原油市場では米国がベネズエラに対しマドゥロ政権から離反を促す措置を発表したり、イランは2015年に締結した核合意において履行の一部停止を表明するなど、大きく事態が動いている。

イランでは、核合意履行を漸次停止しているが、影響を推し量りきるにはまだ早い。トランプ米大統領は、イラン産原油輸出に対して制裁を加える前、丁度1年前にこの合意からの離脱を発表している。オバマ政権の遺産である核合意へ調印したフランス、イギリス、ドイツ、中国、ロシアなどの他の国は、トランプ氏がイランに対してとった行為に関わらず、イランの続けてきた核合意への履行を称賛している。

しかしイランは、米国に対抗する上で各国の支援が不足していること、欧州企業が引き続き同国と医薬品や人道的支援のための物品等の取引ができ、米国による第2の制裁の影響を緩和させる資金メカニズムの立ち上げが欧州各国によってなされていないことへの不満を募らせている。

核合意履行の一部停止がイランにとって最大の好機?

ロシアは同盟国であるものの自国の原油産業に集中しており、米国と対立するのは中国だけという状況で、イランのハサン・ロウハーニー政権は2015年の核合意履行の一部停止が、各国がイランの利益を守るために米国に対抗してくれるようになる最高の手段だと信じている。これにより、イランがウランを精製して再び核兵器を製造することが可能であることが示唆され、関係各国すべてが恐れるものになるという確実に計算された動きである。

トランプ政権は、このイランの動きを核合意離脱の正当化の材料として利用することは間違いない。トランプ政権内の対イランタカ派は、米国家安全保障問題担当大統領補佐官ジョン・ボルトン氏が主導し、イランのロウハーニー政権に対しより厳しい措置を取れる機会を活用していくとみられる。そしてこれを許す大国も少ない。英ガーディアン紙は、フランスがイランがコミットメント一部引き上げを続けるようであれば経済制裁を下すことを考えていると報じた。

しかし、イランは既にロシアに支援を求める協定を既に結んでいてるとみられる。オイルプライスドットコム(Oilprice.com)のサイモン・ワトキンス氏によると、この協定はイラン産原油及びガスセクターの優先権、軍事協力と引き換えに500億ドルをロシアがテヘランに譲渡するものとみられている。ロシア企業は、テヘランの原油・ガス開発者の完全な支配権(場所、時期ごとの原油生産量と誰にどれだけ販売するかについての完全な決定権を含む)も有することになる。

マドゥロ派に向けた制裁緩和は功を奏すのか?

一方ベネズエラでは、現職のニコラス・マドゥロ大統領から離反を促すために米政府は新たな措置を講じる。これにより、トランプ氏はベネズエラによる原油供給減による価格高騰を抑えることができるかもしれない。

カナダのRBCキャピタルは先週、マドゥロ氏の退陣と、米政府によって暫定大統領とされているフアン・グアイド国会議長率いる改革政府への移行によってベネズエラ経済は素早い復活を進めていくとの見解を示していた。

そのような移行の下で、米国政府は米財務省外国資産管理局下でのベネズエラ国営石油会社(ペトロレオス)の規制の解除や、ベネズエラではIMF・世界銀行との関係性回復への国際的努力を主導していくなど、制裁を緩和する可能性がある。

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(画像=Investing.com)

これは日量100万バレル近くのベネズエラ産原油が米国に輸出再開される機会でもあり、この原油はサウジアラビアが遥かに高値で輸出していた重油と同質のものだ。ベネズエラ国営石油会社による米国への安定的な原油供給は原油価格を押し下げ、トランプ氏が2020年の再選に向けて欲している安いガソリン価格の実現に結びつくとみられる。

しかしこれらすべては、親マドゥロ派が米国にぶら下げられた人参に食いつくことが前提となっている。グアイド氏はこれまでマドゥロ氏周辺での反乱を引き起こすのに成功してきてはいない。米政府は8日、ベネズエラの諜報機関の元トップへの制裁解除を発表したが、まだこれらによって事態が急変する訳ではない。

またマドゥロ政権が予想より早く終了したとしても、サウジアラビアが現在享受している原油価格の高騰をそう簡単に手放しはしないと考えられる。予想されるのは、同国による更なる原油減産である。(提供:Investing.comより)

著者:バラーニ クリシュナン