中国への注目がますます集まっている。先週(7日(北京時間))、メルケル独首相は訪中し習近平国家主席、李克強首相と続けて会談を行なった。この訪中で注目されたのが、メルケル首相が香港問題への対応を中国へと要望したことである。それ以後、蜜月を続けてきた中独関係は俄かに距離を取り始めている。たとえば香港問題を巡り民主活動家である黄之鋒が訪独し、マース外務大臣と会談を果たした。同大臣は今後もこうした活動家との会談を行うことを明言しており、こうした姿勢に対して中国側は反発している。
米中貿易摩擦が一旦沙汰止みへと進んでいるかのように“演出”されている中、中国を巡っては更なる騒乱が生じ得るのである。なぜか。それは中国情勢が1930年代に近づきつつあるからである。本稿は中国問題を巡る今を考える。
中国が進めてきた「一帯一路」政策だが、その中核地域においても俄かに異変が生じている。中国から欧州までに至る過程で中央アジアはその重要地域である。去る11日には習近平国家主席とカザフスタンのトカイェフ大統領が永続的な包括戦略パートナーシップを強化することを決定している。またウズベキスタン当局は中国人に対して7日間のヴィザ・フリー体制を取ることを公言している。このように親中姿勢を深めているように見えるものの、去る3日にはカザフスタンで反中デモ活動が生じたのであり、新疆ウイグル自治区への中国当局による姿勢に対して反発が深まっている。
これに対し、「いや、そうした反発は今に始まったことではない」と思うかもしれない。しかし前述したドイツにおいて、こうした反中デモ活動に対して新たな動きが生じている。ドイツにおける反中デモ活動に対して中国の当局が内偵を行なっていること、それへの対策を緑の党が連邦政府に要求する事態になっているのだ。
筆者はこれを小さいが確実な“潮目”であると考えている。なぜならば、これを報道した主体が問題だからだ。これを報道した南ドイツ新聞(Süddeutsche Zeitung)はかつて「パナマ文書」事件を巡るリークの渦中にあるなど、欧州から始まる騒動の発端となってきたからだ。
戦前にもドイツは中国と親密な関係を築いてきた。「中独合作」と呼ばれる1910年から1940年代における両国の蜜月は、中国産業と軍隊の近代化に寄与してきた。しかし、これはそもそもプロイセンが英国に独占されていた対中貿易を自国にも開放させるべく動いてきたことの延長線にあるものであり、あくまでも中国という巨大マーケットを得るための動きだったことに留意すべきである。
そもそも米英による中国情勢を巡る駆け引き自体も1920年代から1930年代の動きのリフレイン(反芻)であるというのが卑見である。かつて大恐慌に陥った米国、その煽りを受けて不況が深刻化した欧州が求めたのは中国だった。
当時、中華民国は銀本位制を取っていた。つまり、中国が保有する銀塊がその通貨価値の根拠となっていた。そうした中、国内での要求を受けてローズヴェルト米政権(当時)は国内の銀買取政策を決定したのである。すなわち低迷した銀を買い支えるべく、マーケット価格よりも高い公定価格を設定し、国内中の銀を購入したのである。その結果、中国から米国へと銀塊が流出することとなったのだ(本件に関する詳細は本書を参照されたい)。
こうして通貨危機に至った中国に接近したのが、英国であり米国だったのである。通貨制度に関与することで自国に都合の良い制度を創り上げようとしたのである(もっとも最終的に改革を手伝ったのは我が国であったが)。華為技術を巡って両国がそのスタンスを相違するのも、究極的には「中国マーケット」を巡っての対立なのである。
このように歴史の教訓を認めるとすると、こうした努力もむなしく中国は分裂へと至ったことを想い出すべきなのである。すなわち、中国共産党が最も憂慮する事態である中国の分裂という事態が近づきつつあるのだ。だからこそ、香港の動向や台湾における中国との対立の深化は、決して無視してはいけない。我が国へのインパクトを常に考えるべきである。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット
リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。