四半期レポートのSG世界経済見通しがアップデートされました。主要国の経済予想もアップデートされています。
SG世界経済見通し(3/18):不確実性の雲に切れ目
●不確実性の雲に切れ目
「経済への深刻なショックにつながる可能性がある主な分野での不確実性が、グローバル経済を圧迫してきた」という合意が広く成立している。具体的には、米国と中国の間で完全な貿易戦争に発展することや、合意無きブレグジットが挙げられる。ただ、こうした問題が今後数週間で完全に解決することは無いかも知れないが、いずれにせよ大部分は解決するだろう。すると企業の景況感は回復して、上記の2点により延期になっていた企業投資プロジェクトの一部復活につながるとみられる。とはいえ、不確実性の雲に切れ目が見え始めていることは確かだが、その後には世界景気トレンドの減速が今後2年間続くことになるだろう。
●景気減速ペースは各国で異なることに
通年ベースのグローバルGDP成長率は、2017年と2018年は持ちこたえた後、2019年と2020年の2年間は減速するとみられる。実際、弊社がカバーする国・地域の中で、2019年に景気拡大の加速が見込まれる国は(日本をはじめ)非常に少ない。景気減速は、国・地域によってペースが異なる形になると見込まれる。一部の国では「通年GDP成長率が前年からの持越し効果(成長率のゲタ)で低水準になるが、四半期ベース(前期比)では2019年を通じ回復する」と予測される。それに該当するのが、ドイツ、フランス、イタリア、したがってユーロ圏である。
●通商交渉…米中間は合意に近づいたが、他に紛争が起こりそう
濃密で上級レベルの米国と中国の間での交渉が、良い形で進展しているようだ。弊社はトランプ大統領と習近平国家主席の間で、現在の計画通り合意に達する(最も可能性が高いのは3月遅く)とみている。追加関税の脅威は最終的には完全消滅する見込みだが、それにつながる合意成立には少なくとも何カ月、場合によって1年かかるとみられる。こうした意味で、米中間の合意によって不確実性は大幅に低下するとみられる。だが、米国政府は次のバトル(おそらく対EU)に移るとみられる。両者とも(特に農業分野で)妥協は難しくなるだろう。ただ弊社想定の基本シナリオでは、自動車関税の発動は無いとみている。
●中央銀行の大撤退
金融政策の正常化はテーマの主役から退き、「辛抱」と「先送り」がとって代わった。主要国経済指標の持続的な悪化と、大きなダメージを起こしかねない不確実性に直面して(貿易戦争、ブレグジットなど)、世界中の中央銀行が、従来よりも遥かにハト派的に変わった。最近数週間で弊社は、中央銀行政策見通しの変更を多数行った。一部の例では、政策引締め見通しを完全に放棄した(米国、豪州、インドネシアなど)。その他多くの国では、政策正常化に近づく時期の見込みを遅らせた(ユーロ圏、日本、英国など)。また、長期的に市場にはより重要とみられるのが、現在は量的緩和(QE)の大部分は解消されないという見方が強まったことだ。このため、公的セクターの巨額の債務が、(インフレを伴わず)永久的にマネタイズされるとみられる。このことは、QEが各中央銀行のツールキットに留まることを示唆している。
●フィリップス曲線…有効だが、半分眠っている
弊社は過去1年半ほど、先進国に共通する失業率の持続的低下が、賃金伸び率の緩やかな上昇、さらに物価全般の上昇加速につながると主張してきた。前者はその通り実現したが、後者は実現していない(物価が賃金に反応していない)。幅広く主張されている説の大半で、低インフレの説明に賃金チャネルを使われる。だが実際は、賃金は加速しているが物価はそうではない。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司