シンカー: 米国の長短金利の逆転が景気の先行き不安につながっている形は昨年と同様である。昨年はFEDの利上げが進行する中であった。経済指標が強くても、FEDの利上げの加速が懸念され、株式市場に上昇圧力はかかりにくかった。経済指標が弱くても、FEDの利上げの鈍化が見込めることが、ある程度の株式市場の下支えになったとみられる。長期金利と株式市場が逆相関の関係を持ちやすかった。逆相関の時は、ボラティリティーは抑制されやすい。最終的には、経済指標の堅調さとFEDの利上げスタンスの継続などが長期金利の上昇につながり、バリュエーション調整として株式市場が下落した。一方、今年はFEDの利上げが休止している中である。経済指標が強ければ、長期金利の上昇とともに、株式市場が上昇する。経済指標が弱ければ、FEDの利下げを織り込む形で長短金利差が更に拡大し、株式市場も下落する。長期金利と株式市場が順相関の関係を持ちやすくなっている。順相関の時は、ボラティリティーは拡大しやすい。マーケットは、各国の経済政策の効果をまだ完全に織り込んでいないとみられる。堅調な経済指標が出始め、長期金利と株式市場の大きな上昇の局面が生まれることも十分にありえるだろう。実際に景気後退が起こるのはまだ先だと考えられる。
グローバル・レポートの要約
●米国経済(3/22): FOMC:「利上げ回避クラブ」に加わる
FRBは、弊社の呼び方を使うなら「利上げ回避クラブ」に加わった。今年中の利上げは完全に消滅して、ドットチャートは2020年に25BP利上げが1回だけ実施され、2021年には利上げが全く実施されない、と示す形状になった。目を引くのは、FRBがわずか6カ月で、「金利を景気抑制的な領域に持っていく見通し」から「2021年終わりまで、依然としてやや緩和的な金利水準が続く」に変わったことだ。一方でFRBは、バランスシート縮小を5月から徐々に減速して、9月末までに完全終了させる計画を発表した。FOMC参加者の経済見通し(SEP:SUMMARY OF ECONOMIC PROJECTIONS)では、2019年のGDP成長率が引下げられて、失業率はわずかに引上げとなった(これらは弊社推定通り)。短く言うと、上述の内容すべては、大半の市場参加者が見込んでいたよりも遥かにハト派的な内容だった。
●英国経済(3/25):ブレグジットの今後の行方
EUは英国に対して、ブレグジット延期の選択肢を2通り提示した。メイ首相の離脱案が英国議会で3月29日までに、①可決されるならば離脱を5月22日まで延期、②可決されなければ4月12日に離脱(の方向性明示を求める)というものだ。メイ首相は、離脱合意案の3回目の採決を行うとみられるが、否決はほぼ確実だ。英国議会はその後、ブレグジットのプロセスをコントロールできるように協働するだろうが、メイ首相の離脱案に代わる策で合意出来なければ、無意味なものになる。これ(英国議会の取組み)は混乱の内に終了する可能性があり、総選挙または離脱案の合意不成立の一方、あるいはその両方が実現することも否定できない。
●債券市場(3/24):またしてもハト派的なサプライズ
米連邦公開市場委員会(FOMC)はまたしてもハト派的なサプライズを届けた。英国の欧州連合(EU)離脱をめぐる苦難はリスク・センチメントを圧迫し続けている。状況は好転する前に一段と悪化する可能性がある。世界の債券利回りは年初来の最低水準に戻った。金利の方向を予測するトレードの場合、こうした環境は慎重な対応が求められよう。強気に傾いたキャリー・トレードや、コンディショナル・カーブ・トレード(ドル金利のスティープ化、ユーロ金利のフラット化)を選好する。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司