本シリーズでは、エコノミストの崔 真淑(さい・ますみ)さんが、全8回に渡って「私たちとお金の付き合い方」を、経済の専門家の目線で語ります。「お金の心配」というと貯蓄による老後の備えを考えてしまいがちです。それはもちろん大事なことですが、貯蓄以外の方法も含めたお金との向き合い方が求められています。第一回は少子化をはじめとする、様々なお金の環境変化のトレンドについて解説します。

老後に備える理由は、「日本の財政」と「少子化」

お金の環境はこう変わる。知っておきたい3つのトレンド
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お金を貯めようとするとき、何となく「老後の備え」をイメージする方は多いでしょう。今の時代は、ますますその心構えが必要になってきます。その理由は「日本の財政」、「少子化」、「長寿化」です。

日本の財政が楽観的ではないことはよく知られています。日本の消費税率は、国際的にはまだまだ低い数字です。学術的な検証では、今の社会保障を維持しつつ、国の借金を増やさないためには「20~30%台の消費税が必要」との試算もあります。※1

社会保障の今の水準を維持できるかもわからなくなってきます。少子化によって労働生産年齢人口が減少し、若年労働者の減少からくる深刻な人手不足、そして社会保険料などの負担の増加などが指摘されています。

少子化と一緒に考慮すべき「長寿化」

少子化と同様に考慮すべき状況の変化は、私たち自身の長寿化です。現在の社会システムは、平均寿命が60代だった時代を想定して作られています。今の時代、60代はまだ若々しいですから、65歳に定年退職して年金生活に入ってしまうと、寿命が長くなったぶん、社会保障の前提が崩れることになります。100歳以上生きることが当たり前になっていく世の中に、システムが合わないのです。

お金の環境はこう変わる。知っておきたい3つのトレンド
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ここまでで、「日本の財政」、「少子化」、「長寿化」によって、社会保障に頼ることが厳しい理由が明確になったと思います。そのため、今後は「高齢化社会を生きるために、どうやってお金を稼ぐか」という問題が出てきます。ただし決して、やみくもに節約してお金を貯めることを推奨しているわけではありません。実際に、節約して貯金するだけでは、人生100年時代には十分ではないかもしれません。

ではどうするのか。その手段は2つ、会社に依存するだけではなく、リカレント教育によって自分の価値を上げて、(1)「定年を迎えた後でも働けるようになっておくこと」です。リカレント教育とは、基礎教育を修了した後でも、必要に応じて就労、教育、余暇などを繰り返す教育システムのことで、何歳になっても学び直せる仕組みです。こうした手段によって、収入を得られる準備を整えておけば老後の生活の不安も減るかもしれません。そして自分で働くだけでなく、(2)「お金にも働いてもらう(投資をする)」ことも必須でしょう。

それらをどうしていくかについて、特に(2)については、たくさんの手段と考え方がありますので、今後の回でお話します。

テクノロジーが変えるサービスの利用コスト

今までの「老後」に備えた話は、いわば基礎編です。それに加えて、今をめぐるお金の環境変化も押さえておきましょう。

テクノロジーが発展してきたことで、お金周りをめぐる環境は大きく変わってきています。例えば、スマートウォッチを使って体調管理をすると、私たちのデータは蓄積されていきます。もちろん便利な面が多く、これによってさまざまなサービスが生まれています。

お金の環境はこう変わる。知っておきたい3つのトレンド
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現在でも、健康診断の結果によって保険料が安くなる医療保険、といった商品は存在します。ビッグデータの蓄積によって、保険に加入する、住宅ローンを借りるというとき、ますます私たちの行動履歴は信用履歴とリンクするようになっていくでしょう。

これまで、保険や住宅ローンをはじめとする信用に基づくサービスは、その信用性が人間性や所属する会社などで判断された上で提供されていました。今後はこの判断に、様々な行動データによって行われるという方向へシフトしていくでしょう。

実際に、中国では、AIが解析した「信用度」で個人の格付けをする 「信用スコア」 の活用が、国家主導で進んでいます。2014年~2020年まで実施される「社会信用システム構築計画綱要」によると、これによって健全な社会システムを築くことが目的です。 この信用スコアを用いることで、サービス提供者は私たちの信用度を人によって判断する必要が少なくなり、コストが安くなり、結果として、サービスの料金が低くなることが期待できます。※2

つまり、私たちが自身の行動データを提供することで、低コストなサービスを享受することができるのです。 ただし、自身の行動データ提供に不快感を持つ人もいるかもしれません。ただ、データを提供することで、結果的に様々なサービスを安価で利用しやすくなるというメリットもあわせて考慮するべきでしょう。

お金の環境はこう変わる。知っておきたい3つのトレンド
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今までの私たちは、お金のことといえば、マクロでは日本の社会や財政について考え、ミクロでは家計の節約といったことを考えれば良かったと言えます。

しかし、テクノロジーの進化によって自分の行動が可視化されやすくなり、その中で自分はどこまでの情報を提供し、どの情報は提供しないか、考えておく必要が新たに出てくるでしょう。それが、お金まわりのサービスを利用する際のコストにも跳ね返ってくるからです。よく言われる「お金のリテラシーを上げる」という言葉の意味することも、変わってくるかもしれません。

お金には「老後をめぐるお金の問題」と「今をめぐるお金の環境変化」があり、この2つについて考えなければならない、それが現在のトレンドだと思います。(提供:Funds)

エコノミスト 崔 真淑(さい・ますみ)
(MBA in Finance)。Good News and Companies代表。一橋大学大学院博士後期課程所属。東京証券取引所特任講師、日経CNBC経済解説委員会コメンテーター、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本経済新聞社COMEMOキーオピニオンリーダー。著書に『『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房、※クリックするとAmazonに飛びます)がある。

※1:R. Anton Braun (2011) "The Implications of a Greying Japan for Public Policy", Canon Institute for Global Studies
※2:社会信用システム構築計画綱要