飲食店の経営者の中には「客単価をもう少し上げたい」という悩みを持つ方も多いだろう。客単価が上がればその分、売上も増加するものだと考えがちだが、単価が高くなったことで客足が落ちてしまっては意味がない。お客様に「また来たい」と思ってもらえるように、単価が上がった分の価値をしっかりと提供することが客単価を向上させる上での大切なポイントとなる。では具体的にはどのように客単価を上げていけばいいか、その方法を今回は考えていきたい。
客単価を上げるための心得
まず、基本的なことだが、客単価とは「客1人あたりの支払額」のことだ。客単価が上がれば、客数は同じでも売上は大きくなる。さっそく、客単価を上げるにはどうしたら良いか考えていこう。
例えば、居酒屋で生ビールの価格を450円から500円に、一品料理の平均価格を500円から600円に値上げしたとしよう。すると単純計算では、数百円程度の客単価増が見込めるように思える。
しかし、このように単純に1品あたりの単価をアップするような方法はしない方がいい。なぜなら、お客様に「あれ?生ビールが400円台から500円台になったな」というように、気づかれやすい傾向があるからだ。特に、注文数が多い生ビールのような商品の値上げは避けた方がいいだろう。
当然、値上げはお客様にとって嬉しいものではないので、全体の注文皿数が減少したり、さらにはお店から足が遠のいたりといったことも考えられる。すると、客単価が上がるどころか、売上が下がるということにもなりかねない。
理想としては、お客様に「このお店が好きだ」「お得なメニューだな」「せっかく来たからたくさん注文しよう」というような気持ちになってもらうこと。客単価のアップを目指すのであれば、まずはお店の魅力をしっかりと伝えることが重要になる。
それでは、具体的な方法や工夫を紹介していこう。
ワクワクするメニューブックで注文数を増やす
お客様が飲食店を利用する際、かなり最初の段階で店の良し悪しを判断すると言われている。例えば、店のホームページや店頭の看板、口コミ、店に入った直後の店員の接客態度など。料理を食べる前の方が、店に対するアンテナが敏感になっているのだ。
そこで工夫をおすすめしたいのがメニューブックだ。仲間とメニューブックを見ながらどんな料理を注文しようかと話すのは、非常にテンションが上がる場面だろう。ここでの工夫のポイントは、「楽しそうに見せる」ことと、「品数を多く見せる」ことだ。
例えば、写真や字体、メニューのネーミングをひとひねりしたり、メニューブックそのもののデザインや材質にこだわってみる。また、メニューのページ枚数を多くしたり、店内のいろんな場所にメニュー掲示をすることで、より多くの品数があるように感じさせることができる。
メニューブックを見ている際に「美味しそうなのがいっぱいあるね」「色々ちょっとずつ注文してみよう」など、お客様からそのような声が聞こえてきたらしめたものだ。値上げはしなくても、きっと注文品数が増えて、客単価増に繋がるはずだ。
スタッフの接客でお得なメニューを注文してもらう
基本的なことなので意外と忘れられがちだが、ホールスタッフによる接客次第で客単価は上昇する。高い商品を勧めるというよりも、「よりお得な商品」を勧めるようにすることがポイントだ。
例えば、4名グループで中ジョッキを人数分注文される場合、「大ジョッキの方がお得ですよ」「みなさんビールがお好きなら、お得なピッチャーもありますよ」というように勧めるといい。
客側は、「親切な対応だな」「お得な商品を勧めてくれてありがたい」というような印象を持つだろう。客と店員のコミュニケーションも深まるので、お店のファン化にも繋がりやすい。
これを徹底するためには、接客マニュアルの中にお得な商品のリストを記載しておくといい。具体的にどれくらいお得になるかなども計算しておくと説明がしやすい。お客様にとって有益な情報ならば、スタッフも積極的に勧めることができるだろう。このように、単価の低い商品から単価の高い商品に注文を変更してもらうのも、客単価アップの一つの方法だ。
予約したくなる名物メニューを用意する
「名物メニュー」の開発も客単価アップに繋がる。例えば、事前予約必須の大皿メニューなどだ。予約しなければ食べることのできないもの、例えば珍しい部位の大皿肉料理などをグループでシェアしてもらうようなスタイルがいいだろう。インスタ映えする盛り付けにしておくことも重要だ。
グループ客をうまく集めることができれば、1テーブル毎の単価は高くなる。また、名物メニューで客の心を掴み、「せっかく予約したから」という気持ちになってもらえれば、注文メニュー数が増える可能性も考えられる。わざわざ来店してもらえるような話題性や価値を作っておくことが重要だ。
高単価&高原価の目玉メニューを用意する
前述の名物メニューと少し似ているが、数量限定の「高原価メニュー」を用意しておくのも客単価アップに繋がりやすい。ここでいう「高原価メニュー」とは、原価率を高く設定したメニューのことだ。
一般的に、原価率は売価の30%程度。高くても一部のメニューで40%というところだろう。そこで思い切って、原価60%くらいのメニューを提供する方法もある。
具体例として、売価1000円で原価に60%かける商品Aの場合で考えてみよう。原価率は相場よりかなり高いが、それでも売価(1000円)から原価(600円)を引いた粗利益は400円となる。売価500円で原価30%の商品Bの場合はどうかというと、売価(500円)から原価(150円)を引いた粗利益は350円だ。
一見するとBの方が優秀な商品のようにも思えるが、Aの方が原価率が高いので、魅力が高く、しかもお得で美味しいメニューになっている。すると当然、注文率も上がり、口コミにも繋がりやすくなるというわけだ。商品Bのように、価格も原価率も相場に近い設定だと、客に魅力が伝わりにくい傾向があるので注意しよう。
単純に高い商品を置くだけでは注文されにくいが、「高単価&高原価」にすることで客単価アップと利益幅もアップすることができるのだ。
食後のスイーツメニューを充実させる
「甘いものは別腹」などとよく言われるが、居酒屋やビストロでも食後のスイーツに力を入れてみてもいいだろう。食事をした後に、他のカフェなどに移動してお茶やスイーツを楽しむ客も多いが、そういった客を逃さないような魅力的なスイーツメニューの開発が必要となる。
単純に、お酒や食事の後に、コーヒーやスイーツを注文してもらうと、500~1000円程度の客単価アップが見込めるはず。食後の時間を心地よく楽しんでもらうことが重要なので、例えば一度テーブルを綺麗にする、席を移動してもらう、キャンドルサービスをするなど、お客様が気分転換できるような工夫をするといいだろう。
以上、客単価をアップするための考え方と具体的な方法を紹介した。客単価をアップする、つまりお客様に多くの金額を支払ってもらうには、満足や感動を与えられる店でなくてはならない。接客や盛り付け、原価率など、これまでの常識に縛られずに自由な発想で自分の店にあった方法を見つけてほしい。(提供:Foodist Media)
執筆者:大槻洋次郎