はじめに~東京における商店街の役割と、商店街が抱える課題
訪日外国人客(訪日客)を対象とする観光業はこれからも持続的成長が期待される分野の1つである。しかし、最近の訪日客数全体の伸び率には減速傾向が見られる。これまで増加を牽引してきた国において訪日需要が一巡してしまっている可能性はないだろうか。
2018年までの訪日外国人客数の動向
訪日外国人客(訪日客)を対象とする観光業はこれからも持続的成長が期待される分野の1つである。2018年の訪日客数は3,119万人となり、2012年以降、着実に増加している。不動産市場においてもインバウンド需要の影響力が強まっており、訪日客に人気の高い心斎橋(大阪)やニセコ(北海道)、富士山麓(山梨、静岡)などの土地価格は大きく上昇している。
もっとも、訪日客数全体の伸び率は減速傾向がみられ、やや気になるところだ。2017年までは前年比2ケタの伸びを示していたものの、昨年は8.7%、今年(1~8月)は3.9%に低下し、8月単月は11ケ月ぶりにマイナスとなった(図表-1)。もちろん、昨年は日本で頻発した自然災害の影響、今年は日韓関係の冷え込みの影響が大きいと思われる。しかし、2011年から2018年の7年間で訪日客が5倍に膨らむなか、これまで増加を牽引してきた国において訪日需要が一巡してしまっている可能性はないだろうか。
アジア4カ国における訪日外国人客数の動向
2018年の訪日客数を国別にみると、1位が中国(占率27%)、2位が韓国(24%)、3位が台湾(15%)、4位が香港(7%)となり、4カ国(以下、アジア4カ国)で全体の約3/4を占める。また、この4カ国について、前年比の増加率(2018年及び2019年1~8月)をみてみると、中国が全体を上回る伸びを示す一方で、韓国・台湾・香港(以下、主要3カ国)は鈍化し、特に、今年は台湾が0.0%と横ばい、香港が▲0.2%、韓国が▲9.3%と落ち込みが目立つ(図表-2)。
アジア4カ国の初回訪日客数が全体に占める割合
ところで、中国と主要3カ国について訪日客の属性(2018年)を比較した場合、全体に占める「初回訪日客」の割合に大きな違いが見られる(図表-3)。「初回訪日客」の割合は中国が54%であるのに対して、韓国は29%、台湾は18%、香港は14%となっている。つまり、中国は初めて日本を訪れる人が依然として半数以上を占めているのに対して、主要3ケ国ではこれまでに日本を訪れた経験を持ち日本をよく知る「リピーター」が中心となっていることが分かる。
アジア4カ国の初回訪日客数の人口比
さらに、初回訪日客の累計数(2003年から2018年)を対人口比で比較すると、中国が2%であるのに対して、韓国は29%、台湾は35%、香港は37%である(図表-4)。中国以外の主要3カ国では、一度でも日本を訪れたことのある人が既に総人口の3~4割を占めており、訪日経験者の割合が他の国より著しく高くなっている。もちろん、残る6~7割の人が日本をこれから初訪問してくれる余地はあり、これをもって訪日需要が一巡したとは断言できないものの、主要3カ国からの訪日客の回復には「リピーター」の取り込みに向けた一層の訴求が求められそうだ。
上位5-15位の国籍・地域の初回訪日客数の人口比
一方、アジア4カ国以外の国に目を向けてみると、訪日外国人客数は着実に増加している。訪日外国人客数上位5-15位の国籍・地域における増加率は、アメリカ(2019年1~8月、前年比+12%)、ベトナム(+29%)、イギリス(+9%)、カナダ(+10%)などの国が大きい(図表-5)。これらの国の初回訪日客の累計数(2003年~2018年)の人口割合は、アメリカが2%、ベトナムが1%、イギリスが2%、カナダが4%であり、今後の訪日牽引役となる可能性もありそうだ(図表-6)。
おわりに
足元では日韓関係の冷え込みがインバウンド需要の先行きに影を落としている。しかし、これまでも観光業は対外的な政治問題や災害による影響を受け続けてきた産業である。そうした中においても、ビザ条件の緩和や日本固有文化を伝える訪日プロモーションなど官民一体となった取り組みによって、訪日外国人客数は増加してきた。オリンピックの年でもある2020年には年間4,000万人という政府目標の達成も視野に入り、2030年には訪日外国客数6,000万人という目標も控えている。今後とも需要層のニーズをきめ細かく汲み取ることで、さらなる増加に向けた努力が求められる。
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渡邊布味子 (わたなべ ふみこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員
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