40~50歳代といえばビジネスパーソンならある程度の役職についている黄金期ともいえる年代です。しかし体力が勝負のスポーツの世界では多くの人が引退している年代でもあります。こういった常識を覆し40~50歳代でも現役を続けるレジェンド選手がいることをご存じでしょうか。彼らがどんなマインドを持ち続けたのかを探ります。
コツコツと同じことを続けられる気持ち プロ野球・山本昌
人間には大きく分けて「一つのことをコツコツと続けるタイプ」「常に新しいことに挑戦するタイプ」の2つがあります。それぞれに個性が違うため、どちらかに是非をつけることはできません。50歳まで現役を続けた元プロ野球中日ドラゴンズの山本昌は前者の代表といってよいでしょう。山本昌(本名・山本昌広)は1984年に日本大学藤沢高校からドラフト5位で中日ドラゴンズに入団しました。
3年目までは1軍未勝利の状態が続きましたが、入団5年目のアメリカ留学を機に才能が開花し、その年のリーグ優勝に貢献。その後はチームのエースとして活躍し、2006年には史上最年長の41歳でノーヒットノーランという偉業を成し遂げます。2015年に史上初の50歳での登板を最後に、現役を引退しました。実働29年は日本プロ野球界の歴代最長です。
テレビ番組取材班から長く現役を続けられた秘訣を聞かれた際に、「決めたことをコツコツとやる。それだけですね」と語っています。それは、中日ドラゴンズに在籍し続けることにも繋がったのかは定かではありませんが、中日ドラゴンズひとすじ、その現役生活は実に32年間に及びます。通算成績の219勝はまさに、決めたことをコツコツとやった積み重ねでできているのです。
さらに成長できると信じる気持ち サッカー・三浦知良
現役で活躍し続ける選手の代表といえば、サッカーのキングカズこと三浦知良です。2019年8月の時点で52歳となり、Jリーグ発足時からプレーを続ける唯一の選手として横浜FCに所属しています。サッカーは体力の消耗が激しく20代で引退する選手が多い中、なぜこの年齢まで現役を続けることが可能なのでしょうか。
カズを支えたのは「さらに成長できると信じる気持ち」です。文春オンラインの単独インタビューでこの年齢からさらに伸びる余地について質問され、以下のように回答しています。
「もちろん、あると思ってる。それを目標にやらないと、少しでもよくなるだろうと思ってやらないとやれないよね。去年よりダメだろう、マイナスになるなと思ったらできない。このメニューをこなせば、去年よりきっとよくなる、と信じてやっているから」
しかし、そのあとに「でも現実はそんなには甘くないけどね」とも付け加えています。いつかは引退する日が来るのは分かっていても「少しでも長くピッチに立ちたい」というカズの葛藤がみてとれるのではないでしょうか。
新しいことを受け入れる気持ち スキージャンプ・葛西紀明
新しいことを受け入れるというのは意外と難しいものです。とくにある程度の年齢になると、すでに自分の価値観や生き方が確立されているため、新たな提案を自分の中で消化するのは容易なことではありません。スキージャンプのレジェンド、葛西紀明はこの難題を見事にこなした一人です。葛西が、ソチオリンピックで初めて個人メダルを獲得したのは実に41歳のときでした。
これまでに8回冬季オリンピックに出場していますが、その中のソルトレークシティ大会では散々な成績に終わり、大きな挫折を味わいました。そのとき葛西は「もう自分にはこれ以上進歩はないかもしれない」と思ったそうです。しかしその後フィンランド人のコーチにつき、新しい練習メニューを取り入れてみたところ、次第にやる気が戻ってきて成績も上がるようになりました。この経験を通して葛西は以下のように話しています。
「それまでの私は競技生活がすでに長かったこともあり、既存の価値観に縛られていました。自分のやっていることが全てと思い込み、練習内容なども自分のやり方を曲げずに、新しいことをしようとしなかった。でも、打ちのめされたことで、もう一度ゼロからやり直そうという気持ちになり、新しいものを受け入れてみる気持ちになった(THE21ONLINEインタビュー)」
「新しいことを受け入れる気持ち」がもたらした開眼といえそうです。
ほどほどを大事にする気持ち プロ野球・上原浩治
「腹八分目に医者いらず」という金言がありますが、ほどほどを大事にして日米で長く活躍したのがプロ野球選手の上原浩治です。2019年5月に引退を表明しまし日米通算20年間で134勝93敗128セーブ104ホールドの成績を残しました。先発投手としても一流の上原でしたが、さらにすごいのが抑えとして100以上のセーブ、中継ぎとして100以上ホールドをあげ、勝利数100勝以上と合わせて「トリプル100」の偉業を達成したことです。
日本人では初の偉業ですが、サンスポのインタビューの中で43歳まで活躍できていることに対し体のケアやこだわりの質問に、以下のように回答しています。
「睡眠が一番かな。あとはやり過ぎないことですよね、練習を。やっぱり試合に100%を持っていかないといけない。練習で100%を持っていっても何も意味がないので。練習はある程度ほどほどにして、試合に100%を持っていけるように」
若いころとは違い無理をすれば反動があります。長い現役生活のためには、ほどほども大事であることを上原の言葉は示唆しているといえるでしょう。ビジネスパーソンであれば、こまめな休憩、労働時間の管理などがこれにあたるでしょうか。
先のことを考えない気持ち スキージャンプ船木和喜 ゴルフ青木功
「先のことを考えない」というのは、ビジネスの世界であれば無計画という非難を受けるかもしれません。しかしスポーツの世界ではまったく違う意味の言葉となります。「いつまで続けられるのか?」という質問に対して現役を長く続ける選手は「何歳まで」と回答する人が少数派の印象です。「先のことを考えない」とは自分で限界を決めないこと。次のようなレジェンド選手の例を見るとよく分かります。
長野オリンピック、スキージャンプ金メダリストの船木和喜も限界の年齢を決めないレジェンドの一人です。船木は2019年8月時点で44歳ですが現役を続けています。しかもデサントを退社して自ら有限会社フィット(2006年に株式会社F.I.Tに社名変更)という会社を設立しました。企業オーナーと選手という二足のわらじで奮闘しており最大の目標は「オリンピックで結果を出すこと」と意気揚々です。朝日新聞のインタビューの中でも以下のように自ら引退の時期は決めないと明言しています。
「いまは経営と選手の時間が半々でバランスは取れていますが、経営が上回って練習が減らないようにしています。プロとしてやると決めた以上、僕の夢を買ってくれるスポンサーが一つもなくなった時点で、現役引退です」
またシニアゴルファーの青木功は、ツアー通算85勝をあげ、日本ゴルフツアー機構の会長を務める、ゴルフ界のレジェンドです。現役生活60年を超えるキャリアを誇る青木はゴルフネットワークのインタビューの中で、若い人たちへのアドバイスを以下のように語っています。
「自分がどれだけ稼げるかとか、勝てるかとか、目標を持つのはいいけど、あまり先のことを目標にすると、まだ時間があるなとか考えちゃうから、その場その場で考えたほうがいいかな」
その道を極めた人だからこそいえる言葉ですね。各分野のレジェンドの言葉に触れると現役生活を長く続けているスポーツ選手の秘密は、体力ではなくマインドにありそうです。(提供:Wealth Lounge)
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