NISAは年間120万円までの非課税投資枠が付与される制度であるが、その非課税範囲には売却益だけでなく配当益も含まれる。今回はNISAの非課税メリットを最大限に活用するべく、40代の投資初心者向けのに、株式の高配当銘柄を紹介しよう。
NISAと高配当銘柄は相性の良い組み合わせ
NISAの最長非課税期間は5年間であり、売却益に当たる譲渡益だけでなく、株式の配当金にかかる20.315%の税金も非課税となる。
実は、NISAの配当金にかかる税金も非課税となる仕組みは、投資家にとって非常に重要な意味を持つ。配当金とは、言い換えれば確定した利益の受け取りである。毎年利益を配当金として受け取ることで、その都度NISAの非課税メリットを享受していると言える。
NISAの最大のデメリットは、損失が出た場合もそれがなかったものと見なされて、他の投資商品の利益と損益通算ができない点だ。NISAで購入した資産が、非課税期間が終了する5年後に損失を出していた場合、NISAのメリットを享受できないことになる。配当金で毎年利益を確定させていくことは、NISA最大のデメリットである非課税効果を享受できない状況を回避することにもつながる。
売却益の確定は相場状況を踏まえ、タイミングを図る必要がある。このような投資の不確実性を配当で補えるという意味で、NISAと高配当銘柄は相性の良い組み合わせと言えるだろう。
高配当銘柄は投資初心者との相性も良い
高配当銘柄とNISAの相性が良いと説明したが、実は、高配当銘柄は投資初心者とも相性が良い。
株式投資で最も難しいのは、売却のタイミングだろう。NISAでは、ただでさえ難しい売却タイミングに5年以内という制限が設けられている。投資初心者にとっては、売却のタイミングが難しい株式で5年以内に利益を出さなければならないというプレッシャーに駆られ、薄利で売却してしまうこともあるだろう。高配当株式を保有することは、こうしたプレッシャーを和らげる効果もある。
配当金をNISAで毎年受け取ると、その金額は確定した利益となる。年間配当利回りが3%の銘柄を購入した場合、5年間で合計15%の配当金を非課税で受け取れる。仮に5年後の非課税期間終了時に株価が購入時と同額だった場合、配当金の15%がそのまま利益となるのである。万が一、購入時より株価が下がっていた場合でも、15%以内の下落であれば、トータルではプラスになる。
このように、株式の値動きに一喜一憂したくない人や、売却のタイミングが分からない人にとっては、高配当銘柄へ投資を行うことがリスクの軽減にもつながるのだ。
NISAで投資初心者が高配当銘柄を選ぶための3つのポイント
投資初心者が高配当銘柄への投資を行う際の、銘柄選定の方法を説明していこう。ここでは、対象を40代の投資初心者とする。
投資初心者と高配当銘柄の相性は前述の通りだが、一般的に、40代の場合は老後資産を築く必要があるため、リスク許容度は30代よりも低くなる。そのため、ここでは値動きが比較的安定している大型株を選定することを前提とする。
過去の5年の配当推移をチェックする
高配当銘柄を選ぶ際には、少なくとも過去5年間の配当推移は調べておいたほうがいい。配当利回りが高い銘柄でも、それは業績に連動しているため、配当金額の変動が大きい銘柄もある。こうした銘柄は、株主還元という観点では優良企業と言えるが、NISAで配当を安定的に配当を得たいという投資スタイルにはマッチしない。
中には記念配当や特別配当によって、配当金額がその年だけ多くなっている銘柄もある。毎年安定した水準で配当を出している銘柄を見極めるためにも、最低5年、できればさらに長期の配当推移を把握しておきたい。
業績・株価チェックは大原則
高配当銘柄をスクリーニングする際は、指標として配当利回りを用いるだろう。ただし、配当利回りが高いからといって、すぐに飛びついてはいけない。業績が好調であるか、株価が安定しているかを必ず調べる必要がある。
中には業績悪化によって株価が下落し、一時的に配当利回りが高くなっているケースもある。そうした銘柄は、業績悪化を受けた減配のニュースが出る可能性も高い。
業績が良くないにも関わらず、配当を維持して株価をキープしようとする銘柄もある。利益水準は下がってきているが、配当額が変わらない銘柄には注意が必要だ。
安定した利益のもとに払われている配当であるかどうかを確認しておきたい。
「配当が少ない銘柄=悪い銘柄」ではない
企業は株主のものであり、配当金は企業の所有者である株主に利益を還元する行為である。近年は海外投資家の圧力もあり、株主還元を強化する企業が多くなり、利益の中から配当に回す割合である配当性向を高く設定する企業も増えている。
しかし、配当をあまり出さない銘柄が、必ずしも悪い銘柄というわけではないことは覚えておきたい。配当が少ない企業には、利益を配当に回すほどの体力がない企業もあるが、中には配当に回すよりも多くの利益が期待できる事業や投資案件が多い企業である場合もある。高配当銘柄は成長著しい業界には少なく、成熟市場の企業に多い。
高配当銘柄を購入する際は、市場の伸びに伴う株価の大幅な伸びに期待するのではなく、成熟市場の中で安定した利益を取りにいくことを考え、市場と銘柄の選別を行うべきだろう。
NISAで購入を検討したい高配当銘柄5選
投資初心者がNISAで購入することを前提に、具体的な銘柄を5つピックアップした。株式の中でも値動きが安定している大型株ではあるが、リターンが高くなるほどリスクも大きくなることを忘れてはならない。なお、予想配当利回りは、2019年5月14日の終値と会社発表の配当予想を基に計算している。
ソフトバンク <9434> ……予想配当利回り5.90%
ソフトバンクグループの国内通信事業会社のソフトバンク <9434> は2018年12月に東証一部へ上場したが、その配当利回りは5.90%だ。
同社の配当性向は85%と非常に高く、利益の大半をに還元するという明確なスタンスを保持している。2020年3月期においては配当予想を85円とし、前期の年間換算した配当額から10円の増配を計画している。上場時には公募価格割れが話題となった銘柄だが、その後株価は一進一退しており、高配当を期待した個人投資家の買いが下支えしていると見ることもできる。
業績も2020年3月期には増収増益を見込んでおり、5Gという市場の追い風も吹いている。国内通信市場という成熟した業界に位置するが、高配当銘柄の新しい筆頭格と言えるだろう。
東京海上ホールディングス <8766> ……予想配当利回り4.58%
国内損害保険の雄である東京海上ホールディングス <8766>の、2019年3月期の予想配当利回りは4.58%だ。
同社は2013年3月期より5期連続で増配を果たしており、2019年3月期の配当が会社予想の通りとなれば、6期連続の増配となる。2019年3月期には利益剰余金を原資とした70円の一時配当を行っており、配当利回りは一時的に高くなっているが、これを抜きにしても配当利回りは3%台と高水準だ。
配当性向を35%とするだけでなく、利益剰余金での一時配当や自己株式の取得など、積極的な株主還元に取り組んでいる。近年はさらなる成長のための海外戦略にも積極的だが、こうした経営姿勢や株主還元は安定した国内事業によるところが大きい。
トヨタ自動車 <7203> ……予想配当利回り3.36%
日本を代表する銘柄であるトヨタ自動車 <7203> は、配当においても非常に優れた銘柄だ。
2019年3月期の配当額は前年度と同じ220円で、この水準を元に計算した予想配当利回りは3.36%に上る。2020年3月期の配当予想は出していないが、同社は配当性向を30%に設定しており、市況の大幅な変動がなければ同水準の配当を期待できるだろう。
東証一部全銘柄の配当利回りの平均は2%程度であることを考えれば、国内株式市場におけるプレゼンスが極めて高いトヨタ自動車で、平均以上の配当利回りを得られることは非常に魅力的であると言えるだろう。
三菱商事 <8058> ……予想配当利回り4.32%
商社株も配当利回りの高い銘柄が多い。三菱商事 <8058> は、言わずと知れた総合商社の代表格だ。
同社の2019年3月期の年間配当は125円、2020年3月期においても同様に125円の年間配当を予定している。配当利回りは4%超であり、高配当銘柄と言える。配当性向を35%に引き上げる方針を示しており、株主還元に積極的な銘柄と言えるだろう。
一時は資源依存により景気敏感株という見方が多かったが、事業ポートフォリオの改善にも取り組んでおり、直近では安定した純利益を上げている。配当にも期待が持てる銘柄だろう。
ジャパンリアルエステイト投資法人 <8952> ……予想分配金利回り3.09%
最後にREITから1銘柄紹介しよう。J-REITの老舗であるジャパンリアルエステイト投資法人 <8952> だ。
REITは分配金利回りの高さが魅力だが、その裏付けは賃料収入であり、そこにメリットがある。定期的な賃料収入という原資があるため、安定した分配金の支払いができる。
同投資法人は、三菱地所と三井物産がスポンサーになっており、都心5区を中心に主要都市の物件を保有している。保有物件はオフィスビルが中心だが、入居率も近年は90%台後半で推移しており、賃料収入の不安も足下では小さい。
高配当銘柄を検討する際は、ポートフォリオの分散やアクセントともなるため、REITも選択肢に組み込むことを検討したい。注意すべきは、不動産市況が悪化した場合、資産価格の下落がREITの価格下落に直結する点だろう。不動産市況に悪化の兆しが見えた場合には、早めに売却を検討する必要がある。
文・樋口壮一(金融ライター)/MONEY TIMES
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