジビエの安定供給、そして発展・普及のための取り組みを実施。国産ジビエ認証制度をスタートしたり、安全で良質なジビエを安定供給するモデル地区を全国17地区に整備したりしている。
フレンチだけじゃない! ジビエメニューは多彩
ひと昔前まではジビエ肉を扱うのは専門店やフランス料理店ばかりだった。しかし普及は確実に進んでいる。例えば…
・和食店……シカ肉を使った丼ぶり、シカ肉ハンバーグ
・ラーメン店……イノシシ肉のチャーシュー
・カレー店……シカ肉カレー
・居酒屋……イノシシ肉のソーセージ
・イタリアン……イノシシ肉のパスタソース
など、ジャンルを問わずジビエ肉が活用されている。また、ファストフードの『ロッテリア』は「ジビエ 鹿肉バーガー」、海鮮居酒屋『はなの舞』では「イノシシ鍋」と、チェーン店も取り入れ始めているようだ。
一歩間違えれば食中毒にも。安全面では課題も……
一方でジビエには、正しい知識を持って扱わなければ、寄生虫や腸管出血性大腸菌の感染、E型肝炎などの食中毒のリスクがあることを忘れてはいけない。過去には、禁止されているジビエの生食をした男性がE型肝炎ウイルスに感染し、死亡した例もある。また、ジビエの盛り上がりとともに、ネットで販売されたり、猟師から直接仕入れられたり、狩猟免許所持者ではない人間が狩ったりと、危険なジビエ肉が出てきているのも事実だ。
飲食店では必ず、食肉処理業の許可を受けた施設で解体処理されたものを仕入れなければいけない。さらに安全性を高めるには、トレーサビリティを自ら業者に確認するのも良いだろう。これはジビエの加工品を扱う時も同じだ。信頼できる原料が使われているのか確認したい。もちろん自分の五感も大切だ。仕入れた時には、異臭がないか、獣毛など異物の付着がないかといった確認を怠ってはいけない。
安定供給への課題も
ジビエを取り巻く課題は安全性だけではない。ジビエは狩猟免許所持者、つまり猟師が狩りをしなければ私たちのもとには届かないが、猟師には減少と高齢化の波が押し寄せているのだ。今後、現役猟師が引退をすれば、狩猟量は大きく減少していくと見られている。これは今後のジビエ発展の大きな課題だと言えるだろう。
日本で狩猟が解禁されるのは、11月15日から2月15日までで、今はまさにジビエのシーズン。まずは、その美食を提供すべく、イベントメニューとして扱ってみてはいかがだろうか? 売上アップに“猪突猛進”できるかもしれない!?
執筆者:岩﨑美帆
(提供:Foodist Media)