(本記事は、酒井レオ氏の著書『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』=アスコム、2019年3月16日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
お小遣いは絶対にあげない
日本で売れている子育て本を手に取ると、かなりの確率で「小学生になったらお小遣いをあげる?あげない?」というテーマを目にします。
この問いに対する僕の答えは、「お小遣いは絶対あげない」です。
僕自身、お小遣いはもらっていませんでした。同級生にたくさんいたユダヤの裕福な家庭の子どもたちも、お小遣いはもらっていませんでした。経済的にゆとりのある家庭ほどお小遣いをあげていない、というのが昔から変わらない僕の印象です。
言わずもがなですが、お金は労働の対価です。何の労働も提供していないのに、毎月、決まった額のお金が手に入ることなどあり得ません。少なくとも、僕の父が渡米してから多くを学んだ、ユダヤの家庭に受け継がれている〝帝王学〟では、この考え方は当たり前すぎるほど当たり前。
お小遣いを管理することで、お金との付き合い方が身につくというのがお小遣いをあげる派の言い分ですが、お金の本質を知らないまま付き合い方だけ学んでも、将来、お金を生み出す子どもにはなれません。おそらく、お小遣いは毎月決まった額がもらえるお給料の縮小版なのでしょう。そうであるならば、まずは親の側が、これからの時代の多様な働き方について、考えを改めなければなりません。自分の子どもの将来は、定額のサラリーをもらう会社員ですか? これからの時代は、〝好き〟を仕事につなげていく人が増え、スペシャリストとして個人で働く人や起業家が増えてくるでしょう。そんな時代に、お金の使い方しか学ばないことは、リスクでしかありません。
お金に関しては、大人になったときを想像してみると考え方がブレません。大人になって、働かずしてお給料をもらう人がいますか? もし、お金をあげるならば、その金額に見合うだけの労働が必要であると教えるのは、とてもシンプルでありながらお金の本質について学ぶいい機会です。
玄関の掃除1回10円、家中のフローリングを雑巾がけしたら20円、風呂全体を掃除したら30円など、労働力に見合う対価を設定して、自分で稼ぐ喜びを味わいながらお金を手に入れたほうが、身につくことは圧倒的に多いでしょう。
大人に限らず、人間は誰でもラクをしたい生き物です。1回の風呂掃除でもらえるお金は30円。ここが変わらないとすれば、どうしたら効率よく、短時間で風呂掃除を終えることができるかを考え始めます。それが、想像力や発想力といったクリエイティブな思考の源。実行して、うまくいかないところは修正して、試行錯誤しながら自分なりの〝型〟を生み出していくところに面白みがあるのです。
労働の対価として得たお金を貯金箱に入れて貯めていけば、労働の重みを肌で感じることができるでしょう。電子マネーや仮想通貨など実際のお金を手にすることが減ってきている時代だからこそ、こういった原始的なやり方に価値が生まれます。
一方、何もせずに定額をもらえるお小遣いはというと、もらう前から「次のお小遣いが入ったらアレを買おう」と、頭の中が物欲に支配されてしまうのではないでしょうか。自分で働いて得たお金だという重みがないから、好き放題に使えます。ただお小遣いをもらうだけではいらぬ物欲まで刺激され、消費することばかりに目が向いてしまい、お金を生み出す力は育ちません。
アレ欲しいはひとまず無視
僕の育った家庭にはお小遣いの制度はありませんでしたが、何も買ってもらえなかったわけではありません。僕も普通の子どもでしたから、友だちの持っているゲームやオモチャが欲しくて、親にねだったこともたくさんあります。
そんなとき、両親の答えは明快で「1ヶ月経っても欲しい気持ちが変わらなければ、そのときに考えましょう」と言われるのが常でした。子どもの「アレ欲しい」は突風のようなもので、一瞬の感情でしかないことは、子育て中のみなさんならよくご存じだと思います。その瞬間は泣きわめいて執着を見せるものの、「アレ欲しい」の9割近くは、30分も経てば記憶から消去されてしまう程度のもの。
翌日になってもまだ欲しい気持ちが尾を引いていても、時間の経過とともに「本当にアレは必要かな?」と冷静に考えられるようになり、大半は、親を説得してまで手に入れる必要はなく、今の生活になくても困らないものであることを知ります。
「本当にアレは必要かな」と考えることは、とても大事です。今の世の中、欲しいものは次から次へと出てきます。そのたびに必要かどうかを考え続けていると、自分という人間は何に価値を置き、どんなものであればお金を支払ってまで手に入れたいと思うかが明確になっていきます。そうすることで、物欲に振り回されることがなく、物事の本質をシンプルに見極められる人生が手に入ります。
本物のお金持ちや成功した実業家の暮らしぶりは、実にシンプルです。そのいい例が、アップルの共同創立者であるスティーブ・ジョブズです。黒のタートルネックにジーンズにスニーカー。これが彼の定番スタイルでした。ほかにも、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグのグレーのTシャツ、第44代アメリカ大統領のバラク・オバマもグレーかブルーのスーツしか着用しないことで有名です。
彼らは仕事での決断に時間やエネルギーを注ぐために、今日は何を着るかという悩みを捨て、自分のファッションの定番スタイルを築き上げ、それを貫きました。流行に左右されず、アレが欲しいコレが欲しいという物欲に翻弄されるムダな時間を省き、自分のすべきことに全精力を注いだのです。
何かひとつを突き詰めるためには、自分にとって重要でないものは切り捨てる。そんなシンプルな決断力が必要とされます。その一方で、自分が本当に必要と感じたものは、手に入れる熱意と交渉力も必要です。
我が家の場合、もし、1ヶ月経っても欲しい気持ちが継続しているときは、そこから交渉が始まります。自分はなぜこれが欲しいのか、これを手に入れたらどんなふうに活用するのか、子から親へのプレゼンが通らなければ何も買ってもらうことはできませんでした。当然、そんな親だとわかっているので、欲しいものがあるときにはプレゼンまで含めてあれこれ考えるクセがつきました。
お金があってもただ蓄えるだけでは、人生に彩りが生まれません。かといって、欲しいものを何でも買っていればお金が底をつき、人生を棒に振ります。
小さな頃から、自分にとって価値あるものを判断するクセがついていれば、必要なものにはしっかりお金を投じることができ、不必要なものを買うか買わないかで悩む時間もカットできます。僕が大切にしている「Time is money」の精神は、こうしたささいな経験から育まれていくのです。
子供部屋の掃除代、1ヶ月の食事代を支払わせる
「働かざる者食うべからず」。日本には、いいことわざがありますね。
家族は社会における、最小単位のチーム。みんなで協力して、家に貢献するのは当たり前。お金を稼いでくることができないのであれば、掃除や片づけなどの家庭内労働で貢献すべし。これが我が家の基本ルールでした。
「ねえ、たまには僕の部屋の掃除をしてよ」
「やってあげてもいいけど、お金払ってよね」
これ、本当にあった親子の会話です。母の言い分としては、ビルの清掃スタッフがお給料をもらっているように、誰かが自分のスキルを提供すれば、そこには必ず費用が発生するのが当たり前。ボランティアでもない限り、タダでやってもらえることなんてないと思いなさい、というのです。
お金を払うくらいなら、自分でやります。これが僕の選択でした。小学生になれば完璧ではないかもしれないけど掃除機はかけられますし、拭き掃除だってできます。特に日本の場合、学校で生徒が掃除をする習慣があるわけですから、できないはずがありません。
もしかしたら我が家でも、僕の掃除が行き届かないところは母がこっそりきれいにしてくれていたのかもしれませんが、僕の掃除の仕方について注意されたことはなく、僕は僕なりのやり方で部屋の掃除をしていました。そのあたりが、母の上手なところだったと思います。
また、我が家はさすがにそうではなかったのですが、ユダヤ人の同級生の中には1ヶ月の食事代を親に払っている友だちがいました。その子の家も、家の仕事をすれば対価としてお金をもらえるシステムを採用していて、そうやって稼いだお金から、母親がつくってくれた食事の代金を支払っていたそうです。
家の仕事をしなければ自分の手元にはお金がないわけですから、3食にありつくために、その子は一生懸命家庭内労働をして、また効率よく稼ぐためにやり方を工夫していたといいます。さらには、ルーティーンの仕事だけでは飽き足らず、両親へのマッサージを自主的に行い、定期的に臨時収入も得ていたそうです。それなりの貯金ができていたので、食いっぱぐれたことは一度もなかったと言っていました(笑)。
「さすがに私のうちではちょっと……」と思われる方も多いと思いますが、掃除代にしろ、食事代にしろ、リアルにかかっているお金ではなく「家庭内の適切なレート」で金額設定をすれば、あながち無謀なメソッドではないです。
たとえば、子どもが手伝いをして無理なく稼げる1ヶ月の金額が1000円だとすれば、子ども部屋の1ヶ月の掃除代は200円、食事代は300円といったように決めればいいでしょう。あくまで、掃除や食事は無償で提供されるサービスでないことを子どもに伝えることが大切です。
酒井レオ
ニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちのバイリンガル日系アメリカ人。
日本とアメリカ両方の文化に影響を受けて育ち、ワシントン大学卒業後、JPモルガンを経て、コマース銀行(現TD銀行)に入社。その後、バンク・オブ・アメリカに転職し、2007年、史上最年少にして「全米No.1」の営業成績を達成。30代前半の若さにしてヴァイスプレジデントに就任する。
同年、アメリカンドリームに挑戦する人たちを応援したいとの思いから、NPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立し、銀行業界からグローバルビジネス教育の世界へ転身する。金融、IT、メーカーなどあらゆる業界を対象に、社長・役員のためのエグゼクティブコーチングから、マネージメント研修、新人研修まで幅広く指導を行っている。
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