シンカー: 景気循環には、在庫・生産の短めの循環と、信用の長めの循環がある。IT技術の発展による在庫管理の向上などにより、半導体を含め在庫・生産の循環は短期化したとみられる。一方、物価上昇力は弱く、中央銀行の金融引き締めが緩慢であり続けられることが、信用の循環を長期化しているとみられる。そして、製造業と比較し、サービス業が躍進していることで、景気循環に占める後者の役割が更に大きくなっているようだ。半導体を含め在庫・生産の循環が弱くなっても、信用の循環が毀損しなければ、大きな景気後退に陥るリスクは小さいとみられる。現在のグローバル経済の状況だと考えられる。また、在庫・生産の循環が弱まり、中央銀行が緩和姿勢を強めれば、信用の循環の過熱につながるリスクがあることが、中央銀行の緩和姿勢に抑止をかけているとみられる。ただ、政治リスクが大きくなると、この二つの循環を基にしたマクロ・ロジックを破壊してしまうリスクが高まる。グローバルな政治リスクの後退が、堅調な信用の循環をマーケットが正当に評価するためには必要であると考えられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●ECBプレビュー

・経済状況を考えるとTLTRO3の条件は寛容になる可能性がある

今回(4/10)のミーティングの注目は、TLTRO3の条件がどれだけ寛容になるかだ。ECBはTLTRO2による融資を保有を認めながら、TLTRO3によって対象となるローン残高の最大30%の資金を供給する可能性がある。そうなればTLTRO2が満期を迎える(2020年6月から2021年3月の間に約?740bn)までに一時的にバランスシートが拡大することになるだろう。現在の経済状況を踏まえると、貸出インセンティブを与えるために、TLTRO2のような条件が発表される可能性がある。

弊社は、銀行が直面する借り入れコストは、貸出の増加がECBの目標に沿っていれば-20bp、それ以外なら0bpになると仮定している。これまでのことろECBの要人はTLTRO3はTLTRO2ほど寛容な条件にならないと示唆しているが、そうなれば資本市場のアクセスが限定されている銀行による?350-400bn程度の需要にとどまるだろう。コア国の銀行からすると、資金需要の弱さ、担保の必要性、市場からマイナス金利で2年のファイナンスが可能なことを踏まえると、TLTRO3の魅力は低いだろう。

・預金金利の階層化について

TLTRO3に加えて、預金金利の階層化も注目される。この夏以降も経済の不透明感が高いままだと、ECBは2020年中ごろまで、最初の利上げに関するガイダンスを後ずれさせる可能性がある。そうなればマイナス金利環境が6年続くことになり、加えて信用の伸びが弱い状況が続いていれば、預金金利の階層化が現実味を帯びてくる。

もし、現在-40bpが科されている超過準備のうち、半分に-20bpの高い金利が適用されることになれば、ユーロ圏(主にコア国)の銀行は?2bn程度を守ることができるようになり、貸出能力を下支えするだろう。だが、階層化がECBが低金利環境の長期化に備えているというように受け止められれば、金融機関の収益予想が下方修正され、貸出態度に悪影響を与える可能性がある。

階層化は、金利をさらに引き下げる準備だとの見方もあるようだが、現段階で金利の引き下げは早急すぎるとみられる。だが、更なる緩和が必要になった際、ECBが最初に採用する手段の一つになる可能性が高い。弊社は実効下限制約(effective lower bound)までは多少の余地があるとみているが、これ以上の利下げをしたとしても、ユーロ安が外需の弱さを相殺する程度で、内需に大きな影響はないとみている。

グローバル・レポートの要約

●英国経済(4/8): EU離脱期限が再び延長される見込み

英国のメイ首相は、直近のEU首脳会議ですでに拒否されているにもかかわらず、EU条約第50条(に基づくEU離脱期限)の延期を要請した。弊社は、EU 27カ国が最大1年間の延期を渋々承諾すると見込んでいる。一方、メイ首相と労働党コービン党首が何らかの合意に達するとは、弊社には非常に考え難い。またメイ首相は複数の示唆的投票を実施する見込みだが、(過半数の支持を得る案が出なかった)従来と違う結果になるとは確信できない。ノーディール(合意無き離脱)や早期総選挙のリスクは残っている。

●マルチアセット(4/3): Brexitが欧州議会選挙にとって重要(逆もまた然り)な理由

本号では、BREXIT(またはその延期や撤回)が欧州議会選挙と、特に次期欧州議会内の勢力バランスにどのような影響をもたらすのかに焦点を当てる。

ドイツ国債と周縁国債券市場、またはドイツ国債と米国債の利回り格差縮小はいずれもユーロを大きく押し上げる要因にはなっておらず、景気の弱さがユーロの重しとなっている。

クレジット市場は今のところ政治的リスクを無視し続けている。これは2017年と非常に良く似ており、2016年や2018年とは正反対である。依然続く超低金利環境は資金運用ニーズを増大させ、スプレッドはそれに反応している。しかし、利回りは低下し続けているため、いずれかの時点で2018年と同様にブレークイーブンが低過ぎる状況が訪れる可能性があり、それが市場に混乱を来した場合は急激かつ急速なネガティブ反応を呼ぶ可能性がある。

BREXITをめぐる不透明感は過去3年間にわたり欧州株への明らかな逆風となっている。英国が次期欧州議会に参加した場合は引き続き欧州各国市場への重しになると思われる。そうしたシナリオでは、欧州議会選挙までFTSE 100指数のアンダーパフォーマンスに歯止めがかかる可能性がある。

●債券市場(4/8):金融抑圧政策下でのトレード

中央銀行は投資家に対し、以前にも増して割高な資産を買うことを強制している。資産の値上がりに追いつこうとする投資家につかの間の休息が与えられていたら、先週の債券利回りは数ベーシスポイント上昇していたかもしれない。しかし、中央銀行が我々に課している金融抑圧政策はさらに長期にわたって継続し、トレードやポジショニングに影響を及ぼすであろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司