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(画像=「極(きわめる)」というキーワードがトレンドの鍵を握ると語る竹田氏)

モノ消費、コト消費から「イミ消費」へ

短期的なトレンドは商品開発や売り方などで大いに参考にすべきですが、大切なのはこうしたトレンドの背景で「消費者の価値観」がどう動いてきているかを読むことだと思います。昨年、2017年のトレンドを語った際に、消費者が「消費の意味は何なのかということを問い始めている」とし、いわゆるエシカル消費(環境や社会に役立つサービスを選んで消費すること)に触れました。この傾向はますます強くなってきており、「モノ消費」から「コト消費」というこれまでの消費の価値観変化を表す言葉になぞらえ、「イミ消費」と名付けました。

「イミ消費」とは、商品・サービスそのものが持っている機能や効能だけではなく、その商品が付帯的に持っている社会的・文化的な「価値」に共感し、選択する消費行動を言います。そして「価値」に対価を支払うことに満足感や貢献感を得られることが特徴です。こうした消費者の意識は年々強くなっていて、特に若い世代はこうした傾向が強いように感じます。

■「イミ消費」の代表的なキーワードは以下のとおり

・環境保全、地域活性、サスティナブルな社会の実現
・社会貢献、他者支援
・健康、予防
・感謝(人、地域、自然etc…)
   ・正義、フェアネス
・歴史、文化の継承、保全
・これらを大切にするライフスタイルの表現

「モノ消費」から「コト消費」そして「イミ消費」へという消費価値観の変化は、下の図のように整理することができます。

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(2010年代、特に震災以降から「イミ消費」の傾向が高まる)

消費者の調査においても、「どうせ食べるなら誰かのためになるほうがよい」と思うかの質問に約65%の人が「そう思う」と答えており、自身の消費行動が社会に与える影響について意識する傾向は年々高まってきていると思われます。

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(画像=約65%が「どうせ食べるなら誰かのためになるほうがよい」と回答)

事例としては、ファミリーマートがライザップとコラボレーションした「低糖質メニュー」は、健康や予防医学的な価値の消費と言えます。森永製菓が販売している「フェアトレードチョコレート」は、アフリカなどカカオ豆産地の教育支援、環境保護支援の為に売上の一部を寄付するもの。ここで言うフェアトレードとは先進国と発展途上国間のフェアな貿易という意味だけでなく、立場の弱い後者の生産者・労働者を積極的に支援することも指します。

また、東京・神奈川に展開する居酒屋『はなたれ』では、同店で提供する「湘南生しらす」の売上の一部を寄付し、稚魚の放流など海洋資源保護やビーチクリーンなど環境保全のために使うという「生しらすプロジェクト」を行っています。この『はなたれ』には、「海を大切にするというビジョンに共感した」という入社動機で、大学の海洋学部出身者が活躍しています。「イミ消費」的な明確なビジョンと取り組みが、採用やスタッフの定着にも影響を与えるという点にも注目です。

ほか、外食産業では生産者支援、自社農場化などの取り組みや、無化学調味料、無添加などを謳う飲食店なども増えてきています。こうした「イミ消費」的な価値創造の取り組みは、これからの飲食店経営にとって非常に大切になってくるものと考えます。

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(画像=iStock.com/daruma46)

「外食の価値」とは何か?

外食と中食のボーダレス化はますます加速し、前述の「ポータグルメ」などの成長がますます進むものと考えられ、外食/中食の定義すら曖昧になってくるようにも思えます。こうした競争環境の中、改めて重要になるのが「外食の価値とは何か?」という問いです。

コンビニ弁当に対して「500円であのクオリティーの弁当を出されたら飲食店は勝てない」といった話を聞くことがありますが、逆に問いたいのは「店で食べる価値は何か?」「店が訴えたい価値は価格(だけ)なのか?」という質問です。外食中食がますますボーダレスな競争環境となっていく中、重要なのは「消費者が外食に求める価値とは何か?」を考え抜くことであります。

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(画像=iStock.com/daruma46)

「価値」を磨くことで「生産性向上」に繋げる

「価値」を磨いていくには、店の「価値」を明確にし、どの「価値」を強みとして市場で競争していくのかを考えることが必要です。「価値」は次の5つに分類できると考えます。

■調理・提供方法

「レシピ、焼き方、作り立て、手作り、コース内容、食べ放題、盛り付け方など」

■食材

「グレード、産地等の調達ルート、目利き、シェア、社会貢献」
寿司店でいえば、親方の目利きと仕入れのルート。郷土料理や各国料理でいえば、その地域固有の食材。食材を消費することによってつながる地域貢献や生産者支援など(イミ消費)。

■ストーリー

「料理・食材にまつわる伝統、伝承、地域の歴史・物語、食習慣」
それを食べる、消費することによって生ずる意味や意義(イミ消費)。

■空間

「非日常、ゴージャス、様式美、眺望、コミュニティー」
非日常的なゴージャスな空間や、歴史を感じる古民家風の部屋、窓から見える夜景、横丁などのコミュニティー、空間を演出する音楽や照明など。

■接客

「客のシーンに合わせた接客サービス」
接待、お祝い事、デート、おひとり様など、シーン(食事目的)に合わせたスタッフの接客。

これら5つの「価値」は昨年の記事でも書かせていただいたものですが、これら「価値」に対して、「ふさわしい対価をいただく」「使いやすいお店としてリピートしていただき、客数が伸びる」ということを実現していくことが「生産性向上」にとって大変重要です。外食産業の生産性向上は大きな課題でありますが、「価値」を磨いて生産性を向上させることが大切な視点となります。

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(画像=「生産性」についての考え方)

20世紀では、外食産業は上の図の分母にあたる外注化、機械化、マニュアル化などの「合理化」をすることで厳しい競争を戦ってきました。しかしながらその努力は、価格競争による疲弊、行き過ぎた合理化によるクオリティーの低下につながってしまった。つまり「価値」を減少させてしまった、と多くの有識者が指摘しています。

テクノロジーが飛躍的に進化した今、外食産業は……

「機械でできることは機械に」
「外部に任せられることは外部に」
「人がやるべき仕事を人に」

というイノベーションを実現していくことが重要です。その為には従来のやり方=20世紀の成功体験を疑うことも必要。20世紀の合理化発想とは違った、テクノロジーを活用して「価値」を高めていく取り組みを加速していきたいと考えます。

トレンドは、現象だけを見るのではなく、その背景にある「消費者の価値観の変化」に着目し、お店の「価値」の向上に“上手く”活用することが重要です。そうすることで「生産性向上」に繋げていただきたいと考えています。

竹田クニ
1963年生まれ。「ホットペッパーグルメ外食総研」エヴァンジェリスト、株式会社ケイノーツ代表取締役、日本フードサービス学会会員、一般社団法人 日本フードビジネスコンサルタント協会 専務理事、早稲田大学校友会 料飲稲門会 常任理事。マーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演、官庁自治体への政策提言活動など行うほか、外食、中食、給食を結ぶB to Bマッチングも手掛けている。

執筆者:『Foodist Media』編集部

(提供:Foodist Media