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ブリトーやタコスなどのメキシコ料理を提供する『Guzman y Gomez』(画像=Foodist Media)

雑誌を見てNYへ直行、1時間半並んで試食

━━『DOMINIQUE ANSEL BAKERY』はニューヨークの人気のペイストリーショップですね

中村 雑誌のニューヨーク特集を見て「何だ、これ」と思って、すぐに見に行きました。並ばないニューヨーカーが毎日200人ぐらい並んでいるのを目の当たりにして、1時間半並んで食べました。それから(オーナーの)ドミニクさんに「日本から雑誌を見て、やって来ました」と挨拶し、後日「貴店に興味があります」と連絡したわけです。スーパーセレブたちが並んでいるわけですから「これを表参道に出せば流行るな」と思いました。

━━日本でも大変な人気ですね

中村 ラッキーなことに、日本でオープンした後にドミニク・アンセルさんが「The World’s Best Pastry Chef 2017(世界の最優秀パティシエ賞2017)」のベストパティシエに選ばれ世界的にも有名になりました。今では、表参道店のお客さんの7割が外国人です。

中村社長が見たドミニク・アンセルの紹介ページには、「クロナッツ🄬」を求めて長蛇の列を作るニューヨーカーたちの写真が収められている。この記事を見て直ちに行動に移し、オーナーに挨拶してコネクションをつくる行動力が成功への原動力であるのは疑いがない。こうした行動力で2017年は39店舗を新規に企画・運営した。

━━2017年は1か月に平均3店舗以上のペースでオープンさせましたが、このモチベーションはどこから生まれるのでしょうか

中村 モチベーションというより、性格の問題だと思います。新しい出会いとか、こういう仕事をすることによって、新しい人に出会うじゃないですか。色々なプロフェッショナルの方とか。そういう楽しみがあります。あと僕は47歳ですが、社員が30代中心で、みんな仕事に飢えていて、どんどんやりたいという感じです。

━━海外のブランドを持ってきて失敗している会社もありますが、それはどこに原因があると考えられますか

中村 僕らも全店舗がうまくいっているわけではない、ということを前提に話します。他社の失敗する例としてはカスタマイズしすぎというのがあるかもしれません。また、ブランドとの相性もあると思います。例えばブランディングが立ちすぎの会社だったらウチとやった方がいいし、多店舗化を一気にやってほしいなら商社と組んだ方がいいとか、そのへんのセレクションは重要ですから、そこを間違えてはいけないでしょう。一般的に失敗している所はオーナーとの相性が悪い場合が多いように思います。僕たちは一緒に文化を作っていこう、彼らはブランドを大切にしていこうという思いで人と人とのつながりを大事にしています。うまくいかないところはマネーだけとか、ビジネス的な思惑だけでやっているのかもしれません。

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表参道の超人気店『DOMINIQUE ANSEL BAKERY』(画像=Foodist Media)

Hot Tokyoで東京盛り上げる

中村社長には「東京」に特別な思いがある。それは社長自身の愛国心、郷土愛の発露でもあり、アイデンティティーのようなものであるという。そして、中村社長はどこに向かおうとしているのだろうか。

━━東京の風景やイメージを変えたいと思っているように感じますが

中村 いや、点で十分、風景全体まではおこがましいです。1人でも多くの人が店を出したところに来てくれたらいいなと。僕がやったことによって、「あそこに行きたい」と思ってもらえるぐらいの存在感があるようなことをやりたいです。

━━東京へのこだわりを感じます

中村 僕は「Hot Tokyo」と言い続けていて、社内にも同名のプロジェクトを立ち上げています。「Cool Japan」は匠の世界のイメージがあって、僕のミーハーさからすると最も不得意なところです。僕は東京で生まれて東京を拠点にしていますから、東京を盛り上げないと僕の存在価値がなくなると思っています。

━━郷土愛のようなものですか

中村 愛国心もありますし、生まれ育った場所に対する愛着もあります。それから魅力的な東京であり続けてほしいという思いです。ファッションだとニューヨーク、ロンドン、東京、パリ、ミラノと有名な都市があります。それが例えばニューヨーク、上海、ロンドンになったりすることに危機感を感じるわけです。だから東京を盛り上げたいというのがあり、そこが僕のアイデンティティーです。だからニューヨークでいい店を見ると悔しくなります。「東京ヤバいな」と。東京が輝き続けることが、僕のモチベーションです。

━━10年後、御社はどのようになっていますか、また、したいですか?

中村 基本的には10年後のことは考えていません。ウチの会社は成長し続け優秀な人が集まり続けるという前提の下では、10年後にできることが僕が想像できる範囲内であったら大したことありません。10年後、僕が考えられないようなことができるようになっているはずなので、僕はやりたいことが考えられないというわけです。

━━10年後に自分が想像できる範囲でしか社員が仕事をしていなかったらダメだと

中村 そういうことです。そのためにはいい人材を集めないといけませんが、会社が輝き続ければ、いい人は集まってきます。そう思って今を頑張るだけです。

中村貞裕(なかむら・さだひろ)
1971年、東京都小金井市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後の1994年に(株)伊勢丹(現・三越伊勢丹ホールディングス)に入社。2001年に退社して(株)トランジットジェネラルオフィスを設立。2008年シドニー発のオールデイカジュアルダイニング『bills』の日本一号店(七里ヶ浜)を皮切りに次々と海外ブランドを運営。2013年『マックスブレナーチョコレートバー』(表参道)、2015年『グスマン イー ゴメス』(原宿)、『アイスモンスター』(表参道)、『ドミニクアンセルベーカリー東京』(表参道)と、それぞれ一号店を出店した。

(株)トランジットジェネラルオフィス
http://www.transit-web.com

(提供:Foodist Media

執筆者:松田 隆