超低金利時代のいま、日本円での貯蓄だけでなく外貨預金や投資信託、または外国為替証拠金取引(FX)などに取り組んでいる方は多いだろう。
そうした中で注目を集めているのが高金利の新興国通貨だ。今回は、「フラジャイル5」と呼ばれる通貨群について紹介する。
フラジャイル5は高金利だがリスクも多い
2013年に米国モルガン・スタンレーによって命名されたフラジャイル5(脆弱な新興国5通貨)。これらは、一般的にブラジルレアル、インドルピー、インドネシアルピア、トルコリラ、南アフリカランドを指す。ただし、近年の経済成長に伴いインドルピーとインドネシアルピアを除外すべきともいわれ、2017年には新たな「フラジャイル5」として、アルゼンチンペソ、パキスタンルピー、エジプトポンド、カタールリヤル、トルコリラが選定された。
「フラジャイル」と呼ばれるゆえんは、これらの国は高金利である一方で、高インフレや経常赤字などの問題を抱え、国内外の動向によって通貨下落が進みやすいというリスクがあるためだ。以降は注目3通貨の動向を見ていこう。
インド:世界2位の人口抱え内需拡大がカギ
5カ国の中でも大きな経済成長が期待されるのが、世界第2位の人口を抱えるインドだ。GDPのプラス成長に加え、政治的な安定が見込めるためだ。しかし、個人消費の低迷が懸念されている。
HSBCのレポートによると、短期的な要因としては、総選挙の実施による雇用や経済の先行き不安、国際原油高による物価上昇懸念を受けての消費マインド低下などが指摘されている。
中長期的に安定した経済成長を持続するには、個人消費を拡大し、内需を広げる必要がある。モディ政権では高額紙幣の使用禁止、物品サービス税(GST)、電子決済サービスの導入といった施策で、「非公式経済(地下経済)」から「公式経済」への移行を進めてきた。今後も改革路線を推進できるかどうかが注目されるだろう。
インドネシア:ジョコ大統領の再選決まる、米中貿易摩擦が下押し圧力に
2億6,400万人の人口を抱え、今後も人口ボーナスが続くと見られるインドネシア。首都ジャカルタを中心に中間層が増加し、消費市場として日本企業からも熱視線を集める。
マレーシア、タイ、カンボジアと、この1~2年は東南アジアの各国が軒並み総選挙を迎えたが、インドネシアでは去る4月17日に大統領選挙の投票が行われ、5月21日には選挙管理委員会が現職のジョコ・ウィドド大統領の再選が決まった。
同大統領はジャカルタ市長時代から注目を集め「国民の大統領」というイメージで支持を得てきた。ジョコ氏就任以来、インドネシア経済は堅調に成長しているが、中国によるインフラ投資の大量受け入れが懸念されてもいる。日本も競った首都ジャカルタと西ジャワ州の州都バンドンを結ぶ高速鉄道事業などがその一例だろう。
また、インドネシア中銀は5月16日、政策金利の据え置きを決めた。米国による対中関税引き上げに伴う米中通商摩擦の激化が予想される中、通貨ルピアへの下押し圧力が強まっているためだ。
さらに総選挙の結果に不満を抱く対立候補の陣営やイスラム保守勢力によるデモやテロへの警戒も強まっている。インドネシア通貨への投資には、内外のリスクを見極める必要があるだろう。
トルコ:高金利で注目集めるも、政治的不安定で軟調続く
新興国通貨の中でも高金利で注目を集めてきたのがトルコリラだ。トルコは、欧州、アジア、中東・アフリカにつながる要衝に位置し、人口構造も若く経済成長が見込める。ただ、高金利はそれだけ高リスクであるということの裏返しでもある。高金利の背景には、高いインフレ率と恒常的な経常収支の赤字がある。
2017年に選定された「新フラジャイル5」に、オリジナルメンバーから「再選」されたのはトルコリラだけだ。
また、近年トルコリラは国内政治の不安定を反映して乱高下が激しくなっている。トルコの最高選挙管理委員会は去る5月6日、3月に実施された最大都市イスタンブールの市長選結果を無効とし、6月にやり直し選挙を実施すると発表した。これは、エルドラン大統領が後押しする候補が対立候補に僅差で敗れたことを受けてのもの。エルドラン大統領は過去17年にわたりオスマン帝国の栄光を取り戻すというビジョンを掲げ、経済成長を率いてきた。しかし近年になってその強権的な手法が国民の批判を集め、人的資本や資産の流出を招いている。
トルコリラは2019年5月時点で、年初からの下落率は1割を超えた。外貨準備が減っている中で、政府がリラの買い支えを継続するのは困難との見方もあり、国内外の不透明さと合わせてさらなる軟調が見込まれている。
新興国通貨への投資はリスクを織り込むべき
このように、「フラジャイル5」と呼ばれる新興国通貨は人口ボーナスや内需拡大で経済成長が見込めること、インフレ率が高いことから金利が高く設定されていることなどで投資家の注目を集めてきた。しかし、同時に国内外の不安要素に左右されやすいという性質を持っている。
各国が「政治の季節」を迎えていることや、米中通商摩擦の激化が世界経済のリセッションを招くとの懸念が高まる中、新興国通貨への投資はリスクを織り込んで検討したい。(提供:百計ONLINE)
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