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前回は、創業計画書の書き方の「基本」をお伝えした。しかし、それだけでは希望額の融資を受けるのに十分とは言い切れない。創業計画書という一枚の紙に、いかに事業に対する思いや確実性を盛り込めるかが鍵となる。今回も、前回に引き続き、日本政策金融公庫の渋谷支店国民生活事業・副事業統轄の石原文彦さん監修のもと、創業計画書のブラッシュアップについて解説をしていこう。

前向きな言葉を使って「思い」を書く

創業動機の欄は、特にしっかりと記載する必要がある。安易に記載すると、入り口の段階で融資担当者の低評価を招く恐れがあるからだ。第一印象が悪いと、その後の交渉がうまく進まないこともあるので細心の注意を払おう。

例えば、「会社勤めが嫌だ」「楽をして稼ぎたい」といったことを書くのは論外。創業しようという考えに至る「思い」を記載することが重要だ。ネガティブな印象を持たれないように言葉を選ぼう。しかし、印象を重視するあまり綺麗ごとばかりを書き連ねても融資担当者はすぐに見抜く。きちんと心のこもった内容にし、つっこんだ質問を受けてもしっかりと答えられるように準備をしておくことが大切だ。

アピールできることは工夫して書く

職歴や経験と事業内容が一致しない場合、創業する業種に関する経験が乏しいと思われてしまう。しかし、業界に興味をもって自分なりに調べ、商品やサービスの知識を蓄積している場合は、その旨を積極的に記載しよう。例えば、該当業界に関するSNSのグループに入って多くの人と意見交換している、同業者が出版した書籍を読んでいるなど、職歴以外のことでもアピールすることが可能だ。

また、今までの職歴から応用できることを抽出して記載することも有効だ。 例えば、メーカー勤務で人事職に就いていた人が飲食店を創業するというケースでは、「人材の雇用や戦力化のスキルが、パート従業員を必要とする飲食店運営にも活かせる」というように、これまでの職歴が有利に働くポイントを見つけよう。

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「フレームワーク」を活用する

創業計画書には、提供予定の商品が実際に市場において優位性を持っているかを検証して記載する必要がある。こういったときには、マーケティングや競合戦略を検討するときに使われる「フレームワーク」と呼ばれる手法を活用しよう。マーケティング戦略の4P(商品、価格、流通、販売促進)や4C(顧客価値、顧客にとっての経費、顧客利便性、顧客とのコミュニケーション)、競合環境分析等が役に立つので、押さえておきたいところだ。

市場調査の方法

ターゲットの設定においては、顧客の属性や好み、購買動機などを正しく踏まえられているかを検証する必要がある。 特にスモールビジネスの場合は、創業時に実際に来店が見込める近隣の住民や知人にインタビューを行い、商品・サービスの開発に活かすことも重要だ。

また、商圏内の人口や消費動向については、国が提供するRESAS(地域経済分析システム)のほか、各地の産業支援施設が活用している商圏分析ツールがあるので利用してみよう。 実態に基づく客観的な資料となることはもちろん、創業への熱意を示す資料として、審査担当者に良い印象を与えることが期待できる。

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売上の検証

通常、売上の検証は客単価をもとに行うが、この時、客単価を「売上構成要素」ごとに分解する必要がある。飲食店であれば、客単価を平均メニュー単価と注文数に分解する、エステサロンであればサービス単価と来店客数に分解するなど、より細かく計算してみよう。売上構成要素に分解したうえで、無理のない計画を作ることが重要だ。

経費についても、仕入れ先へ仕入れ原価をリサーチしたり、創業地域の最低賃金を確認してから人件費を算定したり、それぞれの項目における根拠を示そう。そこへ家賃や保険料の見積りなどを加え、最終的な経費を算定するのだ。算定された経費は、公開されている各種経営指標と比較することで、妥当性の検証を行うことが可能となる。

運転資金に余力をもつ

いざ創業しても、マイナス収支が続き、手元資金が減少していく可能性も考えられる。資金繰りが厳しくなると、創業者は精神的に追い詰められ、経営はより厳しいものになってしまう。こういった事態を避けるため、楽観的な収支計画ではなく、固く見積もった収支計画を作成して、当面の赤字に耐えられるだけの資金を用意するようにしよう。

例えば、未経験で居酒屋を創業したある女性は、1年分の家賃支払いに相当する運転資金を普段使いの通帳とは別に自己資金として用意していた。支払不安を軽減したうえで、集客や料理、リピート化など、本業に専念する戦略を取ったのだ。この戦略が成功し、充実したサービス内容が人気となり、今は業績が順調に推移しているという。当面の金銭的不安をなくせば、冷静な経営ができるようになるので参考にしてほしい。

以上、創業計画書のブラッシュアップ方法について紹介した。創業計画書の作成の目的は融資を受けることはもちろんであるが、今一度、自分の創業に対する思いや課題を整理するという意味でもとても重要なものだ。作成の途中で、新しいアイデアや決意も生まれるかもしれない。ぜひじっくりと時間をかけて創業計画書作成に取り組んでほしい。(提供:Foodist Media

執筆者:大槻洋次郎