9月の金融市場は、米中貿易対立の融和期待などを背景に前月までのリスクオフ(円高・株安・金利低下)の動きからリスクオン(円安・株高・金利上昇)へと転換しました(図表1)。通常であれば、上昇の続いていたJリート(不動産投資信託)市場は一息つくタイミングですが、東証REIT指数(配当除き)は9月も続伸し、年初からの上昇率は23%に達しています。各国中央銀行が金融緩和へと舵を切り金利低下の圧力が高まるなか、Jリート市場はインカム利回りを確保したい投資マネーの流入が続いており、足もとでは需給相場の様相を強めています。
ところで、市場が続けて上昇する局面では、投資家は陶酔感に包まれて本来の投資リスクをつい忘れてしまいがちです。好調な時にこそ、いま一度リスクをチェックし自らのリスク許容度に照らして適切な資金配分の確認が求められます。
あらためてJリートの開示資料を確認すると、あるリートの有価証券報告書には17ページにわたり48個の投資リスクが記載されています。もっとも、実際には不動産運用を担う資産運用会社の頑張り(善管注意義務及び忠実義務)や官民一体となったリート制度改革などによって、リーマン・ショック後の混乱期を除いて、これらのリスクが顕在化し投資家が深刻なダメージを蒙る事態は起きていません。
しかし、油断はできません。確率的には低いがひとたび発生すると大きな損失をもたらすリスクを「テールリスク」と言いますが、Jリート投資における「テールリスク」の1つとして、「東京の地震リスク」が挙げられます。
Jリートは全国の不動産に分散投資していますが、東京23区の投資比率が「50%」を占めます(図表2)。また、政府の地震調査委員会によると、今後30年以内に震度6弱以上の大地震に遭う確率は、首都直下地震や南海トラフ地震の影響を受ける太平洋側の確率が高く、東京は「48%」です(図表3)。2016年以降をみても、「熊本地震(16年4月、震度7)」、「大阪府北部地震(18年6月、震度6弱)」、「北海道胆振東部地震(18年9月、震度7)」など国内では大地震が頻発しています。
Jリートは「実質的に不動産に投資する金融商品」であり、大地震の発生を想定外と位置付けることはできません。Jリートの高い分配金利回りや過去の高い収益率だけに目が眩むことなく、各種リスク要因を十分に理解したうえで投資を進める必要があると思われます。
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岩佐浩人(いわさ ひろと)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 不動産調査室長
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