根本的対策(筆者試案):削減停止の判定方法を変更し、基礎年金と厚生年金の停止を同時に
根本的な対策は、構造要因である給付削減停止の判定方法を変更し、基礎年金と厚生年金の削減停止を同時に揃えることである。それには2つの方法が考えられる。
1つの案は、厚生年金の財政状況だけで削減停止を判定する方法である(図表5のE)。この方法では、基礎年金の削減停止が早まって国民年金財政は悪化するが、それは国民年金保険料を引き上げて穴埋めする必要がある。保険料水準の固定という現行制度の基本を変更することになるが、現行制度の原案の1つと同じ考え方である(5)。
もう1つの方法は、国民年金財政と厚生年金財政を合算した、いわば連結決算ベースの財政状況で給付削減の停止を判定する方法である(図表5のF)。現在は、全加入者共通の基礎年金の削減停止を、公的年金全体の1/10の規模しかない国民年金の財政状況だけで決めているが、この方法では公的年金全体の財政状況で公的年金全体の削減停止を判断することになる。
なお、この2つの対策では基礎年金と厚生年金の削減停止が同時に行われるため、両者の水準のバランス(相対的な水準)を将来に向かって固定することになる。現在は、現行制度ができた2004年度と比べて、経過措置の影響で基礎年金の水準が高めになっている。そのため、この2つの対策のいずれかを実施する際には、現在のバランスの妥当性を確認し、必要があればその修正策を考える必要がある(6)。
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(5)厚生労働省(2002)「年金改革の骨格に関する方向性と論点」, p.107。
(6)例えば、良好な財政状況を背景に厚生年金の給付削減を一定期間停止(その間、基礎年金の給付削減は継続)する、という方法が考えられる。
共通課題と対応策:基礎年金の水準改善に伴い、国庫負担が増加
政府提案にせよ筆者試案にせよ、何らかの対策で基礎年金の水準低下が改善されると、基礎年金給付費の1/2を国庫等が負担する仕組みになっているため、現在の見通しよりも国庫等の負担が自動的に増加する。基礎年金の国庫負担は、社会保障・税一体改革で消費税率が引き上げられることになった大きな要因であり、前述した政府提案が実現されていない要因でもある。
この問題への対応策には、考え方の整理と代替財源の確保の2つが考えられる。
考え方の整理は、上記の国庫負担の増加が真の増加であるかの整理である。基礎年金の水準低下が現在の見通しよりも改善されると、国庫負担も現在の見通しより増加する。しかし、現在の基礎年金水準や国庫負担水準の見通しは現行制度が国会で成立した当時(2004年)の将来見通しを下回っており、前述の対策で増えても2004年の見通しを下回る。つまり、現在の見通しより増えたとしても、それは当初の国民合意の内枠にとどまるので問題ない、という整理もあり得よう。
しかし、現在は国家財政を健全化している最中であり、追加的な費用を当面の増税等で賄わなければ、将来世代にツケを回すことになる。増税等の1つは、2020年から実施される公的年金等控除の見直しである。この見直しでは、公的年金等収入が1000万円を超える場合や公的年金等以外の所得金額が1000万円を超える場合が主な増税の対象となる7。
これ以外に考えられる方法は、高齢の高所得者に対して、基礎年金給付の国庫負担分を削減する方法である。実現には至っていないが、2012年の社会保障・税一体改革の際にも議論された案である8。また、基礎年金の水準が改善することで、高齢者への生活保護給付費用が減る効果も考えられる。
これらの財源で追加的な費用の全額をまかなえるかは不透明だが、逆進的な給付削減を回避する効果も考慮した検討が必要だろう。
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(7)詳細は、梅内俊樹(2019)「公的年金等に係る税制について」『研究員の眼』2019.3.25 を参照。
(8)> 財務省は、在職老齢年金廃止の際にはこの見直しも検討すべきとしている(内閣府 経済・財政一体改革推進委員会 社会保障ワーキング・グループ 2019.4.26 資料1-1 p.107)。所得再分配の観点からは納得的な案だが、財源面では、在職老齢年金廃止で増えるのは厚生年金の給付費であり、この見直しによる国庫負担の減少とは直接的な関係がない。
中嶋邦夫(なかしま くにお)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任
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