夫婦で飲食店を経営するパターンは少なくない。気が合う二人だからこそ、うまくいくという面もあるが、逆に経営に夫婦間の感情が入り失敗することもないわけではない。台東区入谷にある『暮ラシノ呑処 オオイリヤ』は當山鯉一(とうやま・りいち)・由美子夫妻(ともに34歳)が運営し連日、賑わっている。客の2割程度は外国人で占められ、下町の国際社交場として人気が高い。2015年10月の開店から二人三脚で経営し、およそ2年半で2号店『酒呑倶楽部アタル』を北千住に出すまでに成功した秘訣、そして夫婦経営のメリット、デメリットをうかがった。
壁に英仏独西語でメッセージ、国際色豊かな社交場
『オオイリヤ』の壁には英語やフランス語、ドイツ語、スペイン語など数多くのメッセージが書き込まれている。「Fantastic experience」(幻想的な体験)、「sooooo gooood fooood」(むっっっちゃ、おいしい~~~)といった感じであろうか。近くに外国人用のゲストハウスがあり、口コミで評判が広がって次々と訪れるようになり、彼らが記念に壁にメッセージを書き残していったものである。
「オープン当時、外国人の来店は計算していなかったから、すごく助かりました。最近はアジア系、中国や韓国の人が増えてきましたが、やっぱりヨーロッパの方が多いです」と同店を運営する(株)トーヤーマンの代表取締役社長でもある鯉一氏は言う。欧州系が多い理由としては「ガラス張りで、カウンターのおばんざいがよく見えるし、楽しそうな様子も見えるからではないでしょうか」と由美子夫人。
異国の地にやってきて、どんな営業をしているか分からない店に入るには勇気が必要だが、その不安感がないのは小さくないと思われる。まずは実際に目にしている、美味しそうなおばんざいを頼めばハズレはないという現実的、合理的な計算もあるのだろう。
その上で英語メニューを置き、ワンドリンク、ワンフードにお通しが付くという説明書きがされているので安心して利用できることや、店員が片言の英語で注文を取り何とかコミュニケーションを成立させる過程が「英語があまり通じない、日本人がよく行く美味しい店で飲んだぜ」という旅の醍醐味を味わっているのかもしれない。
メニューの3本柱、もつ煮込みは鶏を使用のオリジナル
こうした人気も、料理の美味しさがあればこそ。『オオイリヤ』では「3本柱」と呼ばれるメニューがあり、これが外国人にも日本人にも人気を集めている。「鶏もつ煮込み」(580円)、「島野菜のグリル」(980円)、「やんばる鶏むね蒸籠蒸し」(1280円)の3品だ。
島野菜、やんばる鶏は當山鯉一氏の故郷沖縄から取り寄せている。もつ煮込みは通常は牛すじの煮込みが定番だが、オリジナルの煮込みをつくろうと鶏の皮とハツを使い、カツオの出汁とニンニクを効かせたものにして人気商品となった。
メニュー構成は、鯉一氏がフーズサプライサービス株式会社在職中に取締役だった高丸聖次氏(現5waykitchen代表取締役、居酒屋『おじんじょ』運営)の影響を受けている。「オープン前に高丸さんから『ポテトサラダと煮込みが美味しくて、レモンサワーが美味しい店はハズレがない』と言われていました。それと、お客さんに何がオススメ?と聞かれた時にパッと答えられるメニューが3つあった方がいい、とアドバイスをいただきましたので」と鯉一氏は言う。
こうしてオープンからわずか2年半ほどで、2店舗目となる『酒呑倶楽部アタル』の開店(2018年6月1日開店予定)にこぎつけた。こちらは30席と、『オオイリヤ』の16席の2倍近い規模。今後の店舗展開を進める上で、絶対に失敗が許されない。そこで当面『オオイリヤ』は従業員に任せ、『アタル』を軌道に乗せるために夫婦で運営することにしている。