04
2017年3月に開催された「第9回 酒は未来を救う」の開催の様子(画像=Foodist Media)

「子どもたちの未来」のための支援活動

日本酒に関わる飲食店全体のレベルアップに大きく貢献している花岡さんだが、NPO法人「酒は未来を救う会」の理事長として、病気の子どもや孤児たちの支援も行っている。同会では年に一度チャリティ試飲会を開催し、売上げから経費を引いた額を「あしなが育英会」や「がんの子どもを守る会」「タイガーマスク募金」などにあてている。2017年3月に開催された「第9回 酒は未来を救う」では、全国の蔵元や1000人以上の参加者が集まり、150万円以上の利益を寄付することができたという。花岡さんが、「病気の子どもや孤児が美味しいお酒を飲める未来のために」募金活動を始めたのは2009年のこと。

「私は、『仕事で儲けがあるということは、どこかで搾取している面もあるのかもしれない、年に一度くらいは社会貢献できたらいいな』という気持ちを昔から持っていました。その気持ちが大きくなったきっかけは、知り合いの酒造の専務が、売上げの一部を病気の子どもや団体に寄付していると聞いたことです。自分にも何かできないかなと考え、店で募金を始めたのですが、なかなか集まりません。『一度に集める手段が必要ではないだろうか』と考えていたとき、盲学校に通うために、母親に手を引かれて歩いている子どもを見かけました。それを見て、病気の子どもを支援したい、そのためにチャリティイベントを開こうと思いついたのです。独立前は酒の購買の仕事をしていたので、蔵元さんには人脈がありました。自分ができることはこれではないかと思ったんです」

チャリティを開催するにあたって、寄付先を選定するために、病院を回って、関係者の話を聞いて回った花岡さん。たまたま訪問した赤十字病院の隣に孤児院があり、「この子達の傷も深い」と気づいたことから、孤児院にも寄付することにした。だが、チャリティ試飲会に賛同する蔵元を集めるのは想像以上に難航したようだ。

「最初は蔵元さんを集めるのは簡単だと思ったんですけど、意外と抵抗感が強くて。知り合いにも嫌悪感を示されたのは、今でも忘れないくらいです。どうして、いいことしようとしているのにこんなに苦労するんだろうと思いました。今思えば仕方がないのですが、当時は寄付行為に対して不信感があったんですね。断られ続けて心が折れかけたときに、美和桜酒造の坂田社長が、『社会貢献は蔵元の義務じゃけえ』と言って賛同してくれたんですよ。それでまたやる気になったんです」

地道に人を集めて開催していたチャリティ試飲会も、今では1000人を超える参加者が集まるイベントに成長した。来年の3月25日には、開催10回目を迎える。多くの参加者に子どもたちの現状を知ってもらうため、会場には日本赤十字社や、「がんの子どもを守る会」のブースを設けて、啓蒙活動も行っている。「年に一度のチャリティではできることは多くはありません。ですが、興味を持ってもらい、別の活動につながるきっかけが生まれればと思います」と花岡さんは語る。

05
被災地の児童養護施設の子どもに入学祝いのランドセルを寄付。そのお礼に子どもたちから届いた手紙(画像=Foodist Media)

若手が誇りを持って働ける環境を作る

さまざまなことにチャレンジしてきた花岡さんが、これからやりたいことは、後継者を育てることだという。

「これからは、どんどん若い人が活躍してほしいと思っています。日本酒の世界は雑誌を読んでも決まった人しか出てきません。私のような年配者は早めに身を引いて、若い人が活躍しないとダメだと思うので、協会としてそういう場を作っていきたいですね。飲食業界は離職率が高いし、仕事に誇りを持てないと続けられないと思います。今はSNSでセルフブランディングがうまければウケる世の中ですが、そういうことが苦手な不器用な人にも光が当たるようにしていきたいですね」

日本酒のプロとして誇りを持って働ける若手が増えれば、結果的に飲食業界や、蔵元を支援することにもつながる。そうして業界を盛り上げながら、利益を還元していきたいと社会貢献にも目を向ける。一人の経営者としてできることは小さなものかもしれない。しかし、花岡さんが時間をかけて切り拓いていった道の先は、飲食業界の次の世代や、子どもたちが歩く未来へとつながっている。その未来が少しでも明るくなるよう、花岡さんの取り組みを心から応援したい。

『大塚はなおか』
住所/東京都豊島区南大塚1-51-18 高橋ビル1F
電話番号/03-5395-6707
営業時間/17:00~L.O.23:00
定休日/不定休
席数/16席

(提供:Foodist Media

(執筆者:三原明日香)