個人金融資産(19年6月末):3月末比5兆円増
2019年6月末の個人金融資産残高は、前年比2兆円減(0.1%減)の1860兆円となった(1)。年間で資金の純流入が18兆円あったものの、昨年終盤等の株価下落によって、時価変動(2)の影響が年間でマイナス20兆円(うち株式等がマイナス19兆円、投資信託が1兆円)発生したことで、資産残高が目減りした。
四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(3月末)比で5兆円増加した。当該期間中には、米政権による対中関税引き上げなど米中摩擦の激化を受けて株安・円高が進んだことで、時価変動の影響がマイナス7兆円(うち株式等がマイナス6兆円、投資信託がマイナス0.1兆円)発生した。一方、例年4-6月期は一般的な賞与支給月が含まれることからフローで純流入となる傾向があり、今回も12兆円の純流入となったことが、資産残高の増加に寄与した(図表1~4)。
なお、家計の金融資産は、既述のとおり4-6月期に5兆円増加したが、この間の金融負債はほぼ横ばいであったため、金融資産から負債を控除した純資産残高も5兆円増の1536兆円となった(図表5)。
ちなみに、その後の7-9月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年資金の純流入が止まる(近年は±2~3兆円程度)。一方、これまでのところ、株価は6月末比で持ち直し、為替も安定的に推移しているため、時価変動の影響は10兆円前後のプラスになっていると推定される。従って、現時点の個人金融資産残高は6月末残高を10兆円前後上回っていると見込まれる。
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(1)今回、年次遡及改訂に伴い、2005年以降の値が遡及改定されている。
(2)統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
内訳の詳細: 流動性預金の資産に占める割合は過去最高を更新
4-6月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流入(積み増し)となった。内訳では、従来同様、流動性預金(普通預金など)が大幅な純流入となる一方で、定期性預金が純流出となった(図表7)。
定期性預金からの純流出は14四半期連続となっており、この間の流出規模は累計で37兆円に達した。預金金利がほぼゼロの状況が続くなか、引き出しに制限のある定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高はまだ424兆円も残っているため、今後も流出が続きそうだ。
一方、流動性預金は、超低金利を背景に定期性預金からの資金シフトが続いているほか、リスク性資産への投資があまり進んでいないこともあり、大幅な資金流入傾向が続いている。流動性預金が個人金融資産に占める割合は長らく上昇基調にあるが(図表8)、昨年半ばに定期性預金の割合を突破、直近6月末時点では25.1%と過去最高を更新している。
リスク性資産に関しては、代表格である株式等(1.1兆円の純流出)、投資信託(0.4兆円の純流出)がともに純流出となった(図表6)。6月には金融庁審議会の報告書を発端として、「老後資金2000万円問題」が注目されたが、家計におけるリスクテイクの活発化はまだ確認できない。
ただし、全体から見ると規模こそ小さいものの、外貨預金(約2200億円の純流入)や確定拠出年金(401k)内の株式等・投資信託(約1300億円の純流入)への資金流入は続いている(図表9)。外貨預金の増加は金利を求めた一部資金がリスクを取りながら海外へと流れていることを示唆している。一方、確定拠出年金(401k)内の株式等・投資信託の増加は、401kを通じた投資という政策的な効果がじわりと浸透してきていることを意味している。
その他注目点: 海外勢の国債保有高が過去最高を更新、企業の対外投資は堅調
2019年4-6月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、昨年10-12月期同様、家計と企業部門が資金余剰となる一方、一般政府と海外が資金不足となった。10-12月期との比較では、企業と家計の資金余剰減少(企業1.2兆円減、家計4.0兆円減)が目立つ。企業は海外経済減速に伴って収益が減少したこと、家計は所得が伸び悩む中で増税前の駆け込み需要が一部発生したことが資金余剰減少に繋がった可能性がある。
6月末の民間非金融法人のバランスシートにおける借入金残高は412兆円と3月末からほぼ横ばいとなったが、前年比では17兆円増加している(図表11)。また、社債等の債務証券も71兆円と前年比で4兆円増加している。このように、企業債務の増加が目立ってきた一方で、現預金残高(266兆円)は前年比6兆円増に留まり、現預金積み上がりペースが近頃鈍化している。
なお、4-6月の民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資は3.5兆円と、特殊要因とみられる1-3月期の10.2兆円(3)から大きく縮小したが、堅調に推移している(図表12)。また、対外証券投資もプラスを維持している。昨年半ば以降、米中摩擦が激化し、海外経済の減速感も強まっているが、今のところ、企業の対外投資に対する積極的な姿勢に大きな変化は見られない。
国庫短期証券を含む国債の6月末残高は1137兆円で、3月末から11兆円増加した。その保有状況を見ると(図表13)、日銀の保有高が3月末から8兆円増加し、全体に占めるシェアも43.5%(3月末は43.2%)へとやや上昇した。日銀は国債の買入れペースを減額させているため、ペースこそ鈍っているものの、金融緩和の長期化に伴って保有割合の上昇が続いている。
また、海外部門の6月末国債保有高は145兆円(3月末は143兆円)、全体に占めるシェアは12.8%(同12.7%)とそれぞれ3月末を上回り、過去最高を更新した。海外投資家による積極的な国債購入が続いている。海外投資家はドル調達コストの関係で有利な条件で円を入手できる状況が続いており、たとえマイナス金利への投資であろうと、トータルでのプラス利回りが確保できるためだ。また、4-6月期には欧米中銀による緩和観測から、海外金利が低下し、金利低下が小幅に留まった日本国債の魅力が相対的に高まったことも増加に寄与したと考えられる。
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(3)国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&Aが完了したことが影響したものと推測される。
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上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト
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