もし1億円あったら?イメトレしてみよう

お金が持つ3要素のグラデーションやバランスが変わっていくならば、私たちのお金に対する価値観も変わっていくはずではないだろうか。

「少なくとも、『信頼』がお金の専売特許でなくなりつつあるので、お金があればあるほど幸せだという価値観はなくなっていくでしょうね。

行動経済学者のダニエル・カーネマンたちが、年収と幸福感についての研究をしています。最初のうちは収入が増えるにつれて幸福感も増していきます。

しかし、年収が7万5000ドルに達すると、それ以上年収が増えたとしても、幸福感は頭打ちになるそうです。

そもそも、人はお金を得たときではなく、使うときにこそ幸福感を感じるものではないでしょうか。お金は使って初めて意味を持つものですから」

ただ、有意義なお金の使い方をしたいのなら、訓練が必要だと松本氏は指摘する。

「日本では、お金をどう使うかといった教育や議論がなされないからでしょうか。お金の使い方を知らないからとりあえず貯金しておく。ボーナスが入っても、つまらない買い物をしてしまう人が多いように感じます。お金を使う選択肢が限られているのです。

本来ならば、中学生や高校生のときから、もし1億円あったら、何に使うかを生徒自身に考えさせるイメージトレーニングをすべきです。

ある生徒は『寄付をする』と言うかもしれませんし、『起業する』なんて発言する生徒も出てくるかもしれません。中には、『そんな使い方があったのか!』といった発想も出てくるかもしれません。

こうしたトレーニングの積み重ねが、お金を使う発想力を育んでいきます。お金を使うバリエーションが広がれば広がるほど、それだけ自分にとって満足のいくお金の使い方がわかってきます。

つまり、自分なりのお金に対する価値観が醸成されていくのです。とはいえ、大人になってからでも遅くはありません。自分が幸せを感じるお金の使い方を知ることは、人生100年時代を生きる私たちにとって、とても大切なことです」

ネットワークを広げ、人生のリスクに備える

長寿化によって、今まで以上に人生設計を慎重に考えなければならなくなった。こうした時代に、今後どう資産を形成していけばいいのだろうか。

「お金の在り方が変わったとはいえ、これからは『ネットワークさえあれば、お金がなくても生きていける』とはまだ言い難い。

むしろ、寿命が延びていくにしたがって、老後の資金が途中で底をついてしまうのではないかという不安を、多くの人が抱えています。

仕事をリタイアすると、お金を稼ぐのは難しくなります。そこで重要なのは、今のうちから正しい資産運用をしておくこと。

例えば、アメリカの巨大銀行が発行する満期5年の劣後債を買えば、3~4%の年利を確保できます。

劣後債といっても、巨大銀行が5年後に破産する心配はまずありませんから、ローリスクで安定した運用が可能になり、長生きリスクを減らしていくことができます。

ただし、『お金さえあれば安心』というわけではありません。会社や仕事以外に広いネットワークを持っている人ほど、健康寿命が長いという研究結果も発表されています。

そうした人的ネットワークがあれば、病気をしたときにはよいお医者さんを、トラブルが起きたときにはよい法律家を友人から紹介してもらえるようになります。

老後の資金が不安になったときには、『それならうちの家が空いているから、安く貸すよ』と声をかけてくれる人が現れるかもしれません。

正しい運用によってお金を確保しつつ、ネットワークを広げる努力を40代のうちから始めることが大切です。

意識的に取り組んでいる人と、そうでない人とでは、10年後に大きな差が広がっていくことになります」

松本大(まつもと・おおき)
マネックスグループ㈱代表執行役社長
1963年、埼玉県生まれ。87年、東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズを経て、ゴールドマン・サックスに勤務。94年、30歳で同社最年少ゼネラル・パートナーに就任。99年、ソニー〔株〕との共同出資でマネックス証券〔株〕を設立。2015年11月より現職。現在、事業持株会社であり、個人向けを中心とするオンライン証券子会社を日本・米国・香港に有するグローバルなオンライン金融グループであるマネックスグループ〔株〕およびマネックス証券〔株〕両社のCEOを務める。《取材構成:長谷川敦写真撮影:まるやゆういち》(『THE21オンライン』2019年06月13日 公開)

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