国民の健康寿命のさらなる延伸と、医療・介護サービスの効果的・効率的な提供を目指した「データヘルス改革」による、健康・医療・介護分野のデータ利活用による新たなサービスが2020年度稼働する予定である。

本稿では、予定されている8つのあたら棚サービスの整備状況と今後の展望を紹介する。

健康・医療・介護分野でのデータの利活用に向けたこれまでの動き

データヘルス改革,データ利活用
(画像=PIXTA)

健康・医療・介護分野でのデータ集積と活用のための新たな情報基盤が整備されつつある。政府の未来投資戦略で掲げられている健康寿命のさらなる延伸と効果的・効率的な医療・介護サービスの提供を目的として、健康・医療・介護のデータの連結に向けたICTインフラの改革と、ゲノム解析やAI等の最先端技術の医療への導入を目指す「データヘルス改革」の一環としての取り組みである。

この情報基盤は、これまで健康・医療・介護等分野でバラバラに蓄積されてきたデータを連結し、医療や介護サービスの質の向上、効率化を図るためのもので、2020年度に本格稼働する予定である。この基盤を使った医療・介護サービスの概要は、2016年10月に公表された「保健医療データプラットフォーム(「保健医療分野におけるICT活用推進懇談会」報告書(1))で示されていた(2)。

具体的な検討のために、2017年1月、厚生労働省内に「データヘルス改革推進本部」が設置された。データヘルス改革推進本部は、同年7月に、データヘルス改革で2020年度に実現する8つのサービスをまとめた「国民の健康確保のためのビッグデータ活用推進に関するデータヘルス改革推進計画」を公表し、2018年7月には、各サービスの提供開始に向けた詳細な工程表を策定した。

さらに、今年9月に工程表の進捗確認と、2021~2025年度(第2期)に向けた推進計画工程表が公表した。本稿では、9月に開催されたデータヘルス改革推進本部の資料に基づき、各サービスの整備状況と今後の展望を紹介する。

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(1)団塊ジュニアが65歳に到達し始める2035年を見据えて示された「保健医療2035提言書」を受けてまとめられたもの。
(2)村松容子(2017年4月)「既往症や服薬歴の一元管理と利活用」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター

データヘルス改革で提供されるサービスの概要と現在の整備状況

●提供サービスの全体像

データヘルス改革で実現が予定されているのは、以下に示す5分野8つのサービスである(図表1)。

これに先駆けて、データの連結や利用のために、これまで世帯単位だった被保険者番号を個人単位化し、個人単位の被保険者番号を使って各種受診等データと資格情報が1対1で対応できる環境が整った(オンライン資格確認)。

データヘルス改革,データ利活用
(画像=ニッセイ基礎研究所)

●各サービスの進捗

各サービスの進捗は図表2のとおりである。2020年度のサービス提供に向けて、健康保険法等の一部改正や母子保健法等改正等を行いながら、システム構築が進められている。

データヘルス改革,データ利活用 データヘルス改革,データ利活用
(画像=ニッセイ基礎研究所)

●2021~2025年度(第2期)の予定

2021年度以降は、2025年度までを第2期とし、これまで進めてきたサービスの延長として、「ゲノム医療・AI活用の推進」「自身のデータを日常生活改善等につなげるPHRの推進」「医療・介護現場の情報利活用の推進」「データベースの効果的な利活用の推進」を実施項目として挙げた。

ゲノム医療では、現在、がんのパネル検査が既に保険診療が可能となっているが、今後は一部の遺伝子情報を活用するパネル検査だけでなく、全ゲノムの活用を推進するとしている。また、データベースの効果的な利活用の推進においては、医療機関等で蓄積されているデータ等を、患者個人が選択して容易に持ち運ぶことが可能となる「データポータビリティ」などについて議論される予定である。

今後検討される内容と課題

基盤構築については、上記のように、おおむね2020年度を目指して進んでいるようである。

しかし、取り扱う情報、すなわち、何の項目を集積し、どの項目を誰に開示するか決まっていないデータベースも多い。たとえば、40~74歳が受けることになっている特定健診については、どの健診機関で受診してもおおむね同じ項目の検査が行われる。一方で、妊婦健診に関しては、健診自体が標準化されていないほか、補助券方式の自治体においては検査結果の把握が困難な状況である。

また、標準化されているデータであっても、健診結果は確定診断ではなく、スクリーニングの一環であり、確定診断と同様に扱うには不向きなのではないかといった意見もある。科学的介護を実現するために、現在の介護関連DBを補完するデータを収集するデータベース(CHASE)では、当面の集積項目が決まったが、介護サービス事業所での負担に配慮しながら、見直すことも想定されているようだ。

さらに、個人の閲覧に関しては、個人に健診等結果の解釈を任せるのは、医学的に安全性や効果を担保できない可能性があること等が指摘される等、稼働に向けて検討が必要な課題は多い。

2020年度に向けて、議論が進み、データの利活用が進展することを期待したい。

村松容子(むらまつ ようこ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

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