生命保険商品に加入する際には、他の類似する金融商品とは異なる手続きが必要となる。すなわち、生命保険契約に加入しようとする者は保険会社に対して一定の情報提供をしなければならない(保険法37条)。これが告知義務である。この義務に反して告知をしなかったり、不実の告知をしたりすると生命保険契約は解除され、また既に発生した保険事故に関しても保険金が支払われなくなることがある(保険法55条)。

保険法早わかり
(画像=PIXTA)

告知義務はなぜあるのであろうか。その根拠は保険制度における平等性・公平性確保の要請にある。すなわち、保険保護の対象となるもの(=生命保険においては被保険者の生命)が持つそれぞれのリスクに応じて保険料を負担すべきとする要請から出てくる。それらリスクに関する情報が保険に加入しようとする側に偏在しているため、情報提供が義務付けられるのである。

では告知義務とは具体的にはどのようなものであろうか。告知義務を定める保険法37条に従って見てみたい。告知すべき者は保険契約者または被保険者とされている。一般には保険保護の対象となる被保険者が実際の告知義務者になることが多い。告知は告知書への記入または診査医への告知をもって行うのが通例である。

告知は保険会社または保険会社から告知受領権を与えられた者に対して行うことが必要で、一般に生保の営業職員や代理店(保険募集人)には告知受領権はない。保険会社の募集書類においてもこの点は目立つように記載されており、「営業職員に口頭で言った」のでは告知をしたことにならず、告知書に正確に記入することが必要である。ただ、営業職員の対応如何によっていくつかの問題があり、この点については後ほど述べることとする。

一方で診査医は告知受領権が与えられているのが一般であり、診査医に告知したことは保険会社に告知したこととされる。診査医が被保険者から聞いたことを保険会社に伝えなくとも保険会社は知らなかったとは主張できない。

告知すべき事項は危険に関する重要な事項のうち、保険会社が告知を求めたもの、とされている。ここで危険とは、被保険者の死亡又は生存の発生の可能性のことを言う。言い換えると被保険者の生命に関するリスクの程度である。

また、重要な事項とは保険契約の締結に当たって、保険料の水準に影響を与える程度の事情や引受けができない程度の事情のことなどを指す。したがって、その事情が保険会社に伝われば、条件付(たとえば追加の保険料を徴収するなど)や謝絶(=加入できない)となりえるものが重要な事項である。

保険法は旧商法の保険分野の条文が全面改正され、平成22年に施行されたものだが、その際に告知義務に関して大きく変更したのが「保険会社が告知を求めたもの」という部分である。従前、告知義務は保険に加入しようとする側から自発的に申告すべき義務とされてきたが、今回の改正で質問応答義務に変更された。すなわち、保険会社からたずねられた事項さえ告知すればよいこととされた。

保険会社は従来から告知書や診査医診査で保険会社が定めたもののみを聞いていたため、大きく実務を変更するものではない。しかし、告知書の記載の仕方によっては「聞かれてないから答えていない」との主張がされる可能性があるため、質問項目の設定や質問の仕方をより慎重にする必要が出て来た。この問題をさらに複雑にしているのは告知事項が、「重要な事項」のうちで保険会社が告知を求めたものとなっている点だ。逆に言えば「重要な事項」でないものはそもそも告知義務の対象とはならないということになる。

告知書に記載してある事項は通常、重要な事項として推定されると解されているが、それは事実上推定されるに過ぎないといわれている。重要な事項かどうかは個別項目ごとに判断されうる。

たとえば、よくある告知事項として7日間以上継続した治療や投薬の有無といったものはそれだけでは一見して重要な事項かどうかわかりにくい。インフルエンザやかぜが長引いただけという可能性もあるからだ。しかし一方で、重篤な病歴が隠れている場合もある。そこで、7日間以上継続した治療や投薬があったかどうかだけを問うのではなく、治療ありの場合にその具体的な病名等を告知してもらうという質問の仕方が考えられる。このように具体的病名告知まで一括して告知をしてもらうことで重要な事項としてより明確に位置づけられるものと考えられる1。

告知義務に違反した場合、保険契約は保険会社が解除することができる(保険法59条1項)。解除とは将来に向かって契約の効力を失わせるもので、契約の効力が当初からなかったこととする取消とは異なる。そうすると解除がなされるまでに発生した保険事故(死亡など)はどうなるのか、という問題がある。これは、告知義務違反の事実との因果関係で取扱が異なる。もし、死亡原因ががんで、告知義務違反事実ががんに関する要再検査という医師からの指示であるとすれば保険金は支払われない。告知義務違反事実と保険事故の間に因果関係がある場合、保険会社は免責されることとされている。一方でそのような告知違反事実があっても、たとえば交通事故で死亡した場合はなんら因果関係がないので保険金が支払われる(保険法59条2項1号)。

なお、解除権の行使の期限であるが、約款上、責任開始日から2年間保険事故が発生しなかった場合と、解除できることを保険会社が知ってから1ヶ月たった場合は解除ができなくなる(保険法55条4項)。

告知義務違反があった場合でも、保険会社が保険契約を解除できない場合がある。それは(1)保険会社が知っていたか、過失により知らなかったとき、(2)保険媒介者が告知を妨げたとき(告知妨害)、(3)保険媒介者が事実の告知をしないこと、または不実の告知をすることを勧めたとき(不告知教唆、不実告知教唆)である(保険法55条2項)。

ここで保険媒介者とは営業職員や生保募集代理店など保険契約締結の代理権を有しない販売チャネルのことを指す。保険媒介者は告知を受ける事ができないが、積極的に告知妨害や不告知教唆などを行った結果として告知がなされなかった責任は保険会社が負うべきとするものである。

このような事象は営業職員と被保険者の間でやり取りを行っている際に起こるものであり、営業職員がなんらかの告知に関する相談を受けた場合には「そのまま告知書に記入ください」と答えるのが正解であり、そのように指導されている。しかし、簡単にはいかない場合がある。それが顕著にあらわれるのが過少告知の事例である。たとえば「かぜをこじらせて7日ほど医師にかかったが告知すべきか」と言われて、「かぜくらいならば告知しなくても良い」といってしまったが、実際は重篤な肺炎だったようなケースが考えられる。

この場合にどうなるかは悩ましい問題である。告知を申し出ていたのだから、妨害を行ったのは確かであり、解除できないとの主張も考えうるが、このケースでは申し出内容と告知すべき事実の差がありすぎるため、そもそも故意または重過失によって告知を行わなかった場合と判断すべきとも言えそうである2。いずれにせよ詳細な事実確認が必要となる。

告知は正しく行われなければならない。告知事項ありで条件付になった場合、それはその人の保険への必要性が高いとも考えうる。また、このような場合は引受条件緩和型保険や無選択保険への加入を相談してみる手段もある。

告知をきっかけに自身の健康状態の現状を把握して、その上でこれからの自分のリスクを考えるきっかけにしてはどうだろうか。

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(1)もちろん、告知事項があったとしても結果的に保険加入可能とされる場合があるのは他の告知項目と一緒である。
(2)あるいは保険法55条3項を適用し、「保険媒介者の行為がなかったとしても」不告知が行われた場合(保険法55条3項)として解除可能とする考え方もある。

松澤登 (まつざわ のぼる)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 取締役 研究理事・ジェロントロジー推進室兼任

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