大量のデータがあれば、どんな人物像も割り出せる

プロファイリングとは、元々の意味は犯罪捜査などにおいて、さまざまな証拠から犯人像(性別や体格、趣味や嗜好など)を推理すること。IT用語では、検索履歴や購買履歴などのウェブ上の行動データから、ユーザーのプロフィールを明らかにすることを指します。

ビッグデータやAIの進化がもたらしたのが、仮想空間上でのプロファイリングの精度向上です。今までコンピュータは、あるユーザーがどのような人物なのかを正確に割り出し、把握することはできませんでした。もちろん、ユーザー側から属性データを登録してもらうことは可能ですが、そこに書かれたことが正確な真実なのかどうかは不明です。

しかし、ウェブ上でさまざまな行動データを取ることで、ユーザーの人物像を推測できるようになりました。たとえば、

「この人は東京都内に住む、40代の既婚女性」
「職業はサービス業の管理職」
「世帯年収は○○○万円」
「子どもは1人、小学生の女の子」
「趣味はヨガと旅行とスイーツ」
「サッカーファンで、日本代表の試合は欠かさず見る」

といったレベルまで、ある程度正確に予測できてしまうのです。行動データの量が増えるほど、精度は増していきます。

情報,嶋田毅
(画像=THE21オンライン)

プロファイリングは企業行動を大きく変える

これは企業にとって非常に有用なデータになります。プロファイリングが完全にできていれば、購買などの行動に連動せずとも、レコメンデーション(特定の顧客のデータを分析して、その顧客が好みそうな製品・サービスを案内して購買を促すこと)が可能です。たとえば、前出の40代の女性で言えば、「中学受験予備校の案内」「中年女性向けのサプリや漢方薬の案内」「2022年のサッカーカタールW杯の旅行ツアー案内」などがタイムリーに届くのです。

プロファイリングが重要になる分野として、「企業の採用」があります。新卒、転職を問わず、入社希望者の情報について、AIなどがクローリング(ウェブ上の関連する情報を集めていくこと)することで、面接などを行わなくても、人となりや能力をかなりの精度で推察することができるでしょう。

昨今、就職活動を意識したSNSであるリンクトインなどのサービスがありますが、そこに書いてある情報以外も考慮した上で、企業側は採用活動を行うことができます。SNSに書いた不用意な一言で内定を取り消されたなどという話がしばしば話題になりますが、企業側からすると、そうした事前のリスク回避が、よりやりやすくなるわけです。

技術面ではなく、倫理面での課題も多い

ただ、プロファイリングには、技術的な問題を超えて、倫理的な問題も生じてきます。たとえば、レコメンデーションであれば、消費者はそれを買わなければ済むだけです。しかし、企業の採用のような、人生を左右しかねない大きなイベントにおいて、クローリングまでして集めたデータを活用することが、本当に許容されるべきなのでしょうか?

また、プロファイリングの技術がもっと進めば、匿名掲示板などにおける匿名の投稿なども、文体や書かれた内容から、本人をかなりの精度で特定できるようになると予測する専門家の声もあります。そうすると、たとえば目の前の入社希望者が、匿名の投稿でヘイト的な発言をしている可能性がほぼ100%の確率で分かったからといって、それを理由に入社を断ってもよいのでしょうか?

さらにこの傾向が進み、過去に何の犯罪歴もない人についても、「彼は通常の人物より高い確率である種の犯罪を起こしやすい」などと政府や企業が判断するような時代になったとしたら、どうでしょうか。それは、社会としてより良い方向に進んでいるのでしょうか。ウェブを通じて人間の情報はどんどんデータ化されていく時代ですが、一定の線引きを考えることも必要かもしれません。

嶋田毅(グロービス経営大学院教授)
(『THE21オンライン』2019年06月14日 公開)

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