円満な相続が普及することを目的に活動をしている一般社団法人 日本相続学会。その副会長を務められる吉田修平弁護士に、家族間で相続について話し合うコツをお聞きします。相続人と被相続人それぞれに対してアドバイスしていただきました。

事前の話し合いによって、相続対策をスムーズに進めやすくなる

日本相続学会,吉田修平,相続問題,家族,インタビュー
(写真=Wealth Lounge編集部)

━━はじめに相続人の立場の方々へのアドバイスをお願いします。日本ではお金のことを家族で話し合うことを嫌う傾向があります。そのため、相続のことを話し合おうと被相続人に突然切り出して引かれてしまうこともあるようです。相手(例えば親)の抵抗感がないように、自然に切り出す方法はあるでしょうか。

相続発生時の善後策を事前に考えるのは非常に大切なことです。ただ、これまでの経験に基づき私見を申し上げれば、「こうすればスムーズに話し合える」という一般的な方法論は存在しないと思います。

なぜなら、財産の内容はもとより、被相続人の性格や病気の有無、家族構成など、相続にかかわる要素は千差万別だからです。ですから話し合いにおいても、これらを加味しながらケースバイケースで最適な方法を探っていかなければいけません。ただ相続に関わる要素をしっかり整理できているなら、話の切り出し方はいくつかあるかもしれません。

たとえば、親戚や友人・知人の法事などをきっかけに切り出してみる。あるいは、ニュースなどで相続が取り上げられたときに話してみる。人によっては、ストレートに相続について話したいと伝えてみるのもいいかもしれませんね。いずれにしても、話す内容をしっかり準備した上で、自然に切り出すことが大事です。

具体的な切り出し方はそれぞれですが、事前の話し合いはタイミングと内容さえ見誤らなければ、スムーズな相続対策へと移行できる可能性があります。

また、よくある切り出し方としては、相続税をテーマに話をはじめるのも有効です。「税金を余分にとられないにはどうしたらいいか」という共通の目的を持つことで協力関係を構築しやすくなります。

しかし、ここで気をつけなければいけないこともあります。それは「相続税対策と相続対策を混同してはいけない」ということです。

「相続税対策」と「相続対策」はまったくの別ものと考える

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(写真=Wealth Lounge編集部)

━━この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。

相続税対策とは相続税を余計に払いすぎないようにするための方法です。一方、相続対策とは、相続発生時にすべての相続人が納得しやすい内容を用意して大きなトラブルに発展しないようにすることです。

両者を混同してしまうことで、被相続人と相続人が事前によく話し合っていたのにもかかわらず、いざ相続が発生したら訴訟に発展したケースも少なくありません。

たとえば、不動産分野で考えると、相続税を圧縮したいという目的で、借金をしてマンションを購入するのはあくまでも相続税対策です。うまくいけば節税になるかもしれませんが、それがすべての相続人の幸せにつながるかはまた別の話です。なぜなら、その後、不動産の価格が大きく下落したりすると、資産価値は減少するのに、借金だけはそのまま残ってしまうからです。

相続税対策と相続対策は、名称は似ていますがベクトルの違うものです。混同しないように注意しなければなりません。

━━両者を混同しないためには、知識のない人が1人で進めるよりも、士業の先生や相続にくわしい専門家に相談したほうがいいように感じます。

まさにその通りです。それも、なるべく早いほうがいい。

相続の準備をする際、被相続人の所有する財産の全貌が分からず、誰にどのように分配するか決められないといったケースはよくあります。この場合、そもそも相続財産にはどのようなものが含まれるのか、また、これらのひとつひとつは一体いくらと試算できるかなど、現状分析をすることがスタートになります。

もし、相続財産が預貯金だけなら相続人の割合に応じて均等に分配すればいいため、トラブルになることは、ほぼありません。しかし実際には、こういったケースはまれです。ほとんどの方は現金以外の財産も有しています。

不動産だけで考えても、さまざまな複雑な形態があります。たとえば、入り組んだ敷地に建物がある、共有不動産を持っている、借地をしているなど……。そのため、財産整理は一般の方では判断がつかないことも多い。やはり専門家へ相談して調べてもらうのが安心です。

なにも問題が起きていない段階の早めの相続対策が鍵を握る

━━相続対策は安易に考えないことが大切なんのですね。ここから先は被相続人になる方へのアドバイスをお願いできますか。

じっくり相続対策を考えるという意味でいえば、相続人のうち、「誰が、いつ、どのような幸せを欲しいと考えているか」を明確にした方がいいでしょうね。また、財産を受け取るタイミングを被相続人の生前と死後どちらにしたいのか、も考えるべきです。

合わせて、被相続人が認知症などになったときの対策、相続人の配偶者が死亡した際の相続(二次相続)、兄弟・姉妹間の関係性なども考えなければなりません。つまり、相続財産がいくらになるのかだけではなく、相続にかかわるすべての問題を総合的に考える必要があるのです。

相続の専門家は、こういった諸問題を経験や知識から冷静に判断することに長けています。だからこそ、専門家に相談する必要性があるのです。

さらに、被相続人が存命中にしかできないこともあります。こういった判断も専門家ならしやすい。よく「相続対策はなるべく早く」と言われますが、これは何かが起きてからすぐにではなく、「なにも問題が起きていないうちに早く」という意味合いなのです。

被相続人がリーダ-シップをとって話し合うことも大切

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(写真=Wealth Lounge編集部)

━━お話を伺っていると、相続対策は期間をかけて丁寧に話し合っていくしかないという思いが強くなりました。だからこそ、早くはじめるべきなのですね。

本当にそうです。土地ひとつをとっても、4代前、5代前に相続したものの所在が明らかでない不動産や、隣地との境界がハッキリとしない土地、被相続人しか知らない遊休地などがあります。

あるいは隠れ借金がある、誰かの連帯保証人になっているといったケースも少なくない。ほかにも、先妻との間にお子さんがいるが連絡をとっておらず所在不明である。海外での結婚経験があり他国に相続人の知らないお子さんがいる。また、共有相続財産があり所有している土地の登記の名義人が海外に移住しているなど、相続人を探して連絡をとることに時間も費用も多くかかる事例も少なくありません。

特に海外の場合は、領事館を通しても、相続人がなかなか見つからないといったこともあり、事情をよく知る被相続人本人が亡くなってからだと、相続人を確定するだけで何ヶ月もかかることもめずらしくありません。

実際、一番多く問題を生ずるのは、なにもせずにいて、大きな問題になってから相談をいただくケースです。事前に対策をとったり、話し合いをしたりしているというケースは少数派です。

問題が起こる前に対策をして損をすることは何もありません。相続人間の意見が折り合わずトラブルに発展する前に被相続人本人が専門家に相談をして、家族を集めて話をするというのは、非常に有効な相続対策です。

他国の話ですが、イタリアやフランスなどでは被相続人が家族を集めて遺産分割について話し合い、皆で公証役場に行き、家族間の合意や家族の契約といった形で遺産の分配を決定するという方法をとることもあるようです。

残念ながら日本に同じ制度はありませんが、被相続人がリーダーシップをとって、相続後の家族のことを考えるというのが大切なのは同じです。これは家族間の関係や背景を深く知らないため、弁護士でもカバーできない部分です。

相続について話し合う場を設けるならば、誰がどのような幸せを求めているかを知り、相続財産などもすべて把握している被相続人が中心となって専門家の力を借り、全員が納得する道筋を見つけ出すことも大切です。

そのために、被相続人が元気なうちに一度専門家のもとへ訪れるほうがより良い結果につながるでしょう。

━━最後に、これまでのご経験を基に、これだけは読者に伝えたいというメッセージをお願いします。

特に被相続人になる方に伝えたいことがあります。私の知る範囲では、ワンマンという意味でない強いリーダーシップを持っている家長(被相続人)のいる家では、あまり相続トラブルというのは無いように思われます。これは、しっかりした家長が、元気なうちに様々な有効な対策をとっているからだと思います。強いリーダーシップをとる家長がいることで、防ぐことのできるものは多々あります。

被相続人自身や家族の未来を見つめ、将来みんなが相続問題に巻き込まれないようにする。被相続人がそういった強い想いを持つことが、円満な相続のための話し合いの第一歩になると思います。(提供:Wealth Lounge

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