不動産投資のリスクを、実際に現場で起きている問題から学ぶ!

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(画像=VoviiiK/Shutterstock)

不動産投資のトラブルは、ミクロで見るとさまざまな事情や状況で多岐にわたりますが、法的な結論はシンプルで、いくつかのポイントを抑えておけば、トラブル回避は充分に可能です。そこで、私たち弁護士が実際に相談を受けた案件から、よくあるトラブルをご紹介。なぜ問題が生じたのか、そしてどのように解決したのかをわかりやすく解説します。

入居者に言われた修理依頼は何でもやらないとダメ?

ヴェリタス・インベストメント
(画像=ヴェリタス・インベストメント)

兵庫県在住 山本さん(64歳、女性)からのご相談

投資物件として、神戸市内にいくつかマンションを所有し賃貸に出しています。

先日、そのうちの1つのマンションの賃借人から、エアコンが壊れて動かないので修理してほしいとの連絡がありました。この物件については、もともとエアコンが付いている状態で貸していますので、壊れたということであれば大家である私が修理しないといけないような気もするのですが、壊れたというエアコンは2年ほど前に取り換えたばかりで、普通に使っていれば壊れることはないと思っています。

また、他のマンションの賃借人からは、畳を新しくしてほしいと言われました。たしかに、この物件の賃借人は、私にオーナーチェンジする前から居住していて、トータルで20年近く借りてもらっています。

そこで、ご相談ですが、エアコンの修理や畳の交換は、大家の方で費用を負担してやらなければならないのでしょうか。  

よくあるトラブル⓲「設備の不具合」

これで解決!

大家は借主が物件を目的に沿って使用できるようにする義務を負っています。そのため、貸した当初にあった設備等が壊れたりして使用できなくなった場合には、大家には、原則として修理等をする義務があります。ただし、借主の故意や過失で設備等が壊れてしまった場合には、例外的に、その修繕等は借主が行わなければなりません。

これが基本的な考え方ですが、現実にはどこまで大家が修繕義務を負うかは、なかなか難しい問題です。この点について裁判所は、「賃貸人の修繕義務の存否及びその範囲・程度は、契約で定められた建物使用の目的、実際の使用方法・態様との関係で相対的に決せられるべきであり、修繕が可能であって、修繕をしなければ契約の目的に即した使用収益に著しい支障が生ずる場合に限って修繕義務があるというべきであるが、当該建物の経済的価値、賃料の額、修繕に要する費用の額等も考慮に入れて、契約当事者の公平という見地からの検討も加える必要がある」と判示しています(東京地方裁判所平成2年11月13日判決)。ただ、この裁判例を見ても、一律に答えがでるような単純なものではなく、最終的に修繕義務があるかどうかはケース・バイ・ケースで、裁判所の総合的な判断に委ねられることになります。

そうは言っても、ある程度類型化しておかないと、判断に迷ってしまって大変です。そこで、参考になるのが、独立行政法人都市再生機構(UR)の修理細目通知書です。この通知書には、URが借主に修繕をお願いしているものが列挙されています。たとえば、障子紙・ふすま紙の張替え、畳表の取替え・裏返し、畳縁・タオル掛け・ペーパーホルダー・帽子掛け・カーテンランナー・蛇口のパッキンやコマ・風呂場や洗面器、掃除用流しのゴム栓や鎖・排水口のゴム栓や目皿、ごみ受け・グリル皿及び焼網・電球や蛍光灯管・電池・網戸の網・エアコンフィルター・スイッチのひもの取替えは、借主負担とされています。

以上から、エアコンについては、故障に借主の故意や過失がなかったかを借主から聴き取ったり、修理業者に調査させたりして、借主に故意や過失がなければ、大家の負担で修繕をしないといけません。他方、畳については、URの基準に従えば、借主負担でお願いするものですので、借主に理解を求めるべきだと思います。

なお、このあたりの判断や借主への説明は、骨の折れる作業だと思いますので、管理会社に依頼してしまうのも1つの手段だと思いますが、大家が費用負担すべき修繕が発生した場合は当然に費用が免除されるものではありませんので留意が必要です。