米国最大手の通信企業である、AT&T (NYSE:T)は35年間連続で増配を行うなど、インカムゲインを狙う投資家にとっては素晴らしい投資先である。配当還元を行う米国企業の中でほんの一握りしか得られない「配当貴族」のステータスを同社は獲得している。

同社株はここ5年間で12%、直近12ヶ月で15%値を下げているが、1983年に1株1.25ドルで初めて取引が行われて以降、同社株は2000%以上上昇している。2月21日の終値は前日比0.7%高の30.85ドルであった。

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(画像=Investing.com)

しかしそのステータスは危うくなってきており、多くのアナリストは同社の今後の配当は減少するとみている。

GE(General Electric) (NYSE:NYSE:GEが堅実に行ってきた配当を2018年に減配し、長期保有投資家に失望売りをさせることになった時から、配当に関する懸念が表れ始めている。GEとAT&Tの間に共通の関係性はないものの、両社は需要の伸び悩みと膨れ上がった債務負担に直面している。

AT&Tは2018年6月に1020億ドルでタイムワーナーを買収した後、金融機関を除く米国最大の債務負担企業となった。そのため、同社がキャッシュフローの改善に失敗した場合、減配は不可避であるとの懸念が浮上していた。我々も投資家がこのような懸念を抱くことに納得しており、S&P500指数構成銘柄の中で同社株の配当利回りは7%と最大ではあるものの、満足はできないだろうと考えている。

2018年夏ごろにムーディーズ(Moody’s Investors Service)は、AT&Tの債務格付けをジャンク債(投資不適格)の手前まで引き下げた。

「非常に無駄が少ないバランスシートを持つ他の主要メディアや大手テクノロジー企業などの新たな優れたライバル会社に対し、AT&Tが競争力を維持するためには減配をする必要がある」

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(画像=Investing.com)

AT&Tの低迷

格付けの引き下げが発表されて以降、同社の財務体質は悪化していった。同社のランドール・スティーブンソンCEOに対して、AT&Tは真新しいメディア企業に変貌できるのか?という疑問が投げかけられた。

同社の低迷は1月30日にリリースされた、2018年第4四半期の決算発表の結果からわかる。同社は同四半期にディレクTVの会員数を40万人失っていたのだ。会員数の減少は2018年通期で124万人にも及ぶ。

その他にも厄介な問題がある。同社の新たな成長事業と位置付けるディレクTVナウの新規会員数の伸びが14%(26万7000人)減少しているのである。

同社の主力事業も振るわないようだ。第4四半期におけるワイヤレス事業の月間契約者数は1万3000人で、タブレット端末やスマートウォッチの41万ものユーザーが解約を行った。ライバル企業であるベライゾン・コミュニケーション(Verizon Communications) (NYSE:NYSE:VZ)との競争が激化し、顧客が新しいパッケージサービスへの移行を遅らせているのが原因だ。

我々が同社に対して悲観的になっている理由は単純なものである。それは、既存事業が急速に勢いを失っていることや、負債を伴う成長戦略に高いハードルがあることが挙げられる。

昨年6月に行ったタイムワーナーの買収やディレクTVの買収によって、AT&TのバランスシートはEBITDAの3.9倍にまで拡大した。同社の営業利益が縮小していることに加え、米司法省が同社のタイムワーナー買収に対する再審請求の早期決定に動いており、AT&Tの株主や規制当局から強い圧力に晒されている中で、このような財務状況に陥っているのである。

同社はタイムワーナーのコンテンツ資産からのキャッシュフローを創出するために、2019年終わりにD2C(Direct-to-Consumer)ストリーミングサービスを提供する計画を立てている。

だが、我々は動画ストリーミングサービスの競争は非常に激化しているとみている。資金力のある企業は同社以上に成功する可能性があるため、同社がまず行うべきこととして、債務負担を減らして格付けを上げることだと考えている。

要点

AT&Tの四半期の配当額は、1株0.51ドルと非常に見栄えが良く、インカムゲインを狙う投資家にとっては絶好の投資先であるが、現在の債務負担能力を考えればそのような過大な配当を行うべきではない。同社の現在の配当性向は53.65%とうわべだけは良い水準であるが、同社の維持には最適な水準とは言えない。スティーブンソンCEOが早急に打開策を打ち立てない限り、負債を伴った成長戦略は賭けでしかない。(提供:Investing.comより)

著者:ハリス アンワル