ここ数年、人手不足の解消や生産性向上を目的に、セルフサービスを導入する飲食店が増えている。実際のところ、セルフサービスは業務効率化にどれだけの効果があるのか? 今回は、本格的なフランス料理でありながらセルフサービスを導入している二子玉川『トキオプラージュ・ルナティック』を取材。その手法について詳しく話を聞いた。
なぜ、セルフサービスにしようとしたのか?
「元々は、オーソドックスなスタイルのイタリアンだったんです。でも、2階に姉妹店の『GEKKO』を作り、そちらで海鮮とお肉のバーベキューをセルフ形式で提供したら、大好評でして。『トキオプラージュ・ルナティック』もセルフサービスにしたら、いいかなと思ったんです。それが5年ほど前のことですね」と、常務取締役の鍋島安砂美さん。もともとはイタリアンだったと言うが、なぜフレンチへと業態転換をしたのだろう?
「イタリアンよりフレンチの方がセルフサービス形式として珍しいですし、画期的かなぁと。あと、フレンチの敷居の高いイメージを払拭するにはいい手だと思ったんです。うちのシェフはどちらも作れるのでいけるかなと。最初はそのシェフに反対されましたけど(笑)」
なんとも斬新な発想と、軽やかなフットワークである。さて、こうして始まったセルフサービスであるが、驚くべきは券売機システムを導入している点だ。客は来店するとまずは席につき、それから券売機で料理のチケットを購入する。オーダーは厨房へ自動転送され、シェフが調理を開始。料理が出来上がると、厨房スタッフが番号を読み上げ、客は料理を取りに行く……という流れだ。この「フレンチレストランなのに“券売機”」というギャップが話題を呼び、決して恵まれた立地ではないものの連日多くの客で賑わう人気店となった。
店の運営にもたらした好影響とは
セルフサービス化することで話題を集めることに成功した同店だが、もちろん集客面だけでなく、店舗運営面でもメリットは大きかったそうだ。
「当然、人件費が削減されました。それでいて、食材の質は下げず、美味しいものを適正価格で提供できるところ点がメリットですね」
本格フレンチを手ごろな価格で味わえるという魅力は、セルフサービスを導入したからこそ得られたものだろう。この魅力のお陰で、2階の『GEKKO』にしか来たことがなかった若い客層が多く流れてくるようになり、また、多摩川沿いを散歩がてらにベビーカーを押しながら入ってくる主婦たちも増えたという。生産性向上と集客効果を一気に得られた、まさに一石二鳥のセルフサービス導入だったと言える。
券売機システムでフレンチの価値観を変えた
オープン当初は、イタリアン時代のお客さんから「違和感がある」との意見も聞かれたとのことだ。しかし、「むしろ、面白い!」と、当時の常連客の半数以上は今の形式を愛してくれ、変わらずリピーターとなっているとか。
また、居酒屋のお通しシステムに抵抗があったり、ラーメン店などの券売機制に慣れている若い客層からは、「わかりやすいし、明朗会計で安心」という声も聞かれるそうだ。「券売機の導入は、フレンチの価値観を変えたと自負しています。カジュアルにリラックスしながら、誰でも楽しめますよ」と、鍋島さんと言う。
セルフサービスを導入する際、注意したこと
セルフサービスを導入すると客とのコミュニケーションが減るので、その辺はマイナスになるのでは、という懸念もある。その点を尋ねると……。
「それは全く逆で、お店のシステムを説明しなければならないので、むしろコミュニケーションは増えています。もちろん、券売機の横に説明は書いてありますが」
同店のセルフサービスは店と客とが協力し合いながら運営している感覚なので、やり方次第で客との繋がりは深まる。セルフサービスだからこそ、こういう繋がりの部分を雑にしてはいけないというのが同店の見解だ。
話を聞いてみると、セルフサービスの導入をただの「業務効率化のツール」にするのではなく、人件費を圧縮した分、料理の値段を安く抑えたり、以前より客とのコミュニケーションを密にしたり、店をより良くするためのツールとして機能させていることがわかる。人手不足が続く飲食業界は、今後ますます生産性の向上を求められていくが、そうした時に『トキオプラージュ・ルナティック』の考え方は大いに参考になるはずだ。
『Lunatique TokioPlage(トキオプラージュ・ルナティック) 』
住所/東京都世田谷区玉川1-1-4
電話番号/03-3708-1118
営業時間/11:00~L.O.22:00(日・祝は~L.O.21:00 ※日曜が祝日前のときは~L.O.22:00)、
定休日/無休
執筆者:山崎光尚
(提供:Foodist Media)